↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大罪人の娘・前編  作者: いずもカリーシ
第肆章 武器商人の都、京都炎上の章
PR
52/65

第四十九節 武器商人の都、京都と堺

作戦の『第一段階』が始動する。


「織田信長様が、武田勝頼様に和平の話を持ち掛けたいと?

それは良い話じゃ!」


『嘘』の話だとも知らず……

和平の橋渡し役を要請された、織田・徳川方(がた)と武田方の国境に接する2つの国衆(くにしゅう)[独立した領主のこと]は歓喜の声を上げた。


1人目は、織田家と武田家の国境に接している美濃国(みののくに)・恵那郡(えなぐん)[現在の岐阜県恵那市など]を治める遠山(とおやま)一族。

2人目は、徳川家と武田家の国境に接している三河国(みかわのくに)・設楽郡(したらぐん)[現在の愛知県北設楽郡]を治める山家三方衆(やまがさんぽうしゅう)である。


ところで。

2(・)人(・)の(・)国(・)衆(・)は(・)、(・)ど(・)う(・)し(・)て(・)歓(・)喜(・)の(・)声(・)を(・)上(・)げ(・)た(・)の(・)だ(・)ろ(・)う(・)か(・)?


これは、数か月前に起こった三方ヶ原合戦(みかたがはらかっせん)と同じタイミングで侵攻してきた秋山信友(あきやまのぶとも)[虎繁(とらしげ)とも言う]率いる武田軍に『降伏』してしまったからだ。

降伏したことで、織田・徳川方(がた)を裏切る形となってしまったが……

彼らにだってそれなりの言い分はあった。


「秋山信友は武田四天王の一人ではないが、それに匹敵するほどの実力の持ち主だと言っても過言ではない。

2年ほど前の『上村合戦(かみむらかっせん)』では、兵数でも地の利においても不利な状況であったにも関わらず……

『奴ら』に操(あやつ)られて迎撃してきた遠山一族の軍勢2,500人を完膚(かんぷ)なきまでに叩き潰し、同時に『奴ら』の手下となって甲斐国(かいのくに)で乱暴狼藉(らんぼうろうぜき)[殺人や強盗などの凶悪犯罪のこと]を働いた者どもを悉(ことごと)く討ち果たしたと聞く。

こ(・)ん(・)な(・)名(・)将(・)が(・)率(・)い(・)る(・)無(・)敵(・)の(・)武(・)田(・)軍(・)に(・)勝(・)て(・)る(・)わ(・)け(・)が(・)な(・)い(・)!」

と。


彼らの言う上村合戦とは、どんな戦いだったのだろう?

そして。

奴らとは一体、何者なのか?


 ◇


1570年12月。

三方ヶ原合戦(みかたがはらかっせん)の2年ほど前のこと。


この頃はまだ、織田家と武田家が『同盟』を結んでいた時期にも関わらず……

織田家に属する遠山(とおやま)一族が、自身へ向かって凄まじい早さで進軍する秋山信友(あきやまのぶとも)率いる武田軍を一方的に迎撃し、足止めどころか惨敗(ざんぱい)するという摩訶(まか)不思議な事件を起こしていた。


それにしても。

武(・)田(・)軍(・)が(・)織(・)田(・)家(・)に(・)属(・)す(・)る(・)遠(・)山(・)一(・)族(・)へ(・)向(・)か(・)う(・)な(・)ど(・)お(・)か(・)し(・)い(・)し(・)、(・)遠(・)山(・)一(・)族(・)が(・)武(・)田(・)軍(・)を(・)一(・)方(・)的(・)に(・)迎(・)撃(・)す(・)る(・)の(・)も(・)お(・)か(・)し(・)い(・)。


考えられる理由は一つしかない。

武田軍は遠山一族へ向かったのではなく、その方角へ逃げる犯罪者を追っていたのだ。


そして。

何者かに『操(あやつ)られた』遠山一族が、この武田軍の行動を侵略だと一方的に決め付けたのである。


 ◇


事の起こりは……

直前に発生した、一つの『虐殺事件』にあった。


何者かが遣(つか)わした集団が徳川家康の異父兄弟・康俊(やすとし)を奪還するために甲斐国(かいのくに)[現在の山梨県]へと侵入し……

数百人もの住民を嬲(なぶ)り殺しにした挙句(あげく)、美濃国(みののくに)の恵那郡(えなぐん)[現在の岐阜県恵那市など]を経由して三河国(みかわのくに)の設楽郡(したらぐん)[現在の愛知県北設楽郡]への逃走を始めていた。

勿論(もちろん)。

住民を嬲(なぶ)り殺しにした理由は、康俊(やすとし)を護衛する兵士の一部を住民の救援に向かわせて護衛の数を減らそうと企(たくら)んだ陽動(ようどう)作戦である。


住民の無惨(むざん)な死体を見た武田信玄は最初に涙し、次いで怒り狂った。

信頼する家臣に命令を下す。


「奴らが己(おのれ)の『意志』で数百人もの住民を傷付けたのか、あるいは何者かに『利用』されて傷付けたのか……

そんなことはどうだっていい!

これは、正しいか間違いかの区別も付かない赤子(あかご)がやったことではない。

大(だい)の大人がやったことぞ?

ならば、犯した罪の代償を支払え!

秋山信友(あきやまのぶとも)よ。

心して聞け。

国を治める支配者として最も大事なことは……

法(・)を(・)破(・)っ(・)て(・)国(・)の(・)秩(・)序(・)を(・)乱(・)し(・)た(・)奴(・)が(・)、(・)何(・)の(・)裁(・)き(・)も(・)受(・)け(・)ず(・)に(・)の(・)う(・)の(・)う(・)と(・)生(・)き(・)て(・)い(・)く(・)世(・)を(・)絶(・)対(・)に(・)許(・)さ(・)な(・)い(・)こ(・)と(・)じ(・)ゃ(・)!」


「仰(おお)せの通りと存じます。

信玄様。

それがしは必ず……

例え『国外』へ逃げ込もうとも地の果てまで追い掛け、奴らを悉(ことごと)く捕らえるか、悉く討ち果たしてご覧に入れます!」


主(あるじ)の命令を受けた秋山信友は猛然と犯罪者集団の追撃を開始し、恵那郡(えなぐん)を治める遠山(とおやま)一族に捕縛の協力を依頼したのだが……

何者かに操(あやつ)られた結果として遠山一族は武田軍を迎撃することに決め、上村合戦(かみむらかっせん)が起こってしまったのである。


 ◇


さて。


犯罪者集団を遣(つか)わし、遠山一族を操って追撃する武田軍の足止めを図った『黒幕』は……

一体、誰なのだろうか?


上村合戦が織田・徳川方(がた)と武田方の衝突であったことから、わたしはこのように『見立て』ている。

「織(・)田(・)・(・)徳(・)川(・)方(・)と(・)武(・)田(・)方(・)の(・)衝(・)突(・)を(・)望(・)む(・)人(・)間(・)、(・)つ(・)ま(・)り(・)武(・)器(・)商(・)人(・)が(・)黒(・)幕(・)で(・)あ(・)る(・)」

と。


そもそも。

武器商人は、戦争に必要なモノを売って金儲けする連中だ。

天下人(てんかびと)を目前にした織田家と、東日本最強の大名である武田家との間で戦争を勃発(ぼっぱつ)させれば……

戦争に必要なモノの『値段』は瀑上(ばくあ)がりし、巨万の利益が転がって来る。


この当時。

『武器商人の都』が、京都と堺(さかい)に2つあった。


京都と堺。

黒幕は、どちらなのだろうか?


 ◇


遠山(とおやま)一族と山家三方衆(やまがさんぽうしゅう)の言い分に話を戻そう。

まだ続きがあるようだ。


「武器商人どもが企(くわだ)てた上村合戦(かみむらかっせん)で織田家と武田家の同盟が壊れることはなかったが……

織田信長の愛娘が暗殺されたことで同盟は破綻してしまった。

そして。

三方ヶ原合戦(みかたがはらかっせん)とほぼ同時期に秋山信友(あきやまのぶとも)率いる武田軍がやって来た。

今度こそ本当に侵略を目的としてじゃ。

ところが。

肝心の織田軍は北近江(きたおうみ)[現在の滋賀県長浜市など]で朝倉(あさくら)・浅井(あざい)連合と対峙(たいじ)しており、一兵たりとも救援に駆け付けてくれなかった!

これでは降伏する以外に生き残る方法がないではないか!」

と。


止むを得ない事情があったとはいえ、敵方へ勝手に降伏して一度は味方を『裏切る』形となったことに……

遠山(とおやま)一族と山家三方衆(やまがさんぽうしゅう)は戦々恐々(せんせんきょうきょう)とした思いがある。

だからこそ、信長が勝頼に和平の話を持ち掛けたことに歓喜の声を上げたのだ。


勿論(もちろん)。

これが嘘の話であるなどとは、知る由もない。


 ◇


1573年、春。

作戦は『第二段階』へと移行する。


5万人もの圧倒的な大軍で室町幕府、続けて朝倉(あさくら)・浅井(あざい)連合を滅ぼすことだ。

武田家との国境に張り付けていた軍勢をすべて回し、国境を『がら空き』にして織田軍のほとんど全兵力が岐阜城へと集結する。


未曾有(みぞう)の大軍を前に、信長は得意の演説を始めた。

長い話が苦手な人間であったはずが……

珍しく長い演説となった。


「さて。

およそ230年前に足利尊氏(あしかがたかうじ)公が開きし室町幕府であるが……

今や帝(みかど)[天皇のこと]を杜撰(ずさん)に扱い、大名に援助という名の賄賂を要求し、貪欲(どんよく)にも公家(くげ)[かつての貴族のこと]や寺社の領地や財産を横領し、働いている者たちに支払う給料が不公平で、飢饉などで値上がりしている地域へ米を転売して金儲けをする薄汚い輩(やから)の集団と成り果てている。

こんな輩に、日ノ本(ひのもと)を治める資格があるだろうか?」


ある者が、こう答えた。

「薄汚い輩(やから)の集団と化した幕府に……

日ノ本(ひのもと)を治める資格などあるわけがない!」


「よう申した!

次いで、もう一つ問いたい。

不甲斐(ふがい)ない幕府が日ノ本(ひのもと)各地で起こる問題を解決できず、大名や国衆(くにしゅう)どもの争いが一向(いっこう)に止(や)まない結果……

どうなったか?

確かに戦(いくさ)は、相手の領地や財産を手に入れる絶好の機会[チャンス]ではある。

ただし、勝利できればじゃ。

敗北したら元も子もなく、己(おのち)の命すら危うい。

さて。

仮に勝利できたとしての話だが……

相(・)手(・)か(・)ら(・)奪(・)っ(・)た(・)領(・)地(・)や(・)財(・)産(・)は(・)、(・)公(・)平(・)に(・)分(・)け(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)だ(・)ろ(・)う(・)か(・)?」


別の者が、こう答えた。

「公平に分けられてなどおりません!

相手から奪った領地や財産のほとんどは……

大名一族とその家臣、兵糧や武器弾薬を扱う武器商人ばかりが得ています。

戦場(いくさば)で命を懸(か)けて戦った兵たちは、わずかな恩賞(おんしょう)にありつけるだけ。

それも戦場で死ねば何も得られません」


「公平に分けられていないのは……

なぜだと思う?」


「なぜ?

何の地位もなく、貧しい家に生まれ育ったのだから『仕方ない』かと……」


「それは違うぞ!

そちたちも含めて日ノ本の民は皆……

幕(・)府(・)な(・)ど(・)の(・)権(・)力(・)者(・)、(・)そ(・)し(・)て(・)武(・)器(・)商(・)人(・)な(・)ど(・)の(・)裕(・)福(・)な(・)者(・)に(・)欺(・)か(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)の(・)よ(・)」


「『欺(あざむ)かれて』いる?」

「恩賞(おんしょう)をちらつかせて、そちたちを危険な戦場(いくさば)へと送り込んでいるではないか。

戦(いくさ)が、絶好の機会[チャンス]ではあるかのように見せることで……

な」


「な、何と!?」

「はっきり申すが。

絶好の機会など、ない。

裕福な者だけがますます富み、貧しい者はますます貧しくなるだけじゃ。

相続(そうぞく)[親から子へ受け継ぐこと]という制度が……

権力や富の『独占』を可能にしているからな」


「……」

「だが!

わしは違うぞ。

実力ある者が、実力を磨く努力を怠らない者が、真(しん)に報われる世を作ると『約束』しよう!」

【次節予告 第五十節 織田信長、京都焼き討ちを命令す】

幕府を討つことに肯定的な意見が占めるのを見た織田信長は、ある命令を発します。

「日ノ本を治める資格のない幕府を倒す前に……

我らには、倒しておくべき『敵』がいる」

と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。