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クラウドと友達になってから2日。
それは突然訪れた。
昼食の準備をしていたときに、コンコンと家の扉を叩かれた。
はーい、と返事をして扉を開けて、驚いた。
「こんにちは。リディ」
手土産をぶら下げて、にこやかに微笑むクラウドがいたからだ。
―――――――
そして現在。
リディアナとクラウドは二人で昼食をとっている。
ちょうど昼食の準備をしていたこともあり、もしよければ食べていかないか、と提案したリィディアナに、クラウドはすぐさま頷いた。
そういうわけで、天気も良いため家の裏手にある草原にテーブルと椅子を出し、お昼をすることになった。
「お待たせしました。クラウドさんのお口に合うかはわかりませんが…」
おそらく貴族であるだろう彼はもっと良いものを食べているに違いない。
「いえ、こんなに美味しそうな料理は初めてです」
「…ありがとうございます」
一瞬皮肉か?と思ったけど、クラウドの真面目な顔を見て、本心なのだと認識する。
ちなみに今日はただのシチューとサラダとパン。
野菜も肉も質の良いものではないんだけど。
さあ、食べましょう!と食前の祈りを捧げ、料理に手をつける。
シチューをすくい、口をつけるクラウドを恐る恐る窺っていると、一口食べた後にぴたりと動きが止まってしまった。
(あ、やっぱり口に合わなかったかな)
「あ、あのクラウドさん、もしお口に合わなければ…」
無理しないでくださいね、と続けようとして、アメジストの視線に遮られる。
「……とても、美味しいです」
(うわぁぁ!目の保養!癒し!前世で自炊やっててよかった!)
そういうクラウドのはにかみ笑顔に心中で悶えていると、さらに大きな爆弾を落とされる。
「それに、初めてなのです。友人から振る舞われる手料理が」
「……っ!?」
はにかんだ表情が少し変わる。
細められた双眸から覗く潤んだアメジスト、薄く色づいた頬
溶けるように微笑まれて、一瞬息が詰まった。
心臓に悪い…
(こんなので良ければいつでも作りますとも!)
もぐもぐ食べ進めるクラウドを目に自分も食べ始める。
(というか、お友達パワーってすごいんだなぁ)
前回と比べると雲泥の差。
とはいえ、たしかに初対面の人にいきなりご飯に誘われても、喜ぶどころか警戒して断るだろう。
それに今日だって、知り合ってまだ数日。ほぼ初対面。
あれ、この間も今日も深く考えずに誘ってしまったけど、もしかして軽率なことをしてしまったのでは?
「リディ?どうしました?」
食べる手を止め、真っ青なリディアナに気が付いたクラウドに声をかけられる。
「あの、クラウドさん」
「なんでしょうか?」
深刻そうなリディアナの表情にクラウドの表情も固くなる。
「初めて会った時も今日も、なにも考えずにご飯に誘ってしまってすみません。普通に考えたらびっくりするし、警戒しますよね。今日だってまだ3回目なのに…」
全てを諦めたような、陰った瞳が気になって声をかけ続けたが、逆の立場なら怯えて逃げ去っただろう。
「正直に申し上げると、最初は警戒する気持ちがなかったとは言えません。でも貴女と知り合い、こうして一緒に食事をとっているこの時間を、わたしはとても好ましいと感じています」
それに、とクラウドは続ける。
「あんなに無愛想な態度をとったにも関わらず、何度も声をかけてくださってありがとうございました」
「…尊い」
心の声は思わず口から小さく溢れてしまったようで。
「なにかおっしゃいましたか?」
「いえ!なんでもないです!食べましょう!」
軽率な行動を咎めることもなく、逆にお礼を言われるとは思わなかった。
これを大人な対応というのだろうか。
この日、クラウドは昼食を食べ終わると、この後仕事があるんです。と残念そうな顔をして魔女の家を後にした。
帰り際に、そうだ。とクラウドはリディアナを見た。
「2日後、なにか予定はありますか?」
「ええと、いつも通り、薬を作って、お菓子を作って、村に売りに行きますが、お昼過ぎには終える予定です」
「では、2日後の15時ごろにまた来ます。一緒にお茶をしましょう?」
「もちろん、一緒にお茶はしたいですが…妖精の森は暗くなるのが早いので迷う可能性があります」
だからもう少し早い時間にするか、別日にしないかと提案しようとしたところで先にクラウドか口を開いた。
「わたしはこれでも騎士なので、大丈夫ですよ。それに、迷う…ですか?」
騎士なんだ…!と感動すると同時に、心底不思議そうばクラウドに、リディアナは困惑した。
こんな複雑な森で迷わないというのだろうか?
「妖精の森が迷いやすいという話は、王宮でも聞いたことはなかったのですが…」
あれ。これは私の方向認識能力の問題かもしれない…