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8.『第一歩』

「せいっ!!せあああっ!!!」



転生してから早くも二年が経とうとしていた。


俺は毎日のように練習場と読んでいる平地で修行をして若干九歳ながらにして尋常ではない強さを身につけていた。




鍛えている人は分かると思うが、筋肉は使って使って限界が来ると壊れる。

筋肉痛とはその筋肉を使い過ぎてボロボロになると発生するものだが、やられた筋肉は学習して次はもっと耐えられるように強靭なものが出来る。


魔力も同様で、使い果たして体内の魔力を空にすると死にはしないが倦怠感が発生する。


そして、次はもっと魔力を使えるように元より最大量を増やして魔力が溜まる。


要は肉体も魔力も使いまくって疲労させるなり空にするなりさせて休ませる。

これが、強くなるための簡単な方法だ。



そこで俺のスキルが大いに役立つのだ。

そう、俺にはチートな自動回復スキルがあるが故に肉体を休ませる必要はなく、常人には不可能な速度で鍛える事が可能だ。


要は休むという過程を飛ばして鍛えることが可能なのだ!


そして、魔力だが…

俺には『マナコントロール』がある。


このスキルで俺は放出する魔力を抑えたりする事が出来るが、何もそれだけではない。


何せコントロールである。

大気中の魔力をかき集めて瞬時に魔力を全快させることも可能だ。



常人は魔力量が多かろうが少なかろうが使い果たすと最低でも一日は倦怠感が続き、最短三日で全快する。

力を使い尽くしたら一日は何もする気が起きず、三日はだらだら過ごすハメになる。


これではお金を稼ぐのにも時間がかかってしまうため、多くの冒険者や魔法士たちは魔力を全部使わずに次の日には全快するようにある程度残しておくのだ。


実に馬鹿な話である。

強くなってしまえば後々効率が格段に上がるというのに…


まあ、それは置いておくとしよう。



今はあるか分からないが、エリクサーなど飲むことで魔力を直接補充出来る魔法薬があればもっと早く全快出来るだろうが、魔法薬は基本的に高価なもので数にも限りがある。

大体は非常時にのみ使用される。



だが、俺はそんなことも気にせず一気に全快させることが可能なのだ!


そう、スキルによって!



すると、どうだ。

魔力を空にして瞬時に全快させ、空にしてはまた全快。

これを二年間も繰り返した結果、俺は莫大な魔力量を手にしたのだ。



勇者時代よりも遥かに高い魔力量に思わず苦笑いしてしまうほどに…

魔界で暴れ回ってた全盛期程ではないが九歳の平均魔力量を考えたら異常。

宮廷魔法士なんかよりも全然高い魔力量だろう。


戦闘狂って訳ではないが、実戦で試してみたいものだ。




「ふむ、剣の練習はこんなもんか…」



練習用に刃が丸くなっている鉄製の剣を地面に突き刺し、近くに置いておいたタオルを手に取って汗を拭く。


修行してる間は夢中になって過去を忘れられるから嫌いではない。

思えばこの二年間は起きて、修行、食事、修行、修行、修行、食事、寝る…

毎日こんな感じでまともな生活をしなかったなぁと思う。


時々、エレノアの魔法の練習に顔を出しては知っている範囲で教えてみたりしたな。



おかげで力はだいぶ付いてきた。


過去は変えられないが、これからは大事な人は確実に守っていく。


俺はまだまだ強くなる!





とはいっても、やはり修行は疲れる…



「魔力の補強…はぁ…憂鬱だなぁ…」



魔力を使い果たして空にする。


すると同時に強い倦怠感に襲われる。

『スタミナブースト』があっても肉体の疲労とはまた別のものであるため効果はない。

『パーフェクトリジェネレート』も何を基準にしてるのか発動しない。


耐えるしかない。



俺は『マナコントロール』を発動して魔力を一気に補充して最大量が僅かに増える。

実感はないが、結果として増えているので増えているのだろう。


しかし、倦怠感が消えないなぁ…



この修行の唯一の欠点は倦怠感がすぐには消えないため、魔力を空にしたり満タンにしたりを繰り返しているとただの魔力切れを起こした時よりも物凄い倦怠感が襲ってくる点だ。



複数回繰り返すと流石に健康状態に異常をきたしてしまうのか『パーフェクトリジェネレート』が発動して楽になる。



「はぁ…」



強くなるためとはいえ、毎日毎日あの倦怠感と向き合わなきゃいけないとなると憂鬱にもなる。


しかも、とある事情にて俺は魔力量の増加速度が遅い。

魔力が全快した際に増加する魔力量だが、他の魔法士と俺とでは大きな差がある。


俺が使える魔力増加量は他人の十分の一の量。



他人が一度魔力を使い切って全快して増える魔力の使用量を俺が得るには十回全快させなければならないため、他人より最低でも十倍以上は努力しなければならないのだ。



なぜか…



俺はチートスキルを大量に持っているが、同時にクソといっても過言ではない足でまといな能力も手にしたのだ。


生前にはなかったはずの魔法を一切使用不可にする『破魔の紋章』と今回の魔力量に干渉してくるはた迷惑なアビリティ…



『魔力封印』が…



学園で常識を学びながらアビリティの効果を打ち消せる何かを見つけたいものだ…


俺はこのクソみたいなアビリティのせいで魔力の九割を封印されて使用出来ない状態なのだ…





━━━━━━━━━━━━━━






「ただいま〜」



修行を終えた俺はエレノアと共に住んでいる屋敷…とは言えないログハウス的な何かに戻った。


日本人だった頃の知識を使ってやや改築してみたりもした面白い家だ。



「おかえり、クロ坊〜!」



「だからもうクロ坊はやめてくれって…」



二年で俺はだいぶ身長も伸びたし成長したのだが、それでも九歳…

まだまだ子供である。


走ってくるなりエレノアは抱きついてくるが、俺が九歳の子供…ましてや転生者だって事は知っているはずだが何故抱きつくのだろう?



そんなことよりも俺は汗だくなので風呂を所望する。



先程改築したと言ったが、その際に最もこだわったのが風呂だ。

元はエレノアが魔法で生成した水を貯めておいて浴びるなりなんなりしていたが、今は違う。



露天風呂である。



魔法陣でお湯がドバドバ出てくる温泉のような露天風呂だ!!


結構前からエレノアに魔法陣について少し教えてもらったりしながら試作品を作ったりして色々試していたのだが、先日やっと完成したのだ。


エレノアも大喜び!俺も大喜び!!




それと日本人は風呂が大好きだとよく言われているが、実際どうなんだろうなぁ…




ともかく俺は早く風呂に入りたいのだ。



ぐっ…しかし…


なんてけしからん胸なんだ…



「俺汗だくだぞ!風呂に入るから離してくれっ!」



柔らかな双丘に包まれていたいという気持ちとお風呂に入りたいという気持ちがぶつかり合ってかなり揺れたが、きちんと離してくれと言えた。


俺は偉いぞ…あぁ、偉いんだ…


抱きつかれるのは嫌いじゃないが、少し照れくさい。

この二年間色々なことがあったのだが、エレノアは俺に抱きつく癖がついてしまったようだ。



「あらぁ〜私にも汗がべっとり…それじゃあ一緒に入ろっかぁ〜ふふふ!」



「いや、後で入ってくれ!!」



たしかに一緒に入ってもかなり余裕がある大きさに作ったが、一緒に入るわけにはいかぬ。


流石に付き合ってもいない男女が一緒にお風呂に入るなどあってはならないと思うのだ。


風呂自体は広くて十人ぐらい入れるのだがな…

駄目なものは駄目なのだ。






━━━━━━━━━━━━━━





風呂場の入口付近に設置した魔法陣に魔力を流す。


すると、ドバドバっと勢いよく湯が注がれていき、十人入る浴槽が一瞬でいっぱいになる。



俺はお湯をすくって体の汚れや汗を一度流してからそっと足から入って風呂に浸かる。


湯の温度は丁度いいように調節してあるため、そっと入る必要はないのだが、なんとなくそうしてしまうのだ。



「ふぁ〜…極楽ぅ〜…」



自分でも九歳とは思えぬ言動だとは思うが許して欲しい…

見た目は子供、頭脳は大人、しかし生前はオッサンなのだ。




それにしても、ドバドバとお湯が出てくるなんて凄いなぁ〜。

エレノアが水の魔法もある程度使えるから、一緒に水を生成する魔法陣を作って貰ったのだ。


魔力を流すと流した魔力の量に応じてお湯が出てくる時間が延びるのも素晴らしいが、同時に火属性の魔法陣で水を一気に加熱出来るのも素晴らしい。


即座にお湯が出来る!

待たなくていいし、ひんやりとした水風呂ではないのだ!


火の勢いはきちんと調節してあるので熱すぎる事はないのでゆっくりとお風呂に浸かれる。



こんなものが作れるとは魔法陣はなんて素晴らしいものなのだ…

生前は何故学ぼうとせずに魔法ばっか使ってたのか。


要反省である。



『破魔の紋章』はもしかしたら魔法陣の素晴らしさに気づかせてくれるために…いや、それはないな。



それはともかく、次は一体何を作ろうかなぁ…



などと魔法陣でこれから何を生み出そうか考えていると突然入口がバンッと開かれる。



「来ちゃったっ☆」



迷いの森のトラブルメーカー、エレノア様である。


なんとタオル一枚で前を抑えただけの状態で入ってきたのだ。

タオルは大事な部位のみを隠しており、体の美しいラインはばっちり見える。


モデルのようにビューティフルな体型で正直心にグッとくるものがある。




なぜ風呂場ではイベントが発生するのだろうな。


露天風呂が完成するまでの二年間は水風呂だったのだが、乱入してくるというイベントは一度も無かった。

もしかすると、水の温度が関係しているのだろうか…?



現代日本ではそもそも有り得ないが、異世界に来てからは起こるべくして起こるのか。

生前にもお風呂関係でとんでもないアプローチをしてきた獣人が居たなと遠い目をしだす。




「ちょっとぉ!なんのリアクションもないの!?」



「あぁ、うん」



「なんて冷めた男なのよ…あ、子供か…」



もはや返事をするのも馬鹿らしくなり、大して綺麗でもないがとりあえず空を眺めた。



ため息混じりにボソボソ言いながらエレノアは体を軽く流してから浴槽に入ってくるが、もはや気にしない。

気にしたら負けである。



そして、二人して無言で大して綺麗でもない空をしばらく眺めてるとふいにエレノアが口を開く。



「ねぇ、クロ坊…」



「なんだ?」



普段の能天気な雰囲気とは打って変わって真剣な顔で呼ばれて視線を向ける。



関係ない話だが、タオルを湯に入れるのはマナー違反だが、ここは私設だし許そう。

別に残念だとかは思っていない。


本当だ。




「クロ坊は魔法を使えないのにいつも私が魔法の練習してる時にアドバイスとかくれるでしょ?」



「あ〜、まぁな…ここに住まわせて貰ってる礼のようなもんだし気にしないでくれ」



アドバイスはしているが、たしかに俺は今魔法が使えない。

使えない者から魔法を教わるなどプライドが高いと許せないことなのだろうが、ここはエレノアのいい所であり素直に聞いてくれるのだ。



礼だとは言ったが、もちろんそれだけではない。


もう二年も一緒に住んでいるのだ。

俺の中でエレノアは今一番大切な仲間という認識で、何かあっても絶対に死んで欲しくはないというのが俺の望みだ。



そのためには当然、相応の生き延びるための力が必要である。


魔女として長いだろうから十分強いのだろうが、念には念を…

万が一という事もあるだろうしな。


彼女には魔法の才があるので、俺はその才能を伸ばして欲しいからアドバイスをしている。

そして、そうすることで結果として彼女を守る事が出来るのではと思っている。



「そっか、でも…火や水属性だけじゃなくて闇属性まで教えてもらうって…闇属性の魔法って謎が多いのにあなたはどうやってそれを学んだの…?」



今更かというぐらい疑問を持つのが遅くないか…?


本人はいたって真面目に話しているから何も言わないが、もう少し早く聞いても良かったんじゃないかなぁ。



「俺が知っている魔法の知識はほとんど独学だよ」



「独学で…!?」



この際だから魔法についてはもう何も隠さなくても問題はないだろう。


この二年間ずっと見てきて俺は彼女に対してはもう警戒心など毛ほども抱いちゃいない。


最初の数ヶ月は昼間はもちろん、時々夜中に起きては何もない事を確認していたぐらいには警戒していたが、そもそも森から出ること自体買い出し以外では無かったしもうすっかり信用してしまっている。


要するに引きこもりだ。

情報が漏れることはないだろうが、絶対ではないため素性は明かさないが、魔法ぐらいなら問題はないだろう。


魔導学園ではきっと教わらないだろう裏属性についても話しても問題ないだろう。

せっかくだから使えるようになるのかも見ておきたいな。



十勇士と呼ばれるかつての仲間たちにも色々教えたりしたし…

まだ見ぬ仲間たちに教えるための第一歩という事でエレノアには裏属性の習得してもらうとしよう。




「…エレノア」



「な、なによ急に面と向かって名前なんか呼んだりして…」



俺はお風呂にいることをすっかり忘れて、これからのことで勝手にワクワクしていた。


何から教えようか。

いや、彼女にはもうアレしかないだろう…


あぁ、楽しみだ。

自然と笑みがこぼれてしまう。





「…闇属性の真髄ってのを見たくはないか?」

〜あとがき〜


まずは投稿が遅れて申し訳ありません。

予定が色々と入ってしまい、仕方がなかったので反省は全くしておりません!



さて、今回のテーマは「剣と魔法の世界に銃を持ち込んでも良いか?」ですが、みなさんはどう思いますでしょうか?


僕は悪くないと思っております。


日本でも刀と弓で戦っていた戦国時代に火縄銃なるものが登場しています。

剣と魔法の世界にも銃が登場しても何もおかしくないと思いますね。


ただ、威力ですよね…


我々、現代人にとっては銃は脅威となりますが、魔法が存在する世界ではどうでしょう?


大爆発する火球や光線がバンバン飛び交う中、銃が登場したとして魔法の障壁を破れるでしょうか?

難しいですね…


僕が書いてるこの作品にも登場させたいのですが、どうしても手で引く弓の方がファンタジー感があって魔法が乗りやすそうな感じがするので出番は少なそうです…



(…銃弾はいずれ躱されたり斬り払われるものですしね…)



何はともあれ、色々考えて面白いものを出せたらと思っておりますので楽しみにしておいて下さい!


何かアイデアがあったり提案があったら是非とも感想で書き込んだり、Twitterなどにメッセージを飛ばしてくれると嬉しいです!



次回、『ハイソかニーソか…さぁ、戦争だ』



Twitter→@Shin_Sorano

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