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些か、いえ、大変乗り心地の悪い乗り合い馬車で揺られること1時間。
本日の目的であるディゼルの町に到着した。
(いててて…前世の記憶があると、舗装されていない道を馬車で揺られるのは慣れないなぁ)
魔法でちょちょいと瞬間移動!なんて出来たら楽なのだろうけど、生憎そんな便利な力は持ち合わせていない。
私にできるのは、薬草を混ぜ合わせて薬を作ったり、フルーツを混ぜ込んだお菓子を焼くことだけだ。
もちろんおばあさまは手から炎をだしたり、雪を降らせたり、土を操ったり出来るのだけど。
それに馬車の中は情報交換の場所なのだ。
主に最近の王都の流行について。
それに合わせてこちらも次回から持っていくものを変えたりもする。
「それじゃあリディアナちゃん、頑張ってね」
「ハデスさん、色々情報をありがとうございました。ではまた」
馬車で知り合った行商人のハデスさんにお礼を言い、私も生活費を得るために歩き出す。
―――――――
「いらっしゃい!」
「こんにちは、ベルおばさん」
「あら!リディアナちゃんじゃない!久しぶりね」
おばあさまの時からずっとお世話になっているお店の扉をあけて、挨拶をする。
「今日持ってきた商品なんですが...」
籠から薬類を取り出して並べる。
「どうでしょう?」
「いつも通り質も良いし、これくらいの買値でどうかしら?」
「いつもありがとうございます」
「そういえばサルティアは帰ってきた?」
サルティアというのはおばあさまの名前だ。
首を横に降ると、ベルおばさんは苦笑した。
「サルティアは昔から自由人だからね。何か困ったことがあればすぐにうちにおいでね」
「その時はよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、ベルおばさんは思い出したように手を叩いた。
「そうだ、リディアナちゃん。カナリアの丘で日和実草が咲いたみたいよ」
「今年はいつもより早いですね。ありがとうございます、行ってみます」
日和実草というのは、現在研究途中の薬に必要な薬草で、名前の通り開花時期も採れる数も毎年異なる。
そのため、採れるときに確保しなければならないのだ。
(まだお昼まで時間はたっぷりあるし、日和実草採取ついでにカナリアの丘で早めのご飯を食べようかな)
ディゼルの町でも有名なパン屋でサンドイッチを購入し、リディアナはカナリアの丘へ向かった。