四章之参 バウンダリー・ソウル・メイト
樹理の経験上、広瀬棗からのメールに、題名がついていることは珍しい。
題・大きな鳥
それを読んだだけで、一瞬くらいの速さで「まさか」と思って本文へスクロール。
【夢を見た。多分、前にお前が言ってた夢だ。大きな鳥を倒す夢。毒を持ってそうな口の中の色だった】
樹理のテンションが少し上がった。
「多分、同じ夢です・・・っと」
返信。
返事がすぐに返ってくる。
【百合卵も見た。虹色の岩とか、血を吸う蝶とか・・・やっぱりリンはあのあと頭の中で言ってた。「また見たい」って】
樹理は返信。
【同じ感想を抱くって、不思議な気分です】
【これ、本当の話だからな?】
【は?】
【だから、お前に合わせて『同じ夢見てる』って言ってるわけじゃないからなっ?】
【意外です・・・】
【どういう意味だ・・・?】
【広瀬先輩だけの話だったら、そう思ったかもしれないけど、これってドッキリ企画か何かなんでしょうか?】
【そんなこと言われたら、俺の方が、みんな仕掛け人ですか、的なことなんですけど?】
【お兄ちゃんも、リン、知ってるんですけど・・・?】
【は?】
【まだ詳しくは聞いていないけれど、今度聞いてみますね】
【あんたさ、前に話したことあるんでないの?】
【その可能性も思いつきませんでした・・・多分、言ってないです。お兄ちゃん、普段から色々忙しいし】
【あの、俺、特に暇人じゃないよ?】
【怒ってますか?】
【暇人だと思われてるの、俺?】
【そうではなく・・・】
【なんだよ?】
【怒ってます?】
【呆れてる、つか、困ってる・・・あんまり怒ってるかどうか聞かれると、キレちゃいますからね、僕】
【私も小さい頃、そうでした(笑)】
【あんたと話すと、ほんと、テンション上がるわ】
【どうも、です】
【ええ、どうも】
【百合卵、綺麗でしたね】
【話そらしたね?まぁ、いい・・・そのあとのこと、聞きたい】
【そのあとって?】
【俺・・・じゃ、なく、ルシファーね、そいつとリン、寝てたよね?】
【眠ってる夢みたんですか?】
【そういう意味じゃない】
【ん?】
【ベッドの中で、一緒に眠ってた】
【ほほえましいですね】
【伝わってる?】
【何がです?】
【エッロイ、意味の話してる、俺】
【はっ?】
【ああ・・・見てるんだとしたら気恥ずかしくて話そらしてるのかと思ったんだけど、多分俺の願望が夢にでも出たんだろう】
【あの・・・俗に言う、『枕を共にする』、ってやつですか・・・?】
【古風な言い方だね】
【え】
【そう】
【え、そういう意味?】
【そう】
【見ました】
【どんなだった?】
【え・・・言いたくないです】
【ああ、そう・・・それ確認したくてね】
【そう言えば、腕に包帯巻いてた・・・】
【何?】
【おそらく、巨鳥と戦った時にできた傷・・・リンのスカートを裂いて作った包帯】
【そうだ。そのあと、そういうことになった】
【お花づくしの食事しましたよね?】
【いや、それは見たことない。なんかそういうことあいまいになってて、気づいたら隣に横になってるリンがベッドから出てて、どこに行ったのかと思ったら、窓際にいて、裸だった。リンって何歳なのかね?なんか犯罪チックじゃん?】
【あんまり、そういう話、異性の方と話したくないです・・・】
【オーケー♪】
【なんで『♪』まで・・・ご機嫌ですね・・・】
【そういう経験、ある?】
【しばらく、先輩とお話ししたくありません】
【俺のこと、嫌いになった?】
【なんなんですかっ?】
【葉介とか、クラスの連中からメール殺到中・・・一応、あんたにかまってるつもり】
「は・・・?」
樹里は、事件のことを思い出した。
完全に忘れていた。
【なんで先輩が私に気を使うんですかっ。怒りますよっ】
【意味わかんねーし・・・】
【心配するのはこちら側ですっ】
【しばらくメールしないんでしょう?】
【撤回ですっ】
【三浦樹理さんは、広瀬棗が好きなんだ】
【やっぱり、しばらくメールしません】
なんだかイライラそわそわしながらしばらく携帯電話を意識していた樹理。
しかし本当にしばらく、広瀬棗からの連絡は来なくなった。
遊ばれてるのかもしれない・・・
樹理の日常の中に、溜息の数が妙に多くなった。
* * *
この夢を見る時、眠りに入る前に予兆がある。
どんなものなのか、と言われても、いつもと違う眠気、みたいな言い方しかできない。
何度も何度も、何度も繰り返される場面。
夢の中の彼女の音読も、もう何となくおぼえてある。
「で、さ、なんであのローズ像ってやつに顔を作らないの?」
聞いたのは両耳が茶色い翼をした中性的な顔立ちの男、ヘルメイス。
白い虎、ビャッコと共にブルーローズの新入りになった男だ。
ミネアナ、彼女の目線で、俺は夢を見る。
ヘルメイス、別名ビャクヤと名乗る男を見る。
「ローズ様の伝説、聞きたい?」
そう彼女が言ったあと、すぐにあちらこちらから深いため息が聞こえた。
溜息を吐いたのは兄のゼインと、ブルーローズの里のリーダーであるルーシー。
仲良しな二人はほぼ同時に言う。
『「また始まった・・・」』
ルシファーと手をつないでいる青い銀髪の少女リンが、言った。
聞きたい。
「僕も聞きたいな~」
期待を込めて、ヘルメイスの相棒、ビャッコを見る。
視線が合って、すぐにそらされた。
「興味ない」
「いいから、聞かせてよっ。久しぶりに人の形したやつらと話せて、マジ嬉しいんだからよっぽどたいくつな話でなければ、いくらでもくらい聞くよっ」
リンも微笑みながら、うなずく。
「なぁっんか、ムカつくけど、新入りってことで免除してあげるわ」
そこから、ミネアナの語りが始まる。
ローズの伝説。
彼女の名前はローズ。
天使の中でも絶世の美女だと謡われ、その器量は神にさえ愛されたと言われる。
しかし、彼女は禁を犯した。
報われない、報われてはならない恋。
彼女はアレンに恋をした。
彼も彼女に恋をした・・・悪魔と天使の間の子。
神は怒り、ローズとアレンに罰を与えた。
アレンがローズを殺す呪・・・
それを知ったアレンは、姿を消した。
ローズのいないどこかへ。
ローズはそれを嘆き、堕天した。
下界へ降りたローズは、ありえない者達に出会った。
種族は『無』。
彼らは禁を犯した天使と悪魔の子供だった。
ローズは子供達に「人間」という種を与え、神に人間への慈悲を願った。
神が下した判断は、哀れみでも慈悲でもなく「戦い」だった。
神は完璧を愛した。
人間は完璧ではない、と、だから必要ないのだと、天使軍を下界へ送った。
それを知ってもローズは、神に祈り続けた。
「慈悲を・・・」
天使軍を目の前に、ローズは剣を抜いた。
命令ではなく、自分の意思で。
ローズは神のためではなく、自分のために剣を抜いた。
天使軍、千。
人間が三百。
その戦いに乗じた悪魔が二百。
第二次天地対戦のはじまりだと言われている。
ローズは先頭にいたが、勝敗は分かっている筈だった。
ローズは天使一軍によって、左腕の半分と、翼を半分落とされた。
それでもローズは背後にいる人間を守ろうと、両手を広げたと言う。
それは神の逆鱗に触れ、自ら地上に降りた神は、人間を石に変えようとした。
ローズは人間をかばい、石になった。
その美しい顔が石になりながら溶けて無くなる瞬間まで、彼女は祈った。
彼女の最期の言葉は、神に対しての慈悲への祈りだった。
ローズが死んだその刹那、アレンは現れた。
世界の真ん中、世界樹の中で眠っていたアレンは、石になったローズにキスをして自ら命を絶った。
神はアレンとローズが生まれ変わっても、同じ運命をたどる呪をかけた。
しかし、どこからか声が聞こえた。
それはアレンとローズの声だった。
「生まれ変わったら、違う運命を・・・共に」
その言葉に心を打たれた天使第一軍の将軍は、剣でうしろから神を二つに斬った。
そして死んだ。
彼は死ぬ前にこう言った。
「なにが『秩序』だ・・・」
二つに別れた神は、それぞれに再生し、ひとりは天に昇りこう言った。
「私は人間に慈悲を与えよう。ちを与え、子をなすことを許すだろう。しかし、私は生命全てに輪廻をも与えよう。誰がいつ、どこで会えるのか、それは伺い知れぬこと。それらすべての運命は変わらない」
もうひとりは地に溶けた。
「私は人間に慈悲を与えない。与えない変わり、罪も与えないだろう。運命を断ち切るのは己なのだから」
天使も人間も悪魔も、祈ったと言う。
「今とは違う運命を・・・どうか違う、役割を。使命を下さい」
世界は願いで満たされ、世界はひとつとなった。
天使が自我に目覚め、人間が神我を持ち、悪魔が子を愛したのはこの時からだと言う。
天使軍のほとんどが羽を切り落とし、人間になりたいと言って死んだ言う。
第二次天地対戦の終戦は、人間の輪廻から始まった。
天使と悪魔はそれを得るため、融合し、人間に化けるようになったと言われている。
ローズ伝説、最終章、終幕部より・・・一部省略。
「へぇ~・・・じゃあ、あの色の違う石像、本物のローズって天使なのかもね」
無邪気に感想を言うヘルメイス。
「ブルーローズの中で、それはあまり言ってはいけない言葉だ」
ゼインがこちらを見る。
「ごめん。なんでか知らないけれど、ローズ様の話になると止まらなくて・・・」
鼻元で溜息を吐くルーシー。
「仕方ないだろう。新入りには必ずくらい話す話だ」
「ミネアナが、な」
「誰の妹だったかな?」
「今回は省略編でよかったな」
「まったくだ」
「あっ。ルシフェル様~」
全員が声のした方を向く。
そこには、炎の髪色をした子供がいる。
こちらに向かって手を振っている。
どうやら絵のモデルになってるようだった。
「まぁ~た、服を焦がしたねっ。イフリートっ」
「だってまだ、七十八歳だもんっ」
「ここまできたら、もうわざとだろ」
「違うよ~」
画家が言う。
「こら、あまり動くなっ。髪の部分なんだよっ」
前に見た。
リンが言う。
中性的な顔立ちの男が、リンを見る。
「何を前に見たの?」
ボーって、火を吐く絵。
「火を吐く絵っ?」
「イフリートってのは名字だよ。あの絵はあの子の父。架空の存在だった」
「獣人に名字っ?」
「そう」
工藤久也はそこで目を覚ました。
自宅のソファーに横になっていて、気づくと部屋は薄暗かった。
側にあった携帯電話を取り出す。
新しく買ったばかりの折り畳み式の携帯電話は、手元だけを照らす。
何度か、開いたり、閉じたりした。
部屋の電気をつける。
水槽の空気循環の音だけが、妙に耳に響く。
飼っているグッピーを虚ろな目で見ている自分の姿が、水槽表面に映っていた。
「そろそろ・・・」
久也は水槽からふいと顔をそむけた。
「いいかな・・・?」
久也はメールを打った。
宛先人は、三浦樹理。
内容部分にこう書いた。
【まだ蔵人には言わないでほしい。あいつは『そんな話するな』って言いそうだから・・・実は知ってた。樹理ちゃんの不思議な夢の相談を受ける前から、俺はミネアナっていう人物として『ブルーローズ』の夢を見ていた。
もうひとりで抱えるのはしんどいよ。正直、俺もこの夢をどうしていいのか分からない。ひとりはもうイヤなんだ・・・だからね、俺、校名なんだっけ?もう話はつけてあるんだけども、樹理ちゃんと蔵人が通ってる学園に、転校することにしちゃいました~。よろしくね~ん】
* * *
今回の夢は初めての部分の夢だった。
『僕』、いや、ゼインは、人間に捕まった。
幽閉っゆうの?
つまりは監禁だ。
なんとなくで自分の中で事情をまとめると、人間の血をひく『姉』に会いに行った。
そして姉は人間に拝まれていた。
次に会いに来た精通はしているが結婚はしていない男と、『結婚』しろと言われたらしい。
そして意味が分からない。
次に会いに来たのは、俺たち家族。
つまり僕・・・いや、ゼインは、母親違いだけれども血のつながった姉と、結婚しなくてはならなくなり、そのために『幽閉』されている。
他人だとしても、急に結婚なんてありえない。
実の姉・・・
まだ顔も見ていない。
名前はヘスタ。
鏡を見て分かったのだけれども、ゼインの年齢は、十代そこそこだ。
気づいたら場面転換。
聖堂の祭壇の上に、頭に透明なヴェールと花を飾った裸の女が横たわっている。
目があった。
ゆっくりとそちらに歩いていく。
荘厳な空気の中で、妙な緊張が高ぶっていく・・・。
気づいたら、してた。
姉と、そういうこと。
そこらへんの内容はあんまり思い出さないようにしておこっと。
正直、ダメだダメだと思って見てたけれども、童貞には刺激強すぎますよ。
どうすんだよ、ゼインさん?
どうなんのよ、今回?
昔そんな宗教あったの知ってるからまだ冷静だけれども、これってなんのための夢?
なんで受け入れてんだよ、ゼイン?
姉だぞ?
それはそれは美人だったけれども、「使命」とか言われて、受け入れるのか?
意味わかんねぇ。
意味もわけも、なんか・・・分かりたくないんだよっっ。
この夢、早く終われっ。
「リンッ」
「まさか青髪の娘・・・生きていようとはな・・・」
「なぜこんなところに人間がいるっ?」
「ゼイン様っ。ドラゴンウイングですっ」
「何っ?」
「ははは。俺たちゃ、竜狩さぁっ」
「天使と人間のはざまの者達っ。天からの使いで、罰下しに参ったのさ~。ぎゃははっ」
「天使軍のしたっぱさ~」
黒く裂けた空間にリンが放り投げられた。
その間に、何人か竜狩なる者達を倒す。
最後にブラックホールに身を投じた者の背中に爪痕を残す寸前、空をなぎ払った。
いつの間にか場面転換していることに気付いた時には、次の場面。
薄い薄い水色。
白い雲も「ない」とも呼べるほど薄く漂っていて、日の光は甘く淡く降り注いでいる。
人間界の城下町。
同じ色の屋根屋根が、畑のように広がっている風景。
それを見下ろせるほど高い建物は城のてっぺん。
そこに、ゼインは立っていた。
足元は塔の最上階。
ふぅ、と溜息を吐いて、こぶしを握る。
塔の屋根の一部を、こぶしで叩き壊して穴を開ける。
日の入りが良くなったな、と、風通しがよくなったな、を同時に感覚で思う。
穴に向かって言う。
「塔に『幽閉』されているという人間の姫を嫁にもらいにきた。いるか?」
しばらくの間。
「誰?」
ちょっと黙って、様子をうかがう。
向こう側も様子をうかがっているらしい。
どうやら塔のてっぺんにひとりで住んでいるらしい。
「私をめとれるのは神だけよ」
「小さいころは神として生きていた」
「証拠を見せて」
「では、この晴れた日に、雨を降らせれば認めてくれるだろうか?」
「そんなこと、できる筈がない」
「できる」
「じゃあ、降らせてみせなさいよ」
「俺の誠意を見てくれ」
ゼインは腰に備えた小太刀を抜いた。
結っていた髪を、小太刀で切り落とす。
その束を穴の中へすこしずつ落とすと、その茶髪は光に透けて金色の雨に見えた。
「金色の雨・・・」
満はそこで目を覚ました。
鼻から息を吸って吐くと、やっぱりまだアロマの香りが気になってイラっとする。
さらに溜息を吐いて、寝返りを打つ。
携帯電話に手をのばし、チェック。
メールが十六件。
それを確認している時に、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はーい」
「入る~」
部屋に入ってきたのは、満の母。
今日はなぜか、セーラームーンの「ちびうさ」のかつらをかぶっている。
まぁ、似合わなくもない。
むしろ気になるのは、そのかつらに何故革ジャンなのかだ。
「そのかっこうで買い物行って来たの?」
「そう」
「ふぅん・・・」
「あのねぇ、いいもの配ってたのよ~」
そう言いながら買い物袋をあさる母が、もう片方に持っていた紙に気付くまでしばし。
メールにかまうのをやめて、母を見る満。
「そのチラシ?」
「え?ああ、そうそう。これ。はい」
受け取る。
「ん~・・・?」
「体調、よくなってきた?」
「藤沢武人の個展っ?」
思ったより、声が出るようになっていた。
満は母を見る。
「ありがとうっ。ママちゃんっ」
* * *
「はぁっ?」
思わず大きな声をあげ、久也を見たのは蔵人。
「転校っ・・・?マ・ジ・で・か」
「そうマジ」
半笑いをしながら答える久也。
日曜日。
三浦家の二階、蔵人の部屋。
コンコン、とノックが二回。
飲み物を三人分と、重いガラスの灰皿を乗せた盆を運んできた樹里。
「ありーがとー」
「いえいえ。それより、あのこと言った?」
「転校してくること聞いてたのかっ?」
「あははっ。そうっ。テンションあがるよねっ」
樹理は飲み物を手渡そうとして、久也の耳に気付く。
「ピアスの穴、また増えた?」
「ああ、分かった?」
「ただの自虐癖だ」
「臆病者~」
「ピアスって魔除けのために開けるひといるけど、ここまで開けたら逆に寄ってきそう」
「銀の装飾品は魔除けだっていうから大丈夫っぽい」
「いいな~」
更に久也の顔に近づいて銀装飾の細工を見ようとする樹理。
「樹理っ」
「なにっ?」
驚いて兄を見る樹理。
久也は笑う。
「僕ってキス魔なの」
「ああ、初対面でいきなりお兄ちゃんにキスした話?」
樹理は兄を見る。
「妬いたの?」
「俺はこいつと付き合っていない」
「妬いたのかどうか聞いてるのに・・・」
「フラれたかも~。えーん、えーん」
タバコをくわえながら、片手で嘘泣きしぐさの久也。
「僕のファーストキス返して~ん」
「お前の方から無理やりしてきたんだろうが」
タバコに火をつける久也。
紫煙を吐く。
数秒の間。
「で、おもてなし、は?」
「色々考えたんだけど、今からマックに行かない?」
「マック?」
「マック、ではなく『マクド』だ。『マックド』というヤツもいるらしい」
「なにそれ?」
樹里と蔵人が同時に言う。
「「マクドナルド」」
「ああ、『エム』ね」
樹里と蔵人の言葉が、またかぶる。
「「そんな言い方、初めてきいた・・・」」
「ほんと、仲いいのね。君達」
「そんなことより、夢の話だ」
久也は本当に意外そうな顔をした。
「意外。そんな話するな、って言われるのかと思ってた・・・」
蔵人が立ち上がるので、外出の準備にとりかかるのを察し、タバコを灰皿で消す久也。
樹里はストローから口を一旦離し、そしてもう一口飲んでから盆に置いた。
「片づけてくるね」
樹里が灰皿と三人分の飲み物を盆に乗せて部屋を出ていく。
それを見届けて数秒後、立ち上がった久也は蔵人をじっと見つめた。
「なんだ・・・」
「僕のこと嫌いにならないで?」
「何かあるとピアス開けるのやめろ」
「ピアス嫌いなの?」
「父を思い出す・・・」
「どうも御贔屓に」
「知らん」
「取引先の御子息同士、仲よくしようよ」
「お前、今、俺の唇狙ってるだろ?」
そう言うか言うまいか、蔵人は髪の毛をぐいとわしづかみにされた。
そのまま引っ張られて、気づくと久也からの熱烈なキス。
蔵人は一旦久也の顔から自分の顔をそらし、上質なメガネを取った。
蔵人は自分の方から、久也の唇を奪いにいった。
唇同士でもみあうようなキス、数秒。
気が済んだのか、二人は熱っぽい感情を消化しながら顔を離す。
「なんでその先、ダメなの?」
「うるさい。そろそろ樹理が来る」
「ああ、そう・・・で、なんで『エム』?」
「黒制服がいるのだ」
「何っ?何担当っ?」
「ポテト」
「それは行かねば」
ノックが二回して、ドアが開く。
樹理が顔をのぞかせる。
「車来たよ」
「まさかリムジンで行くの?」
「え、ダメなの?」
「いや、知らない・・・」
白いリムジンでマクドナルドへ向い、店内に入る三人。
ざわざわとした店内。
注文を終えて、四人席につく三人。
樹理は本題を切り出した。
「あのね、不思議な夢を・・・久也君も見るんだよね?」
「そう」
「あの、青い髪の少女の?」
「そう」
「何なんだ、あの夢は?」
「なんだと思ってる?」
「さっぱり分からん」
「あのね、あのね?」
樹理は二人を見て、言った。
「前世だったりして」
久也と蔵人はぱちくりとする。
「前世の記憶を、夢で見てる、って意味?」
「そう」
「なるほど、樹里の前世は天使だったのか」
「あはは。じゃあ、ねぇや」
「僕はなくもないと思ってるけど」
「なんで?」
「メイトって知ってる?」
「それは魂とかに関係するやつのことか?」
「そうそう、知ってるの?」
「バウンダリー・ソウル・メイト、とかだろ?」
「そう。ありえなくもないと思う」
そう言った所で、注文の品が運ばれきた。
少しの間、黙っている三人。
感じのいい店員が去ると、話を続ける。
「要は因縁があるってのか?」
「このポテトの盛り付け、芸術的っ」
「だよね~」
「人の話を聞け」
久也はポテトを食べて、しばらく間を作った。
彼がわざと間を作っているのが分かったので、三浦兄妹も食事を始める。
久也が独り言みたいに言う。
「ソウルメイト、知ってたのね~・・・」
蔵人が眉間を寄せる。
「父が家にいる頃、そういうのちょくちょく話すひとだった」
「ん」
バーガーからはみ出したソースが指につき、それを自然に舐める樹理。
久也はほほ杖をつく。
「僕、ミネアナ」
「は?」
「僕、夢の中でミネアナ。アテネとか、ミネルバとも呼ばれてる」
「ギリシャのアテネと関係あるのかな?」
「あるかもね」
「俺は白夜とか、ヘルメイスって呼ばれていた」
「私はリン」
「ヘルメイスって言うのは~・・・」
「前に聞いた」
「ああ、そうだった。話したね」
久也は飲み物を飲む、という行為で間を作った。
溜息。
三浦兄妹を見る。
「本当に前世だったら・・・どう思う?」
三浦兄妹は顔を見合わせた。
樹理が無邪気に言う。
「運命だと思うっ」