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二章之弐 喜びの歌

 

 眠りについたのはれい時頃だった。


 いつから夢が始まったのかはおぼろげで、いつの間にか俺は、白い虎と水を飲んでいた。

 そこは水辺で、他の動物の気配は、特に無い。

 両手ですくった水を、ごくごくと何度か飲む俺。


 顔を上げる。


 大きな岩に囲まれた滝つぼで、女達は砂利をふるいにかけている。

 俺はきらりと光る何かを、川の中に見つけた。

 拾ってみる。

 それは、おそらくシトリンの原石。

 

 シトリンとは、金色に近い黄琥珀きこはく色の宝石だ。

 最近現実世界でパワーストーンって言う枠で有名になってきた。



「ねぇ、何か収穫あった?」



 声の方に振り向くと、そこには岩の上でしゃがんでいるミネアナ。


 俺は何故か、彼女の名前がミネアナだということを知っている。


 金髪に、金色の目をしている彼女。

 彼女は小ぶりで純白じゅんぱくの背中の羽をぱたぱたと動かして見せた。


 俺は金色の石をしめした。


「小さいけど、あったよ」

「ワァオっ」


 岩から飛び降りて、綺麗に着地するミネアナ。


「一番目に見つけた宝石は、自分のものにしていいからね」

「さっき他のひとから聞いた」


「ああ、そうなんだ」

「はい」


 俺は宝石の原石をミネアナに差し出した。


「ん?何?」

「君にあげたい」


「はっ?」


 俺は笑った。


「目の色に、きっと似合うよ」




 * * *



 蔵人は夢からさめて、瞬き。

 細い溜息を吐いた。


「ミネアナ・・・四つの羽・・・?」


 夢の中に出てきたミネアナという女は、背中に四枚の羽を持っていた。


 時計を確認すると、もうすぐアラームが鳴る時間。

 蔵人はそのまま起きることにして、ベッドから出た。




 * * *




 樋口洋菓子店ひぐちようがしてん


 そのガラスの扉を開けたのは、樋口葉介。

 カウンターにいる葉介の姉が気づく。


「あんた、ちょっとは手伝いなさいよ」

「着替え」


 樋口洋菓子店は、葉介の両親が経営している店だ。


 一階が店で、二階が家。

 葉介は階段を上がっていく。


 葉介は低血糖ていけっとう

 相楽孝司にしか、毎日甘いものを食べなくてはいけない体質だと話していない。

 機会があるなら、棗達にも話そうかな、と葉介は思っている。


 着替えが終わり、姉の運んできてくれたケーキを食べた。


 

 何だか急に、眠くなってきた。



 葉介はのろのろとリフトベッドに上がると、しばらく横になることにした。

 


 ・・・枕に頭を沈めて、数秒後。


 葉介はすでにもう、寝息をたてていた。




 * * *




 西の森。


 食べると死んでしまう薄桃色の毒草どくそうの中、俺達は昼寝をしている。

 ぴくり、と鼻が動く。


 別の花の匂いが近づいてくる。


 俺は顔を上げた。


「青髪の女が来るぞ」

「ん?」


 俺に凭れていた相棒が、鼻をすんすんとさせて空気の匂いをかいでみている。


「分からない」


 数秒、相棒は何かを考えていた。

 そして、歌いだす。



 神々のきらめきよ 美しい喜びの楽園

 美しい神々のきらめきよ 楽園の娘よ

 私達は歩み寄る あなたの聖堂 天上の炎のように酔いしれて・・・



 俺と相棒は空を見上げる。

 森の上空、そこに、青い髪の少女がいた。

 翼を広げ、そして俺達を見つけると、空中から降りてきた。


「やはり、あの時の青髪の娘」

「はぁい・・・えっと・・・君の名前は?」


 少女のテレパシーは俺には聞こえなかった。


「リン?リンって言うんだね」

  

 何故か相棒には聞こえるらしい。

 青銀髪の女の口は、動いていない。


「さっきの歌を知ってる?」


 少女はうなずいた。

 素足は、花に触れるか触れないかの所で、浮いている。


「ああ、僕はカリョウビンガ、鳥と人が交わった者の血」


 動物が使う言葉で、リンという少女に話しかけてみた。


 彼女は不思議そうな顔をして、俺を見た。

 どうやら通じていないらしい。


「口で言うと分かるか?」


 彼女は口元を上げ、うなずいた。


「なんでここに来たの?僕達に会いたくなった?」


 からかい口調で相棒が彼女に言うと、ふと、思い出した。


「そうだ。まだあの時助けられた礼をしていないぞ相棒」

「ああ、そうだ」


 少女が、テレパシーで、相棒に何かを言った。


「東はどこか?」


 少女はうなずく。


「君が飛んでた方向の、まったく反対の方向だよ」


 彼女は意外そうに瞬いた。


 数秒してうなずく。


 相棒が俺を見た。


「ありがとう、だって。意味分かんないけど、あのカラスは方向音痴ほうこうおんちなんだろうって」


「そうか・・・東って、東のどこだ?東に行くには、砂漠を通らなくてはならないぞ」


「そうなの?だって」


「どうするんだ?」


 数秒、相棒は少女を見つめる。



「僕の名前はヘルメイス。君から名前をもらいたい」



 一拍の、間。



「それは・・・お前・・・」

「そう、僕はリンが好きだ」


 名前を貰う、それは特別なことだ。


 彼女はうなずくと、しばらく空を見上げていた。


「ん?何で今日はいつまでたっても暗くならないのか?」

「今日は白夜びゃくやだ」


「何、それ?だって」

「夜がこない日」


「じゃあ、『ヒルヨル』・・・ん?僕の名前?」


 少女がうなずいた。


「ビャクヤ?」


 少女がうなずくと、相棒が笑った。


「分かった。昼と夜って意味だね。今日から僕は、君の白夜だ」


 少女は花畑を見た。


「これ?これは食べれないよ・・・お腹すいてるの?」


 少女は微笑した。


「そう・・・」


 相棒は手を横に振った。


「何だ、それ?」

「またね、って意味だよ」

「ほ~・・・」


 リンという少女も俺達に向かって、手を振った。


 無論、虎は挨拶の時に手を振るなんてことはない。


 前例なんて知らない。


「もう行くの?」


 彼女は翼を羽ばたかせると、空中に舞い戻り浮いた。


「東の樹海に、獣人と堕天使の里がある?何、それっ?そこに行くの?」


 リンはうなずいた。


「そう・・・ねぇ、ビャッコ、どうする?」


「今はまだ、ダメだ。風のにおいがそう言っている」

「分かった。リン、いつかまた会おう。僕達もいつか、そこに行く」


 リンは口元を上げ、力強くうなずいた。


 あっと言う間に木々のてっぺんのさらに上まで上昇じょうしょうすると、彼女は東、砂漠の方へと飛んで行った。



 * * *



 樋口葉介は目を覚ました。


 しばらくごろごろしながら、ぼうっとしている。

 側に置いてあった携帯電話に気づく。

 携帯電話のネットを思いつく。


「カリョウビンガ・・・」


 検索。


 葉介は驚いた。

 検索がひっかかったからだ。


 カリョウビンガ。

 歌が上手い、鳥の獣人。


 一通り説明を読んだあと、葉介は折りたたみ式の携帯電話をあごで閉じた。


 枕元に置く。


 はぁ、と、溜息を吐いた。



「リン・・・白夜・・・」



 そして俺はどうやら、夢の中では、ビャッコらしい。


 ビャッコ。

 ゲームのキャラクターに出てきたので覚えている。

 西の方角、風を司る白い虎。 


 とある所では、四神ししんと呼ばれ、おがんでいる者もいる。


 夢の中に出てくるビャッコが、四神の白虎びゃっこかどうかは、まだ、分からない・・・。

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