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c.『初めての依頼(前編)』

意識が覚醒する…


エレノアを祝うために狩りに出掛けて、先程まで豪華な夕飯を二人で楽しんでいたのだが、いつの間にか寝てしまっていたようだ。


普通、食事中に寝てしまうものだろうか…?


いや、これはエレノアの開けたお酒のせいだろうなぁ…

飲めもしないのにお酒をガバガバ飲んだような…



しかし、眠ってしまったものはしょうがない。


少し経てば自動回復スキル『パーフェクトリジェネレート』の効果で酔いは覚めるが、睡魔については強制的に眠らされたりした場合にしか飛ばないので身に危険が迫っていない限りすぐには覚まさない。



しかし、何らかが原因で今は意識だけが覚醒している。



夢というやつか…

また俺に過去を見せつけるのか…






━━━━━━━━━━━━━━







魔人が俺たちを襲撃してからひと月…



魔人襲来後、半日待たずして王都の騎士達が早馬で現地に駆けつけてくれたが、あまりの惨状に息を呑む者が多かった。


彼らの馬に乗せてもらい、俺と穹、そしてアリアネス姫は王都に戻ったわけだが、それはもう色々あった。



通りすがりに「さすが勇者様だ」と讃える者もいたが、俺がボロボロだったっていうのもあり不安に思う人々も沢山いた。


特に亡くなった騎士達の親族からはどう言ったらいいのかわからないような感情をぶつけられ、人によっては罵声を浴びせてくる者もいた…



「なんで守ってくれなかったんだ」と…



俺に対しても酷かったが、一緒にいながら何もしなかった穹を責める声も凄まじかった。

実際は「何もしなかった」のではなく、「何も出来なかった」が正しいのだが…


現場に居なかった者たちはそれはもう好き勝手言ってくれた。



そして、色々話し合った結果として俺たちは魔王討伐と称して逃げるように王都を去って旅に出たわけだが…





魔人が襲撃してきた時のことが忘れられないのか、穹は終始乗り気でなかった。


この時点で俺は穹を王都に置いてきて安全を確保してもらうよう頼んでおけば良かったのだが、当時の俺は近衛騎士が魔人相手には役に立たないから自分の近くに居てもらった方が良いと思っていた。

自分の近くの方が安全だと…



そして、もう一人旅に同行してきた者がいた。


リーシャ・オルニア・アーガルト。


金髪赤眼の美少女で、宮廷魔法士の一人だ。



どう話しかけても素っ気ない態度で「はい」か「いいえ」しか言わず。

恐らく旅の同行に関しては国王の命令で渋々ついてきたんだろうなぁ…っていう感じだ。


同行者はどちらも乗り気でないのである。



まぁ、魔王討伐と言ってはいるが、実際問題魔王はまだ出現していないし、穹を戦いから遠ざけるために安全な地を探すのがこの旅の目的だ。


宮廷魔法士ともあろう人物がこんなのを許せるかと言ったらまぁ無理だろうなぁ…




ともかく、魔人襲撃の影響で商業都市であるバーハルンには行けなかったので、俺たち一行はその事情説明と警戒を促すためにバーハルンへと向かった。


国王直筆の手紙と詫びの品を預かっているし、旅の資金を依頼料として前払いで貰っているため断るつもりは無かった。



だが、魔人と出くわした道を通るというのもあり、最大限の警戒しつつ向かった。

幸い、バーハルンの商人が帰りの護衛を探していたので、護衛として乗せてもらい歩いて向かうなんて事にはならずに済んだ。



「大丈夫か、無理していないか?」



「うん…だ、大丈夫だよ」



向かってる途中、俺は一定時間毎に穹に対して何度か同じ質問をしているが、心ここに在らずといった感じで何度同じ質問をしても同じ返事しかしない。


普通ならば「しつこい」とか「うるさい」と怒りそうな回数だが、怒るどころか同じ質問をされていることに気付いてすらいないようだ。



同じ道を通ってることもあり、余程トラウマを植え付けられたのだろう…


かく言う俺も目の前で騎士の首が落ちた時は衝撃のあまり固まってしまったな…


男の俺でもそれほどショックを受けたんだ、女の子…ましてや穏やかで勝負事にすら参加したがらないような性格の穹にとってどれほど衝撃的だったのかはもはや言うまでもない。



「穹は…俺が守るから…」



半ば独り言のような、自分に言い聞かせてるかのような…

ただボソッと小さく呟いただけだが、穹の耳にも届いたのか軽く頷いて、表情も先ほどより少し和らいだような気がした。



リーシャの方から視線を感じるが、どんな気持ちなのかはわからない。

ただ、穹に魔法を教えたこともあるような仲なのできっと心配してくれているのだと思う。





結局何か起こるということもなく、しばらくして無事バーハルンに着いた。


道中、ずっとボーッとしていた穹がパチパチと目を瞬かせるが、無理もない。



バーハルンは王都同様に大きな壁で囲まれているのだが、中に入るともはや別物であった。


王都でも多少は賑わっていたが、バーハルンはその比ではない。

どこを見渡しても道には露店、お客さんで大賑わい。


王都では少なかった亜人も数多くいる。

客としても、商人としても…そして、奴隷としても。



護衛していた商人から報酬を受け取って商人とは別れて三人で行動を開始する。


物珍しそうにあちこちを見ている穹に対してリーシャは特に興味なさそうだが、商業都市の長に会う前にブラブラ回ることにした。



美味しそうな食べ物のお店や掘り出し物を並べているお店、本当に様々なお店がある。

人混みも多く落ち着けるところもなく、食事をするだけでも大変そうである。



「…クロギリ様、どうやらつけられているようです」



「えっ…」



全く気づかなかったが、リーシャがそう言うのであればそうなのだろう。

勇者とはいってもリーシャの方がこういったことは経験が豊富なのだ。


目で着いてこいと言っているような感じがしたので、はぐれないように穹の手を握ってついて行く。


驚いたような嬉しそうな顔で穹はついてくる。



何度か角を曲がるのを繰り返した後、リーシャは腰にしのばせていた刃物を取り出して振り返る。

俺は邪魔にならないように彼女の後ろにサッと回る。


少しすると様子を窺うような感じで、フードを被った怪しい奴がスッと現れた。

フード付きのローブは足元までの丈があり、男か女かは残念ながら見分けはつかない。


だが、相当な追尾能力がある事がわかる。


ここに来るまでに角を何度も連続で曲がったりしたため、かなり近くにでもいない限り見失ってしまいそうなものだったが…

ある程度の距離を保ってここまでついて来るとはな。

加えてこの人混みである。

素人には中々出来ることではない。



しかし、ここまでの能力があれば待ち伏せされている事も何となくわかりそうだが…



つけてきた奴はリーシャと目が合うとビクッと驚いたのか一瞬後ずさる。

だが、逃がすはずもなくリーシャは一瞬で距離を詰めて短剣を突き出す。


リーシャは宮廷魔法士であり、専門は魔法ではあるが、自衛のためにも多少は接近戦も行える。


不意打ちであそこまでの至近距離での突きには流石の近衛騎士すら反応出来きないだろう。



だが、どうだ?

フードの女性はすれすれの所で躱したではないか。



何故、女性なのか…

短剣が掠った際に深くかぶっていたフードの一部が切れて顔が露わになった。


加えると、ただの女性ではない。


亜人…それも身体能力、動体視力、さらに嗅覚においても人間より優れている獣人の女性である。


彼女はその人並外れた嗅覚で追ってきて、脅威の動体視力で突きを見切り躱したと…


思わず俺まで警戒して聖剣に手が伸びる。



「ま、ままま待ってくださいっ…!」



するとギョッとして獣人の女性はバタバタと手を上げたりして必死に何かを訴えてきた。

顔つきからして何かをよからぬ事を企んでいるようには見えないが…



「…聞くとでも?」



「いや、待ってくれリーシャさん!」



問答無用で短杖を取り出して叩きのめそうとするリーシャを止めると、不満そうな顔を俺に向けるが気にするのはあとだ。

リーシャとはあまり関わりがなかったため仲は正直良くはないのかもしれないが、勇者という立場である俺にはあまり逆らわないよう言われているのか渋々だが言うことを聞いてくれた。



「た、助かった…っじゃなくて…!」



「それで、俺たちに何の用だ?後を尾けてきたようだが、返答次第では…」



「ま、待つっす!?危害を加えるつもりはありませんっ!ただ少しお願いがありまして…っ!!?」



お願い?

勇者が現れれば噂になってもおかしくないが、直々にお願いとは一体何を…?


そして、リーシャは睨むのを止めんかい。



「聞くだけ聞くけど、内容によっては受諾出来ないからな」



「あっはい!聞くだけ聞いてもらえれば…!」



リーシャは相変わらず睨んだままだし、穹はやや不安そうに俺の顔をチラチラ見てくる。

俺は俺で相手がいつ襲いかかってきても良いように警戒はしているが、そんな素振りは見せてこないが警戒するに越したことはないだろう。



「まずは名乗るっす!アタイは猫人族のミッフィーっす!実は…」



猫というより兎のような名である猫人族の女性は簡潔に自己紹介を済ませると、ポツポツと事情を話してくれた。






━━━━━━━━━━━━━━






「それで、俺に彼らを助けろと…?」



「む、無茶であることは分かってるっすけど…頼れる人も居ないし…勇者様ならって…」



「…」



思わず頭を抱えたくなるような問題にため息をつきたくなる。



猫人族であるミッフィーは俺に奴隷にされた仲間の救出をお願いしてきたのだ。


具体的な数は二人、特徴は同じ猫人族で姉であるマフィンという名の女性と犬人族のココアという名前の女の子だという。


名前は狙っているのか…

無意識だろうが若い女の子がペットつける名前のような…なんというか…


考えないようにしよう…



問題は名前ではなく彼女たちを捕らえている奴隷商人の組織なのだ。



この都市の労働力を提供していて、さらには経済的にも支援を行っているため多少悪事を働いても都市側から手を出せないような超がつく程に大きい組織らしいのだ。



組織名は『パピネス奴隷商会』。



全くハピネスじゃないんだが…


ツッコミどころしかない名前だが、初代会長のドリュー・ドンド・ハピネスという名前から来ているらしい。

今の会長はその子孫にあたるドラン・ドムドド・ハピネスという名で、リーシャの話を聞いた限り自己中野郎でかなり有名らしい。


「らしい」というのを多用しているが、全てミッフィーとリーシャから聞いた話で事実確認が出来ていないため気にしないで欲しい。



とにかく…


どこかに売られてしまうまえに救出しなければならないため、事態は一刻を争う。


いくら近衛騎士たちより強くなったとはいえ正面から堂々と仕掛けるのは難しい。

すぐにでも計画を練らなければならない…

〜あとがき〜


大変遅れたことをお詫び申し上げます。

風邪が悪化して数日寝込んでいたので、体調管理は大切だなと思わされました…


今回、『初めての依頼』の 前編ということで書かせていただきました。

次回も過去編の後半部分を書こうかと思っております。


これが終わったら戻ってエレノアとの話になります。

実は僕の中では少年クロムと魔女エレノアの話に『妖魔騒乱編』と勝手に名前を付けさせていただいているのですが、我ながらくそダサいと一人ボソボソとしております…(笑)



さて、今回は『喜ばれるクリスマスプレゼント』ということで予告していたのですが、クリスマス迎えてしまってます。


現金orディ○ニーのチケットで良いでしょう。


異論は認めます。

しかし、聞きません!!!


お金がない!!

そんなあなたには美味しいご飯!!!


二、三千円あれば美味しいものが食べれますので、悪くないかと。


恋人がいない?


僕もです、安心して美味しいご飯を食べましょう。



次回、『2019年、楽しみなこと!』です。




Twitter→@Shin_Sorano

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