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四章之弐 運命の歯車が廻る


忘却レテの川はまだか?」

「はい。もう少しで着く頃かと思います」


「特別に付き添いを許しているんだ。道案内くらい適切に」

「わかっています」

「本当にこの経路けいろであっているのか?」

「近道でございます」


 カシャカシャと金属音。

 いつの間にか夢の中に、そして夢の中では、鳥籠とりかごのようなものに入っていた。

 カバーの隙間すきまから、砂漠の砂が見える。

 どうやら、籠に乗せられ、どこかへと向かう途中らしい。


「なっ・・・」


 突然の衝撃しょうげき

 籠を運んでいた男達が倒れ、また鳥籠も倒れる。

 うめいている男達の声。

 誰かがカシャカシャと鳥籠のカギを開けた。


 そこに見えたのは、見覚えのある姿。

 リンのことを、「私の娘」と呼んでいた、恰幅かっぷくのいい巨乳の女性。

 あずき色の服や、その手が、赤黒く染まっている。

 

 砂漠に出ると、そこには弓矢を持った顔を長い布で隠した者達が数人いた。


「天使か」

毛色けいろも珍しい」

「こりゃあ、いい金になる」


 まさか、売られる・・・?


 そう思った次の瞬間、場面転換。

 そこは、手術室のような場所。

 鏡に映る自分を見つける。


 そして、フラッシュ・バック。


 弓矢で射殺いころされる、あずき色の服を着た女性。

 リンが「アンマ」と言っていた女性の、最期のシーン。

 巨乳の真中に矢が刺さり、彼女は血を吐いた。


 ショックを受けている間に、狩人かりゅうどたちに注射ちゅうしゃをされる。

 どくか、そうでなければ麻酔ますいのようなものだろう。


 『アンマ』に苦しそうな声で言われる。

 手を伸ばそうとするが、すでに身体の麻痺まひは始まっている。


「リンっ・・・あなたは分かっている筈。また運命が廻りだした・・・あまたは探しに行かなければならない。そうメルティーナ様も、ナディア様もおっしゃっていた」


 アン、マ・・・


「東の森へ行きなさい。そこにきっと、『彼』がいる・・・私はここで死ぬけれど、畑をたがやす役でしかなかった私にも、少しだけ予定を変えることができた。私は『急がば回れ』をやつらに教えなかった。また始まるんだ・・・運命のが、また、廻りだす・・・」


 アンマ・・・


 彼女は精悍せいかんに口元に笑みを浮かべ、その場に倒れた。


「私のような身分の低い役割でも、誰かの役に立てるんだ・・・私の死は、無意味じゃないんだ・・・」


 アンマの目は、幻を見ていた。

 きっと面倒めんどうを見てくれていた義理の父、アンマの夫の庭師が微笑んだのだ。


「そうだろう?あんた・・・」


 そしてアンマは動かなくなり、一泊の間の後、再び鏡に映る自分を見つけたリン。

 大きな感情がいっきに噴き出してきて、両手をかざす。

 破壊行動。


 そして白い廊下で、ビャクヤとビャッコに出会う。

 ひとときの別れ。


 砂漠の上空じょうくう


 きっと探し出すんだと、へとへとになりながらも、心の中でつぶやく。


 意識の低迷ていめい


 樹海の上。

 ひときわ大きな木を目指していたが、そのあたりで意識が途切れた。


 轟音ごうおん


 自分が宮殿きゅうでんの聖堂のような、広場のような場所に落ちたのだと知るのに時間がいる。


 そこに現れたのは、茶髪に金色の目をした男と、黒髪にグリーンアイのひと。



 ここ、前に夢に見た・・・

 ルシファーとの出会いのシーンだ・・・



 身体の所々が折れ曲がっているが、痛みは不思議と感じない。



『夢だからかなぁ・・・?』



 え?

 今、感想かぶった?



 全身黒ずくめの彼が、近づいてくる。

 すぅ、っと、痩身そうしんの剣を抜いて、私に向けた。


「お前は何者だ?何故空から落ちてきた・・・?」


 彼、だ・・・

 やっと、見つけた。


 リンは嬉しくなったのか、微笑んだ。


「なぜ、笑っている?答えろ」


 いずって彼の元へ近づき、そして、彼の足に抱きついた。


「なんなんだ、お前は・・・」


 彼は一歩、さがる。

 彼の足に巻きついたまま、再び意識は落ちようとしていた。


「青い銀髪・・・」


 巻きつく元気もなくなって、足にもたれかかると、姿勢しせいが崩れた。

 しかし動けない。


「青い銀髪の天使・・・リン?」


 天井に開いた穴から風が吹いて、散らばった羽根がふわふわと舞った。

 姿勢が更に崩れ、床に倒れた。


 彼らが『生命維持回復装置』と呼んだカプセルの中に入れられる。


 気づくとそこはベッドの上。


「お前、頭の中の声を、外に放てるな?」


 うなずく。


「ラ・ピュータ・・・浮島の話をききたい」


 うなずく。


 場面転換。

 いつの間にか、彼はベッドの中で横にいた。

 

 え・・・


 下半身はシルクの掛布団かけぶとんに隠れて見えないが・・・

 おそらく、彼ははだか・・・

 リンも、だ。


 彼は空中に指先でえんを描きながら言った。


「ラ・ピュータの中には大きな羽根があって、それが回って動いてるんだ」


 それは本当のはなし?


 彼は微笑した。


「美味いか?」


 うなずく。

 いつの間にか場面転換。


 そこには、花づくしの食卓。

 彼とふたりきりの食事。


 ・・・

 ・・・・・


 急に壺が空中で割れる。

 青空を背景に、蜂蜜が弾ける。


 レテ ニ ムカッタ ノハ 輪廻転生りんねてんしょう ノ タメ・・・


 愛称あいしょう ヲ 『リンネ』、たましい ヲ ケタ 娘 ハ 『リン』ト言ウ。




 * * *




 着信音で目が覚めた。

 樹里は目をこする。


「ん~・・・」


 携帯電話を手に取る。

 時間は、朝十時十七分。


 今日は日曜日だ。


「メール・・・誰だろ?」


 メールを開く。


【携帯電話の機種変更してきたよん。テル番は引き継いだけど、メルアド変更しました♪よんろくよんきゅう。工藤久也より】


「こちらこそ、4649(よろしく)・・・送信、っと」


 樹理は起き上がり、着替え。

 一階に降りて朝食をしにリビングに行くと、ハウスキーパーがいた。


「おはようございます。お手紙来てますよ」

「おはよーございます。お兄ちゃんは?」


「まだ眠っていらっしゃるようです」

「ああ・・・疲れてるんだなぁ」


「朝ごはん、できてますよ」

「はーい、食べます」


「スープ、温めなおしてきますね。手紙はテーブルの上に置いてありますから」

「ありがと、です」


 テーブルの上に置いてある、封筒を手に取る樹理。


「三浦 蔵人 樹理 さん へ」


 差出人を確認しようと、封筒の裏を見る。



「フジサワ・タケト・・・」



 そこには、藤沢武人ふじさわたけと、と書いてあった。


 樹理は封を開き、中身を取り出す。

 二枚のチケット。


「わぁ~、個展かぁ~」


 この家では、上座かみざだの下座しもざだのと決まりがない。

 なので樹理はごく自然に、一番近くの席に適当てきとうに座った。


 携帯電話が鳴る。

 樹理は届いたメールを確認。


「あれ?」


 工藤久也からのメールだと思ったのだが、差出人さしだしにんは広瀬棗だった。

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