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大罪人の娘・前編  作者: いずもカリーシ
第参章 武田軍侵攻、策略の章
44/48

第四十二節 30倍の敵を撃破した真の武人

加賀国(かがのくに)吉崎御坊(よしざきごぼう)[現在の石川県あわら市]。

この国の大名・富樫(とがし)一族の(みにく)い身内争いに兵士として加わった大勢の『民』が、激しい怒りを()き出しにしている。


「我らは兄を大名の地位に据えるため、命を危険に(さら)して戦った。

『もう雇い続ける銭[お金]がない』

だと?

ふざけるなっ!

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


ある者が、こう叫ぶ。

「皆の者!

教団の教えを思い出すのじゃ!

『念仏さえ唱えれば、誰でも極楽へ行ける。

あとは何でも自由にして良い』

と」


それを聞いた好戦的な者が、こう答えた。

「そうじゃ!

我々には神仏(しんぶつ)のご加護(かご)がある!

今こそ立ち上がるときぞ!

権力者を倒し、裕福な奴らを殺せ!

何の実力もないくせに……

相続(そうぞく)[親から子へ受け継ぐこと]によって権力や富を独占し、わしらから搾取(さくしゅ)し続けている(やから)を決して許すな!」


(おう)

そうじゃ、その通りじゃ!

権力や富を独占している奴らを殺し尽くせ!」


一向一揆(いっこういっき)』はこうして勃発し……

瞬く間に広がって加賀国(かがのくに)[現在の石川県]を蹂躙(じゅうりん)する。

権力者や裕福な者は、教団による虐殺と略奪の餌食となった。


 ◇


加賀国(かがのくに)の隣にある越前国(えちぜんのくに)[現在の福井県]。


幸いなことに。

この国には、『(まこと)の武人』が存在していた。


名前を朝倉宗滴(あさくらそうてき)と言う武人は、隣国の騒ぎを見てこう語り始めた。

(いくさ)素人(しろうと)どもが何を抜かす。

『命を危険に(さら)して戦った』

だと?

笑わせるな!

圧倒的な数に物を言わせただけのくせに。

あんなくだらん(いくさ)よりは、子供同士の石投げ合戦の方が真剣なだけまだ良いわ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


こう続けた。

「実際。

権力者や裕福な者どもは腐り切っている。

(おのれ)の一族で権力や富を独占することしか考えていないのだからな。

権力や富というものは本来……

世のため、人のために何かを『()す[達成するという意味]』ために存在するもの。

要するに。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


こう結論付けた。

「この『真理』を忘れ……

いかに(おのれ)の一族で権力や富を独占するかを最優先に考える(みにく)(やから)が増えてしまっている。

多すぎて反吐(へど)が出るくらいに!

ただし!

これよりも、はるかに醜いのが……

隣の加賀国(かがのくに)で騒いでいる一向一揆どもよ。

己を磨く努力を怠っているくせに、己の権利ばかりを主張し、他人を非難することに明け暮れている!

世のため、人のためではなく、己のことばかり考えている、あ奴らこそが!

一番(みにく)く、一番腐り果てて(うみ)が出ている存在ではないか!

笑わせるな。

(あるじ)への忠誠心も、武人たる誇りすらなく……

(おのれ)の利益のために、都合の良い、存在もしない神を生み出し、(まつりごと)にまで口を出す教団にまんまと(あやつ)られた『馬鹿』な連中に、一体何の使い道があると?」


朝倉(あさくら)家の当主からおよそ1万人の軍勢を預けられた宗滴(そうてき)は、九頭竜川(くずりゅうがわ)を挟んで一向一揆勢30万人と対峙(たいじ)する。

圧倒的に不利な状況で(ひる)む兵士たちへ向けて演説を始めた。


「皆の者!

よく聞け!

加賀国(かがのくに)[現在の石川県]の一向一揆勢は、圧倒的な人数でこの越前国(えちぜんのくに)[現在の福井県]を蹂躙(じゅうりん)しようとしている。

対岸にいる敵は……

我ら朝倉軍の30倍はいるぞ!

だが!

恐れることはない!

奴らは武人ではなく、(いくさ)の素人に過ぎないのだからな。

(まこと)の武人とは……

数に物を言わせて弱き者と戦うような卑怯者(ひきょうもの)ではない!

秩序を重んじ、強き者へ挑む者のことなのだ!

(いくさ)の素人どもに、真の武人がどれだけ強いのか……

その身をもって味わわせてやろう。

そして!

奴らに、秩序を乱した愚かな振る舞いの『代償』を支払わせてやるぞ!」


(おう)

応!

おおっ!」

たちまち兵士たちから歓声が上がる。


「皆の者!

よく見て、よく聞いて、よく考えよ。

奴ら以上に罪が重いのは、誰だ?」


ある兵士がこう叫ぶ。

「民を扇動した『教団』そのものだ!」


別の兵士が続いた。

「そうだ!

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


狙い通りの展開になったことを確信した宗滴から、思わず笑みが(こぼ)れる。

「者ども!

あの本願寺(ほんがんじ)教団を、完膚(かんぷ)なきまでに叩き潰せ!

(おのれ)の利益のために民を操り、(まつりごと)にまで口を出す(やから)を八つ裂きにしろ!

もう一つ。

これをよく覚えておけ。

奴らが(あが)(たてまつ)っていると(さえず)神仏(しんぶつ)は、人の手によって生み出されたものだ。

言うまでもないが……

人を『造りし』御方ではない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


こう締めくくった。

「教団を恐れる理由など一つもないのだ!

皆の命、わしに預けてくれ!」


(おう)

応!

おおっ!

わしらは勝てるぞ!

存在もしない神仏(しんぶつ)(あが)(たてまつ)っている(いくさ)素人(しろうと)など、我らの敵ではない!」

宗滴(そうてき)が率いる朝倉軍の『士気(しき)』は、30倍の敵を前にしながら最高潮に達した。


対岸にいる一向一揆勢はこれを見て唖然(あぜん)とするしかない。

「な……

何なのじゃ!

30倍もの敵に正面から挑むなど、朝倉軍は気でも狂っているのか?

非常識にも程があるぞ!

同じ大名でも、富樫(とがし)一族とは大違いではないか!」


「富樫一族は、わしらの圧倒的な数を見て完全に戦意(せんい)[戦う気力のこと]を失っていた。

だからこそ簡単に勝てたのじゃ」


「対岸の朝倉軍は、それとは全く違う!

戦意を失うどころか……

士気は最高潮に達している!

わしらには神仏(しんぶつ)のご加護(かご)があるのではなかったのか!?」


「おいおい……

そんなものを本気で信じていたとは目出度(めでた)い奴だな。

わしは、楽で、簡単で、銭[お金]がもらえて、女子(おなご)を抱いて帰れるから『乗った』だけよ」


()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()

それにしても。

秩序を重んじる(まこと)の武人とは、『まとも』に戦うべきではないな」

ある者たちが勝手に移動を始める。


「おい!

待て!

勝手に持ち場を離れるなっ!」


特に前列の者たちは、士気が最高潮に達した敵軍を見ただけで(ひる)み始めた。

欲深い愚かな人間の集団であることに加え……

戦争の素人(しろうと)を寄せ集めた軍勢など、どれだけ集まろうが烏合(うごう)の衆に過ぎないのだろうか。

前列の者たちは後列へ行こうと無秩序に『後退』まで始めたようだ。


これを見た宗滴(そうてき)は声の限り叫ぶ。

「奴らは動揺し、後退しているぞ!

今こそ天が与えた千載一遇(せんさいいちぐう)の好機!

わしに続けぇっ!

全軍突撃!」


朝倉軍は疾風怒濤(しっぷうどとう)の勢いで九頭竜川(くずりゅうがわ)を渡河し始めた。


 ◇


「お……

おい!

奴ら、突っ込んでくるぞ!」


「30倍の敵に突っ込むなど、非常識にも程がある!

奴ら正気なのか!?」


「下がれ!

下がったもん勝ちじゃ!」


「おい、押すな!

後ろが詰まっているのが分からんのか」


「どけ!

どかんと斬るぞ!」


「おぬしらは前列の兵であろう?

命令もなく勝手に下がりおって……」


「は?

わしらは、あんなのと戦うなど聞いていないが?」


「おいおい……

おぬしらは一体、何しにここへ?

ここは戦場(いくさば)だぞ?」


「気に入らない奴を殺し、女子(おなご)を抱いて、銭[お金]をもらって帰れると聞いたから来ただけじゃ。

さっさとどけ。

どかねば、おぬしらから先に斬るぞ」


「何だと?

黙って聞いてやっていれば……

雑魚どもが!

おぬしらのような雑魚な兵が混ざっているから、圧倒的に少ない敵軍に(ひる)むのじゃ。

さっさと敵の突撃を食らって死ね」


「おのれ!

こうなったら強引にでも後退してやるぞ!

え?

あ……

あ!

も、もう敵が目の前に!?

そんな馬鹿な!

早い!

早すぎる!

ぎゃあっ!

う、腕があっ!

痛い!

痛いっ!

か、母ちゃん!

誰か助けて!

待て!

わしは、(いくさ)をするために来たわけではない!

ただ教団に命令されてここへ……

あ、今から朝倉軍に『寝返る』から許してくれ!」


「この下衆(ゲス)が!

のこのこと戦場(いくさば)に出て来て、虐殺や略奪に励んでいるということは……

斬られることも覚悟の上なのだろう?」


こう(こた)えた朝倉軍の容赦ない斬撃で腕や足を失い、激痛でのたうち回る者たちは哀れでしかない。

のたうち回ったことで更に混乱を増幅(ぞうふく)させ、一帯を朝倉軍の狩場としてしまった。


結果。

30倍の人数を誇る敵の『撃破』に成功したが、不幸が訪れる。


武人・朝倉宗滴(あさくらそうてき)の病死だ。

(たぐい)まれなる武人を失った軍勢は、その勢いすら失った。


両者の戦いは膠着(こうちゃく)状態へと陥った。


 ◇


さて。


この出来事は、国の統一を目指す者に一つの手本(てほん)を与えた。

「奴らは人数こそ桁外れに多いが……

所詮は(いくさ)素人(しろうと)であり、結束力のない烏合(うごう)の衆に過ぎん。

要するに『雑魚』ということか。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

と。

【次節予告 第四十三節 徳川家康の三河国統一に利用された教団】

自分以外の『的』へ人々の憎悪を集めること。

これは支配者に限らず……

影響力を持つ者すべてが、相手を思考停止に陥らせ、さらに多くの人々を操るために使う常套手段なのです。

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