クールな幼馴染から言われた一言で日常が変わった俺の話
それは何て事の無い、いつもの日常。
花の高校生である俺――深山幸太――は今日も自宅への帰路についていた。
隣を歩く幼馴染、福井かなと共に。
今日は朝からやけに静かだな、と思いつつも俺から話しかける事は殆どない為、学校を出て自宅までの道程が半ばになる今まで俺達の間に会話は無い。
「付き合おっか……私達」
隣を歩いているかなは前を向いたまま、普段よりも若干の固さを感じる声音でそう言った。
――――――は?
「……え?」
「だから――」
そう言いながらかなは立ち止まり、感情を汲み取る事が出来ないその顔色に僅かな朱を差しこちらを見上げて――
「付き合おっか……私達」
普段よりも若干の固さを感じる声音でそう言った。(2回目)
――――――は?(2回目)
「…………」
「…………」
「……どこに?」
「付き添うじゃなくて付き合う、交際」
「……マジ?」
「マジ」
クラスの男連中が口を揃えて美少女だと言う位には端正な顔立ちをしたかなが、真剣な表情をして俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。
何この生き物、超可愛いんだけど。いや、付き合うってマジ? え? 本当に? いや、かなが可愛いのはマジなんだけどね。
「嫌なら別に良いけど」
一人でバカな思考に陥っている俺を置いて、かなは前に向き直り歩き始めた。先程までの雰囲気を感じさせず、俯き加減に歩いていく様を呆けて見ていた俺は慌てて後を追いかけ隣に並ぶ。
「あれだ……周りの友達が男つくってるからって自分も、とか思っ」
「そんな訳ないでしょ」
俺が言い終わる前にそう返したかなは極寒の冷気を纏っているかの様だ。なるほど、かなは氷タイプか。違うか、違うな、うん。
……素直に理由を聞いておこう。付き合った後で互いの気持ちに相違があって、そこまでのつもりじゃなかった、なんて言われたら死ねる。
「だったらなんで俺と付き合うってなるんだよ」
「はぁ」
何だそのため息は……はっ! なるほどな、付き合った後で高い壺とか水を売り付けようとしたのに意外にも粘ってきた俺に対して面倒だと思ったんだろう!
……無いな。
だったら……かなは俺の事が好き? いやいや普段の態度を思い出せ、俺と居る時は感情を何処かに忘れたかの様なクールガールじゃないか。
まぁ、わりと会話はしてんだけどね。今朝は「おはよ、いこ?」しか聞いてないけど。
「はぁ」
俺が黙ったままでいると、かなはもう一度これ見よがしに息を吐いた。
「……さっきから、なんのため息だ」
「これだからこの男は……のため息」
心底呆れてますと言わんばかり表情で、ちらりと此方を伺ったかなだが先程から――と言うか朝から――何か考え込んでいるようだった。
付き合おうって言ってみたり、ため息だったり、意味がさっぱりわからん、さぱらん。
「まるで俺が鈍感系主人公みたいな言い方だな」
「………………」
なぜ無言!
「………………」
「………………」
「幸は私の事好きなんだと思ってた」
ファ!
――――びっくりし過ぎて音階飛ばしちゃったよ、ドレミから言わないとな……うん……は、え、何考えてんの? 俺。
「……………私は………の事……………」
思考力が何処かに飛んでいた俺はかなの呟く様な声を聞き逃したみたいだ。何言ってんのか聞き取れなかったけど……それよりも。
「顔赤いぞ、どうした? 大丈夫か?」
「……っ……赤くない」
「いやどう見ても――」
「うっさい!」
耳まで赤くしたかなは、歩調を早足に変えて先を進んでいく。まぁ俺が普通に歩くより少し早い位だが、と思いつつかなの少し後ろをついていく。
「………………」
「………………」
そう言えばさっき聞き逃した事があったな。
「なぁさっき何て言ったんだ?」
「……っ……」
一瞬肩が跳ねたかなだが何もなかったかの様にスタスタと歩いていく。
聞かれたくない様な態度をとられると益々聞きたくなるのは当然じゃないのかね。
「なぁ気になるんだけど?」
俺がそう言った直後かなが足を止めた為俺もそれに倣い足を止める。
「………き」
「かな?」
こちらを見ず俯いたかなが何かを言った様だがはっきりとは聞こえず、問いかける様に名前を呼んだが、かなは黙したままだ。
「………………」
「………………」
「かな?」
もう一度名前を呼ぶと、かなは唸り? ながらこちらに振り返る。
「うう…………いい加減察しろ!」
「察しろと言われてもな」
「うう……」
俺を見上げて唸る? かなはとても可愛い…………いや察しろってなんだよ。
つーか本当に何なんだ? 今日は朝から口数も少なかったし。
「なぁ今日はどうしたんだ? 朝から変だぞ?」
「………………」
「………………」
「……よし」
決意を籠める様にかなは呟き、俺を睨んだ……睨んだ? いやいや見つめてくる……であってるよな?
「察しろとか気付いてとか幸には無理って、私こそ気付くべきだった」
若干貶されてる感じがするが気のせいだと思いたい……。
「一緒に居るのが当たり前みたいな関係が終わるかもしれないのはとても怖い」
真剣な、そして若干の怯えも感じる様なそんな表情から俺は視線を離せない。
「だけど、もう逃げない」
かなの目はとても綺麗で、俺にも逃げる事は許さないと言っている様な、そんな気がした。
「私、幸が好き……」
******
これは、クールな彼女から言われた一言で日常が変わった俺の話。