優等生の文学少女に、本の虫干しの手伝いに駆り出されたら、彼女の秘密を知ってしまった件
七冊の重い文学全集を机にどさっと置くと、俺は窓の向こうを見た。
抜けるような青空だ。
「ああ、アイス食いてえ」
期末試験が終わり、後は夏休みを待つだけ。
「戸田君、さぼらないで。アイスなら司書の先生が買いに行っています」
細腕に十冊の分厚い本を抱えた図書部員の瑞希が言った。
窓という窓を開け放った放課後の図書室で、三人の女の図書部員と、三人の手伝い男子生徒がせっせと働いていた。
読む奴がいるとは思えない大量のなんとか全集を、書架から下ろし、机に積み上げていく。
今日は、一年一度の虫干しの日だった。
古い本は虫が食うので、乾いた日にぱらぱらページをめくって空気にあてないといけないらしい。
三人の女子学生では手に余る。
それはわかる。
しかし、お礼がアイスだけというのは割に合わない。
ちょっと休むぐらいいいじゃないか。
ぱらぱらと文学全集「平家物語」をめくる。
「戸田君、早く向こうの棚の本を下ろしてください。私たちの分担です」
「わかったよ。やればいいんだろ、やれば」
幼馴染で同級生、成績優秀な文学少女は、中々にムカつく奴だ。
図書室の最奥は天上まで続く書架だ。
梯子を使って最上段まで昇る。
本当にこんなに本って必要なのか。
断捨離しろよ。
そう思いながら重い全集に手を伸ばす。
背表紙には「平家物語」と書いてある。
「何これ。さっきも『平家物語』あったぞ。なんで同じ本がいくつもあるんだよ。捨てろよ。虫干しの手間が増えるだけじゃねえか」
「なんてことを言うのです! さっきのは『一方系』。全十二巻とは別に灌頂巻があって、無常観をかきたてる建礼門院の後日潭で幕を引きます。一方こちらは『八坂系』。灌頂巻はなくて、平家の六代が処刑される『断絶平家』でバサッと終わるのです。底本違いの本がないと読み比べができないでしょう!」
一息で一気に言い切った瑞希に、思いきり俺はビビった。
「……あっそ」
よくわからん世界だ。
首を振って棚を見ると、でかい全集に隠れて、新書判が三冊あった。
「瑞希、これなんでここにあるんだ」
梯子から下に三冊投げた。
「ちょっ、本を投げないで」
俺に文句を言った瞬間、瑞希が息をのんだ。
「こ、これは、魔界都市ブルース! 菊池秀行先生の代表作だけどエロすぎて高校の図書室に置くような本じゃないのに! っていうかちゃんとビニールカバーついてるし。貸出カードまで!」
「で、なんでお前はそれを知っているんだ」
瑞希が俺を見上げて固まった。