二章之五 闇が生んだ光
通学路。
棗は徒歩で学園に通っている。
携帯電話のインターネット機能で検索。
「ルシフェラーゼ・・・」
数秒の間。
検索がひっかかった。
「は?」
まさか検索がかかるとは思わなかった。
何となく、調べてみたくなっただけだからだ。
[ルシフェラーゼ:生物発光の解媒をする酵素の総称。分子状の酸素を用いてるルシフェリンを酸化する働きを持つ]
違和感みたいなものを感じる。
「ルシフェリン・・・?」
検索。
[ルシフェリン:生物発光で、ルシフェラーゼの触媒作用により酸化されて発光する低分子物質の総称。発光細菌、ウミボタル、蛍などに存在し、分子構造は種類により異なる。発光素]
思わずつぶやく。
「蛍みたいな光・・・」
背中に寒気みたいなものが走る。
「何なんだ・・・」
棗は念のため、百合卵について検索をかけてみた。
検索は、かからなかった。
携帯電話の着信音が鳴る。
三浦樹理からのメールだ。
開く。
【神話好きの兄のお友達にメールしてみたのですが、ルシフェルって、魔王ルシファーのことらしいです】
「はっ?」
魔王っ?
【ルシフェラーゼで検索かけたら、ひっかかった】
【調べてみますっ】
学園に到着する棗。
二年七組の教室に入り、仲間に一通りの挨拶。
そしてすぐに、メールが入っているか確認した。
学内では、マナーモードにしているからだ。
新着メールの表示。
やはり、三浦樹理から。
【久也君から聞いたんですが、ルシフェラーゼって、ルシファーが語源だそうです】
驚く棗。
【何でだ?】
【それも聞いたのですが、おそらくは、金星のことを意味しているそうです】
「ねぇ、ねぇ、誰とメールしてるの?」
ひょっこりと現れたのは、桜庭満。
「今、忙しい」
「ああ、そう。ガム、いる?」
「何でお前は、いつもガム持ち歩いてるんだ」
「口さびしいから?」
「カバンにお徳用の飴玉入ってるんじゃないだろうな?」
「何で知ってるのっ?」
「オバタリアンか、お前は」
「みんなに配るんだよ」
「ああ、そうかよ」
三浦樹理に返事。
【金星?】
【明けの明星、光をかかげる者、朝の子の称号。大天使という最高位。輝きを広げる、って意味もあるそうです。堕天使になってからは、天使の象徴である「er:イーアール」を取り、ルシフェルからルシファーになったと言われているそうです】
【最初から魔王じゃないのか?】
【違うようです】
教室の扉が開いた。
教師が入ってくる。
「ホームルームを始めますよ~」
携帯電話をいじると没収されるので、棗は高速で返事を打った。
【ホームルーム始まるから、ここらへんにしとく】
棗は送信ボタンを押し、送信完了の文字を見ると、携帯電話をポケットにしまった。
授業準備時間。
いつの間にか、メールが入っていた。
三浦樹理からだ。
【夢の中に出てきた大きな鳥について調べがつきません】
【鷲とか鷹とかか?】
【ああっ、似てますっ】
【リンの視点で見えるんだよな?】
【そうです。百合卵、とても綺麗でした】
「ゆりたまご・・・?」
百合の種が光るのだろうか、と棗は思った。
【そうか】
【はい。あのシーンなら、また見たいです】
その文字を見た瞬間、目の前で何かが弾けたような衝撃があった。
【また、見たい?】
【はい。また見たいです】
棗はしばらく、携帯電話の画面を見ていた。
返事を打つ。
【俺は、その言葉をきいた】
【は?】
【リンは頭の中で言った。また見たい、と】
【彼女が何かを思う瞬間、夢から覚めたので、分かりません】
「ああ・・・」
【ああ、そうか・・・】
【もう授業あるので、メール区切ります】
棗はそのメールを確認すると、携帯電話を無意識の内にポケットにしまう。
片腕でほほづえを突くと、頭の中がぼうっとしてくる。
「何で俺は、知っている・・・・?」
ルシファーとリンの子供役のその光は
冥界の王になったあいつに、『ルシフェリン』と呼ばれていた。
ルシファーとリンを、もじって。