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大罪人の娘・前編  作者: いずもカリーシ
第弐章 戦国乱世、お金の章
13/48

第十三節 弱くも、哀れでもない民衆

今から、およそ20年前。


『武蔵』というタイトルで放送された大河ドラマの冒頭は……

こんな話で始まる。


「戦国時代の合戦(かっせん)を扱う歴史書の中で、一般民衆について語られることは、ほとんどなかった。

あったとしても、合戦で村を焼かれたり、(いくさ)のたびに戦場に狩り出される、弱く、哀れな犠牲者としてだけであった」


こう続く。

「しかし。

合戦に参加した民衆は、戦場となった村から食糧を奪い、女性や子供をさらってきて奴隷にし、不要なものは売り飛ばしていた。

大名たちは何度も陣中法度(じんちゅうはっと)[合戦に参加した者たちへの命令のこと]を出し、虐殺や略奪、女性や子供を生捕(いけど)りにする行為などを禁止したが……

『手ぬるい』ものでしかなかった」


なぜ大名たちは、民衆の残虐(ざんぎゃく)な行為を厳しく取り締まらなかったのか?

答えは至って簡単である。

厳しく取り締まれば、誰も戦争に参加してくれなくなってしまう。


結果として。

国を統治する立場にありながら……

大名たちは、民衆が行う数々の暴虐(ぼうぎゃく)行為に『見て見ぬふり』をしていたのだ!


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 ◇


「凛よ。

そして2つ目の……

戦いの黒幕を生み出した『歴史』について話そう」


「はい」

「その前に。

我らの手で終止符を打たねばならない『戦国乱世』とは、何のことだ?」


「読んで字の通り……

世が乱れた結果として、国中で(いくさ)が起こっている状態のことです」


「では。

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「誰?」

「うむ。

そなたの頭で考えてみよ」


凛は将軍、幕府、大名、国衆(くにしゅう)[独立した領主のこと]、民など、それぞれの『役割』から考えてみることにした。

多くの書物を読んできた彼女なら十分に精通した分野でもある。


武士たちの頂点に君臨する将軍を、幕府という官僚(かんりょう)組織が補佐していた。

幕府は国の支配者に相応(ふさわ)しい大名を任命し、大名は幕府の意向に沿うように国衆(くにしゅう)たちを従わせて国を一つにまとめる役割を担う。


大名と国衆は法を破る犯罪者たちを厳しく取り締まることで国の治安維持に努め……

国境を巡って争いが起こったり、犯罪者が他国へ逃げ込んだりしても、勝手に裁いて相手に報復(ほうふく)したりなどはしない。

国衆は大名に訴えを起こし、大名は幕府に訴えを起こして裁きを(あお)ぐ。


各自が(おのれ)の役割を果たし、(おのれ)(ぶん)(わきま)え[自分の地位や身の程をよく知り、出すぎた真似をしないこと]ているうちは、世が乱れることはない。

こう考えれば、原因はおのずと導かれる。

将軍が、幕府が、大名が、国衆が、民が己の分を弁えず、己の役割を放棄しているからだ。


要するに。

『秩序』が、崩壊したのである。


 ◇


「父上。

幕府や大名などの『支配者』に問題があったのではないでしょうか?」


「ほう」

国衆(くにしゅう)や民は……

支配者としての役割を果たさない幕府や大名に愛想(あいそう)を尽かしていると聞きます」


「だから好き勝手に(いくさ)や侵略を行っていると?」

「はい」


「では。

支配者が、支配者としての役割を果たせなくなったのは……

『なぜ』か?」


「なぜ?」

「うむ。

そなたには、幼き頃より多くの歴史の書物を読ませてきた。

考えを申してみよ」


「……」

凛は、はたと困り果てた。


どの歴史の書物も……

応仁(おうにん)の乱』が全ての原因だと書いていたからだ。


「支配者たちが酒や女子(おなご)遊びに(おぼ)れ、賄賂(わいろ)を受け取って政治を腐敗させた結果、幕府や大名の内部で次々と起こる(みにく)い身内争いに対処できなくなった。

争いは日ノ本(ひのもと)各地に拡大し、秩序は(もろ)くも崩壊した」

と。


読んだ凛は、強い『違和感』を覚えていた。

「あまりにも話が単純すぎる!

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苦し(まぎ)れに、娘は父の質問に答える。

「書物には……

酒や女子遊び、賄賂、政治の腐敗によって、幕府や大名の内部で次々と起こる(みにく)い身内争いを対処できなくなったとありました」


「うむ」

「あまりに『単純』過ぎる話だとは思ったのですが」


「単純、か。

なかなかに鋭いのう。

分からないときは、こう問うのだ。

『なぜ?

どうして?』

とな。

そして、(おのれ)の頭で答えを導け」


「どうして、話が単純なのか……?」

「そうだ。

考えてみよ」


「うーん……

『分かりやすく』したいから?」


「分かりやすく?」

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「ははは!

あっさりと答えに辿(たど)り着くとは……

凛よ、さすがではないか。

大勢の人に読んでもらうために内容を薄くし、分かりやすい理由を面白おかしく書いた書物から得られるものなど何もない」


「ならば。

どうして……

支配者は、支配者としての役割を果たせなくなったのでしょう?」


 ◇


「政府は腐り切っている!」


仮に、こういう批判が殺到したからといって……

秩序が崩壊するまでに至るだろうか?

せいぜいデモ行進と、メディアの轟々(ごうごう)たる政府批判と、SNSが荒れることくらいだろう。


政府に不満を抱いたとしても、大多数の人々はメディアの政府批判を視聴したり、自己顕示欲(じこけんじよく)を満たす内容や人を非難する内容をSNSに書き込んで『ストレス』を発散できている。

()()()()()S()N()S()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……


とはいえ。

民衆が暴動や反乱を起こして秩序を崩壊させてしまった例も、いくつかある。

例えばフランス革命とロシア革命だろうか。


ちなみに。

この2つの革命は、非常に切迫した問題が原因で発生したらしい。


人々が『飢えた』ことだ。


 ◇


「凛よ。

『酒や女子遊び、賄賂、政治の腐敗によって、支配者としての役割を果たせなくなった』

これは全く出鱈目(でたらめ)な表現なのだ」


「やはり、そうなのですか」

「実は……

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「えっ!?

それは、(まこと)にございますか?」


「今からおよそ400年前……

源頼朝(みなもとのよりとも)が何を開いたか知っていよう?」

「鎌倉幕府です」


「鎌倉幕府は武士たちを見事に統率し、およそ100年続く平和をもたらした。

ただし。

この平和は日ノ本(ひのもと)の人々を『一変(いっぺん)』させてしまった」


「人々を一変?」

「より多くの銭[お金]を得ることばかり考えるようになったのだ」


「どうしてそんなことに?」

「その答えを知るには、さらに400年ほど時間を(さかのぼ)らねばならん」


 ◇


凛のいる時代から約800年前。

現代からは、約1,300年前の奈良時代。


貨幣(かへい)』を全国に普及させようと試みた女帝がいた。

大化の改新で有名な天智天皇(てんじてんのう)の娘・元明天皇(げんめいてんのう)である。


この女帝は……

奈良の平城京(へいじょうきょう)を作り始めたことと、和同開珎(わどうかいほう)という貨幣を作ったことで有名だ。

ただし。

貨幣の普及には失敗した。

貨幣の価値を認めない人が多かったのが原因だとも言われている。


そもそも。

この時代の朝廷は日本全国どころか、関西地方くらいしか支配できていない。

支配領域がこんなに狭いようでは貨幣の普及など覚束(おぼつか)ないだろう。


その後。

約400年ほど時代が進んだ平安時代末期になると……

朝廷の支配地域は大きく広がる。


源氏(げんじ)清和(せいわ)天皇の子孫]、平氏(へいし)桓武(かんむ)天皇の子孫]、藤原氏(ふじわらし)平将門(たいらのまさかど)討伐で出世した藤原秀郷(ふじわらのひでさと)の子孫]などが関東地方を中心に農地の開拓に励んで朝廷の支配領域の拡大に貢献したからだ。

元々いた原住民との争いで戦闘経験を重ねた武装集団は、やがて『武士』と呼ばれた。


 ◇


さて。


この状況の中で……

平氏の嫡流(ちゃくりゅう)[本家を継承する家柄のこと]であった平清盛(たいらのきよもり)は、(そう)[当時の中国の王朝]の国で使われている『宋銭(そうせん)』という貨幣(かへい)に目を付けた。


「宋[中国大陸]は日ノ本(ひのもと)[日本列島]とは比べ物にもならない程に『広い』らしい。

加えて人の数[人口]もまた、日ノ本とは比べ物にもならない程に『多い』とか。

つまり。

宋銭は、圧倒的な量が作られていることになる。

日ノ本で貨幣(かへい)を作るよりも……

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清盛(きよもり)は一世一代の大勝負に出た。

平氏一族の持つ金銀財宝を全て()ぎ込んで福原(ふくはら)[現在の神戸市中央区]の地に巨大な港[現在の神戸港]を作り、宋との本格的な貿易を始めたのである。


 ◇


貨幣(かへい)は清盛の想定を超え、恐るべき早さで普及していく。

福原(ふくはら)の港は貨幣を欲しがる人々でごった返し、それと引き換えにありとあらゆる富が次々と平氏一族に転がり込んで来た。


「平氏でなければ人ではない」

こう言われるほどに平氏一族の栄華(えいが)は極まった。

【次節予告 第十四節 お金の普及、災いの連鎖の始まり】

平清盛は、平氏一族に永遠の繁栄を齎したかのように見えました。

ただ残念なことに……

お金は、お金を普及させた平清盛自身も、その恩恵に(よく)した平氏一族をも幸せにすることはなかったのです。

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