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二章之参 当たり前と当然の確認


 四十五分の休み時間。


 棗は煙草たばこいたいな、と思った。

 学校内では極力きょくりょく吸わないようにしている。


 イスをぐらぐらと後ろに揺らしながら、天井を見上げる。


 煙草を吸った気になって、ふー、と溜息。



 あの時のことを思い出した。

 理事長ジュニア。

 三浦樹理の、唇の感触。

 どうやら香水は使っていないらしく、シャンプーの香りがした。



 唐突に、会いたくなった。

 何故なのか、上手く説明できそうにない。


 一年生の教室にいるだろうか?

 確か山内が、三組だ、と言っていた。


 ひとめ見たら、満足するんじゃないかな、とか思って、席を立つ。

 特に話す気はない。

 ただ、見たくなっただけだ。


 今流行りのストーカーってやつか、とか自分にツッコむ。

 ちょっと笑えた。


 教室を出て、廊下を歩く。

 

 姿を見られたら、やはり怖がられるだろうか?

 それはそうだ。

 あんな出会い方だったのだから・・・


 何であんな節操せっそうの無いことしたんだろう・・・


 俺は言いわけしに、三浦樹理に会いに行くのか?



「はぁ・・・」



 思わず溜息が出る。



 棗が顔を上げた時だった。



 少し先の廊下に、三人の二年七組の連中が、誰かを壁際に追いやって囲っていた。

 服装から、女生徒であることを知る。

 こういうシチュエーションは好きじゃない。


 棗はそちらに歩む。


「ねぇ~え、俺達ともぉ、チューしなぁい?」


 棗は囲まれている女生徒が誰なのか察した。



「三浦樹理」



 少し声を張り上げて、そちらに声をかける。


 驚いたクラスメイトが退いて、三浦樹理が見えた。

 泣きそうな顔をしている。


 俺は心外しんがいで怒っていた。


 足早に三浦樹理に近づくと、その腕を引っ張った。


「あ、あのっ・・・」


 棗はそのまま階段を登り始める。


「あのっ・・・広瀬棗さんですよねっ?」

「何で二年のシマに入ってきた」


「お話があって・・・」

「何?」


「分からないんですっ・・・」

「俺もだ」


「あなたも?」


 棗はそれからしばらくだまりこくり、階段を上がっていく。


「あのっ・・・どこにっ?」


 棗は答えなかったが、四階まで上がると樹理は目的地がどこか気づいたようだった。


「屋上?」

「そうだ」


 階段がだんだんと薄暗くなっていく。

 棗がまぶしそうに扉を開き、二人は屋上に出る。



 しばらく、棗は背後に振り向かなかった。



「あ、あの・・・」

「何?」


「お話があるんです」

「俺もだ」


「何ですか?」

「お前から先に言え」


「あの・・・私はリンってひとじゃないです」


 棗は樹理の方に振り向いた。


「リンを知っているのか?」


「は?」



「あ・・・」


 一拍の間。


「いや、何でもない・・・」



「あの・・・あの時、あなたが、黒髪に見えたんです」

「黒髪?」

「グリーン・アイ」


 まさか、と棗は思った。


「それで?」

「ルーシーって知ってますか?」


 棗は目を見開いた。


「なんでそれを知ってる?」

「何で、って・・・夢で見て・・・」



 数秒の沈黙。



「何?」

「だから、夢で見て・・・」


「俺も、夢でリンを見た。あの時、あんたがリンに見えた」

「私はあなたが、ルーシー・・・に、見えたんです」


「ルーシーは愛称だ」

「そうです」


「本当の名前を知っているのか?」


 樹理は、数秒黙った。


 言っていいのかどうか、考えているようだった。



「ルシフェル・・・」



「そうだ。俺はルシフェルの夢を見る。やつの目線の夢だ」


「私は、青い髪の子の視点で夢を見るんです」



 風向きが変わって、三浦樹理がほのかに放つシャンプーの香りが、棗に届いた。




 * * *




「ねぇ~え、棗はっ?」

「知らねぇって」

「ブー」


 樋口葉介の席の前、その席に対面するようにイスに座っている桜庭満。


「また屋上で昼寝かなぁ」

「君は、何かと、棗、棗、だな」


「そうだよっ。何が悪いんだよっ」

「別に・・・」


「別に、ってその反応何なのさ?」

「いや、棗は愛されてるなぁって思ってね」


「葉介だって、棗のこと愛してるだろ?」

「うわっ」


「何?」

「はっ、ず~っ」


「照れてるの?」

「はっ?」


図星ずぼしさされて、照れてるの隠してるんでしょ?」

「なっ・・・」


 葉介の耳が赤くなっていく。


「あははっ」

「からかうなっ」


「僕をからかおうとするからだよ」

「じゃあ、お前、何、棗のこと愛してるのかよっ?」


 ガムを噛んでいた満が、意外そうな、不思議そうな顔をする。


「何、当たり前のこと言ってるの?」

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