b.『心の傷』
また夢か…
夢にしては鮮明で意識もハッキリしているのだが…
うむ、前回とは違う点がある。
転生前の日本人だった頃は、まるでもう一度追体験しているかのような感じだった。
だが、今回はなぜだろう…
上から自分を見下ろしてるような…
第三者の視点で眺めていた…
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転生した先は今回と同じベルガシア大陸、王国の名前と同じもので、大陸を統べた覇王の名前から来ているという。
そのベルガシア王国の王都であり、城内にある儀式や礼拝などで使われる大聖堂に俺たち二人は現界した。
先程は転生と言ったものの、高校卒業前…正確には事故直前の状態で現界したため、どちらかというと召喚に近いのかもしれない。
だが実際、使われている魔法陣は召喚に使われるものだ。
そう、これは勇者を『召喚』する為の魔法陣なのだ。
しかし、生きた者を異世界から召喚した際、引き抜かれた側の世界には少なからずの影響を与えてしまう。
そこで死ぬはずだった者の魂を直前で引き抜き、新たな体を与えて生まれ変わらせる。
それが転生であり、召喚でもある『勇者召喚』だ。
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時は少し遡る…
異世界より勇者を召喚する魔法…
古代の魔法であるが故に規模が大きく、約十五名の魔法士が魔法陣をぐるりと囲んで杖を掲げる。
その中で一際目立った存在が一人、後に俺の仲間に加わる宮廷魔法士団で一、二を争う少女…リーシャ・オルニア・アーガルト。
彼女は貴族の出で、金髪に赤い瞳が特徴の可愛らしい女の子だが、その実力は当時の俺を遥かに凌ぐもので、一軍団を軽く殲滅出来るユニーク魔法の使い手だった。
その他に、当時の国王と王妃、姫が一歩後ろで近衛騎士たちと共に見守ってるという感じだ。
魔力が十分練れたのか、程なくしてリーシャの合図とともに宮廷魔法士たちは同時に杖を地面に突き立て、一言一句間違えることもズレることもなく十五名が同時に詠唱文を読み上げる。
始めは淡く微かに青白く発光していた魔法陣は、やがて激しく明滅しながら大聖堂内を光で満たすほどに輝き…
そして、輝くのを止めた魔法陣の上に当時の俺…天堂 黒霧と幼馴染みの女の子である天海 穹が呆然としたまま立ち尽くしていたのだ。
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そのまま夢が覚めることはなく、途切れ途切れでかつての俺の人生を見せられた。
古来より世界に危機が迫ると、異世界より勇者を召喚して災いを退けるものだが、こうして勇者が二人召喚されたというのはあらゆる文献を読み漁ってみてもどこにも載ってはおらず、現界して数日間の王都ではまるで祭りのような騒ぎになっていた。
勇者が二人現界したというだけで神の祝福だのなんだのと勝手に盛り上がる者が多かった。
だが、一方では大いなる災いの前触れなのではと危惧する人々も少なくはなかった。
そんな事は知らず、俺たち二人は現界した王城で『勇者』の称号を与えられ、近衛騎士団と宮廷魔法士団によってとことん鍛えられて一気に成長した。
穹はどちらかというと魔法による戦闘を得意として、当時の熟練の魔法士と呼ばれる基準である「基本七属性の低位魔法を扱えること」を難なくクリアして、七属性全て中位魔法を扱えるまでに成長した。
これには王家のみならず、宮廷魔法士の皆も驚いていたのを今も覚えている。
そして、俺は魔法よりも前線での剣や槍による戦闘で力を開花させ、近衛騎士団のトップと張り合うまでに強くなったと思う。
生前から格闘や武術に興味を持っていて、近衛騎士団から教わる技術は俺にとって全てが新鮮で面白いものだったため、苦ではなかったが修行はかなりハードだった。
当時は全て順調だったと思われた。
しかし、ある日ついに事件が起こったのだ…
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ガラガラと音をたてながら俺たち勇者と王族である姫のアリアネス・ヴィア・ベルガシアを乗せた馬車は王都より東に位置する商業都市であるバーハルンに向かっていた。
距離は馬車で三日ってところで、既に一度野営しており、残り半分かってところまで来ていた。
馬車の外には近衛騎士たちや雇われた冒険者たちが護衛として常に周囲を警戒しており、余程の事がなければ安全だった。
「ねぇ、黒くん!聞いてる?」
「クロギリ様、何か気になる事でもありましたか?」
ボーッとしてる俺の顔を覗き込むように隣に座っていた穹と正面に座っていた姫さんがジロジロ見てくる。
座る配置としては妥当だが、姫さんの護衛が馬車の中に居ないのはよほど信頼されているのか。
中には俺と穹と姫さんの三人しか居なかった。
「あ、いや…特に何も無いよ」
なんせ男一人に女性が二人、気まずくもなるだろう。
近衛でいいからもう一人付けてくれても良かったんじゃないだろうかと思う。
先程、お茶菓子についてキャッキャ話してた時なんてさっぱり過ぎて適当にうんうん頷いたりするぐらいしか出来なかったし。
「そう、ならいいんだけど…もしかして話つまらなかった…?」
「いやっ、そんなことない!」
穹がしょぼくれながら聞いてくるもんだから、思わず全力で否定する。
つまらなくなくはないが…
幼馴染みだから見慣れてはいたが、穹の上目遣いは反則級に可愛くて罪悪感が湧く…
正直、つまらなくても全力で否定したくなるぐらいに可愛らしいし、幼馴染みとしてよく一緒に居たが、ビックリするぐらい純粋過ぎて傷つけたらこっちが落ち込んでしまう。
「ふふっ、クロギリ様はお優しいのですね!」
軽く手を合わせニコニコしながら俺をからかう姫さんに少しムッとした顔をするが、姫さんも可愛らしくて気恥ずかしさで頭をかいて誤魔化す。
そもそも金髪に綺麗なエメラルドグリーンの瞳とか異世界の姫ってチート級に可愛いな!
ブサイクな姫だっていてもいいじゃないか!
と思ってしまうぐらいこちらも可愛いのだ。
…いたらどうしよう…
そんなくだらないことを考えていると突然馬車がなんの前触れもなく急に止まる。
前方の席に座っていた姫さんは大丈夫だったが、後方に座っていた穹はバランスを崩したのか前に倒れそうになったところを俺が軽く支える。
「あ、ありがと…」
「うん、それより姫さんが乗ってるっていうのに急停止とか…穏やかじゃないな…」
万が一に備えて手元の聖剣に手を伸ばす。
聖剣ゼラハイム。
国王が俺に託してくれた代々勇者たちが受け継いできた聖剣だ。
剣が不得手な穹に代わり、俺が手にした退魔の剣である。
剣と言っても通常の片手剣よりは長く、両手剣よりは短い。
使いこなせれば絶大な力を発揮すると聞いたが…
窓がないため外の様子が分からないが、何やら怒号やら剣戟やらが聞こえてくる。
近衛騎士に加えて冒険者まで雇っているのに盗賊が…?
不安そうな穹と姫さんをよそに一人首を傾げていると、バタン!!と突然馬車の扉が開かれる。
「姫様!勇者様と共にお逃げください!!」
近衛騎士の一人が扉を開けたと同時に大声で逃げろと言い放つ。
いよいよこれは何かが…と思った瞬間だった。
ゴトッ…と音をたてて何かが地面に落ちた。
一瞬何が起きたのか誰にも理解出来なかった。
血の臭いが馬車の中に充満する。
呆然としていては次は俺たちがやられると聖剣を手に近衛騎士だったものを飛び越えて馬車を飛び出す。
「うっ…」
馬車の中で穹と姫さんが嗚咽を漏らしながらうずくまる…
俺だってそうしたい。
目の前で見知った顔の騎士の頭が落ちたのだ。
画面で見るように断面に修正など入っている訳がなく、耐性がない者が見れば吐き気どころか気絶してもおかしくない光景だった。
だが、俺までぐだぐだしていたら誰が彼女らを守る!
気を引き締めて周囲を見渡すが、辺り一面に死体、死体、死体。
近衛騎士だったものから冒険者、さらには盗賊らしきものの亡骸もちらほら…
「くくくっ…こいつが今回の勇者か…」
突然声が聞こえてその主を探す。
聞こえてきたのは飛び出してきた馬車の方向。
振り返ると馬車の上で巨大な鎌を携えた化け物が腰を下ろしていやらしい笑みを浮かべながらこちらを凝視していた。
「お前は…っ!?」
背筋に悪寒が走る。
相手の事は知らないが、俺の本能がコイツは危険だと訴えかけてくる。
よく見ると人間のように見えなくもないが、肌がやや黒くコウモリのような羽が腰あたりから生えている。
王城で様々な種族について説明は受けたのだが、あのような特徴を持った奴なんて聞いた事がない。
どうやら亜人では無いようだ。
「随分と驚いてくれるじゃねぇか…カカッ、わざわざ顔を出しに来た甲斐があったな!…だが…」
ニヤニヤとしていた化け物はスッと真顔になったかと思いきやおもむろに鎌を構えて前傾姿勢になる。
魔力の流れを感じた俺は咄嗟に聖剣を前に構えて迎撃の体勢に移る。
「ほう…パッと見は期待外れだったんだが、今の動きは悪かねぇ…」
ボソッと呟いた次の瞬間、化け物は姿が掻き消えたのかと思わせる速度で突っ込んで来た。
俺は近衛騎士たちと修行を積んできた通りに冷静に受け流そうとするが、そこへ予想だにしなかった蹴りが飛んできてまともに喰らって吹き飛ばされてしまう。
「ケッ、俺の初撃を受け流すとはつくづく気に食わねぇ野郎だが…悪かねぇなぁ〜…」
「ぐっ…」
強烈な蹴りをまともに喰らったせいか腹部を中心に焼けるような痛みを感じる。
同時に吹き飛んだせいで背中にも痛みが走る。
立ち上がろうとしても身体が思うように動かず、口から血を吐きながらも相手を睨む。
「くくくっ…まだまだひよっこ勇者ってとこか〜、俺様のような魔人の相手はキツいか?なぁ!クハハハハッ!!」
魔人…!?
王都と商業都市を繋ぐ道にこんな奴がいたらどう考えても通ろうとしないだろう。
まさかこんな早い段階で魔王が何かをしたと言うのか!?
しかし、魔王の出現はまだ先になると聞いていたのだが…
魔人の相手など、いくら近衛騎士の相手が出来ても無理だ。
魔物は進化を繰り返す毎に人型に近付いていく。
誰がそうなるようにしたのかは不明だが、古来より人型の魔物は強力な存在であったと伝わっている。
それと同時に人語も話すようになる。
人型に近付けば近付く程に強く、違和感を感じさせない程に人語を使いこなす個体は知性も高く非常に厄介だ。
間違ってもこんな駆け出しの状態で出くわすような存在ではないはずだが…
「なんでこんな所に魔人かって顔をしてんなぁ?」
再び攻撃してくる気配はない。
単に会話を楽しんでいるのか、状況を楽しんでいるのかニヤけていて非常に悔しくなる。
「気まぐれかなぁ?強いていえば自己満足?」
「なんだと…?」
「くくっ、なんだ気に食わないのか?勇者召喚の噂を聞いてわざわざ遊びに来てやったんだぜ?」
魔人は悪びれることもなく堂々と理由を語る。
どうやら、魔王とコイツは関係が無いようだが…
だが…
コイツは気まぐれで近衛騎士たちや冒険者たちを皆殺しにして、俺たち勇者を狙ってきたのだというのか…!
先日まで共に修行した近衛騎士の仲間は今は無残な死体となって転がっている。
食事も共にした事があれば、一緒に笑った事もあるような人達がだ。
それに加えて幼馴染みの穹の命まで脅かそうとするとは…
「こんの…くそがああああああああ!!!!」
大切な者達の命が散り、元の世界から唯一繋がりがある幼馴染みの命を脅かそうとする魔人に対して怒りが爆発して叫ぶ。
恐怖や自分の身の安全などもはや二の次だった。
今重要なのはあの魔人を倒すことで、穹や姫さんに近付かせないこと。
習得して居ないはずの身体強化が発動して尋常ではない速度で魔人に突っ込む。
「なぁっ!?貴様いつの間にっ!!?」
魔人は咄嗟に鎌を構えるが、不意打ちだったために僅かに間に合わず胴体に深々と聖剣が突き刺さる。
穹ほど魔法が使えなくとも聖剣は強い光属性の魔力を纏っており、魔物や魔人には通常の剣とは比べ物にならないほどの威力を発揮する。
俺は苦痛に歪む魔人の顔を至近距離で睨みつけて、聖剣をさらに押し込む。
それが気に食わなかったのか、口から黒い鮮血を撒き散らしながら魔人は鎌を振り上げて俺を真っ二つにしようとするが、至近距離では鎌は振りづらいようで一瞬のスキが生じる。
そこへ…
「ぐぅっ!ひよっこがぁ!!」
俺は聖剣を瞬時に引き抜き、それと同時に水平に一撃。
さらに勢いに乗り回転しつつもう一撃加えてこれでもかとダメージを与える。
「ぐほあっ!?な、なぜ…!!」
振り下ろすはずだった鎌を盾にしながら魔人は後方に飛ぶ。
今追撃すれば瀕死の状態である魔人を倒せただろうが、体に限界が来たらしく立っているのがやっとのようだ。
「…っ!」
俺は言葉を発しようとしたが、今にも倒れてしまいそうで睨むことしか出来ない。
身体強化せずに魔人の蹴りを喰らったため、常人ならそのまま死んでもおかしくない威力だったのだが、そこは勇者補正なのか死には至らなかった。
だが、今攻撃されたら俺は間違いなく死ぬだろう。
そして、俺がやられた後は馬車の穹や姫さんを狙うに違いない…
体に限界が来ても、気力だけで聖剣を構えて続ける。
「くっ、ただでは済まさんぞ…次に相対した時が貴様の最後だと思え…ぐほっ…!」
想定していた最悪の事態にはならず、思いのほか傷が深かったのか捨て台詞とともに魔人は姿を消した。
そして、ここで緊張の糸が途切れたのか俺は前のめりに倒れた。
この時、俺は身体強化とは別に新たな力を身に付けていたのだが、それまた先の話だ。
「黒…くん…?」
馬車から穹がそっと顔を出して幼馴染みの愛称を口にするが、反応はない。
周囲には大勢の死体が転がっている。
その中に一つ見慣れた顔の人物が…
「黒くんっ!!」
死体に紛れて倒れていたせいで勘違いを起こした穹は絶望的な表情を浮かべながら頭を抱えてうずくまる。
姫さんも後から続くが、外の様子に呆然と立ち尽くすばかりだ。
盗賊が現れるのはこの世界ではそう珍しい事ではない。
近衛騎士に冒険者という護衛がありながら襲撃してきたのは不可解だが…
多少、数の差があっても近衛騎士たちだけでも十分対応可能だろう。
しかし、同時に襲撃したきた魔人。
あれは王都近郊で遭遇して良いような存在ではない。
どうやら俺たちにとって安全だと言える場所は無いようだ。
意識が薄れていく俺はそんな事を考えていたが、穹がそんな事を知る由もない。
「いやぁあああああああ!!」
気持ちはわかるが俺は死んでない。
早とちりせずに頼むから回復系の魔法をかけて欲しい…と思う当時の俺だった。
〜あとがき〜
わさびの魅力について語りたいと申したのですが…
ぶっちゃけ食べて感じろ!としか言えないことに今更気付きました。
鼻にツーンとくるあの感じや独特の味、肉にも付けて食べるべきですよ。
ただ、防カビにもなるって知っていました?
誰得な情報なのでしょうか…
僕はやりませんが、まさかやりませんよね…?
ただ刺激が強いのは確かなので胃が弱い方は量を程々にしましょう!
僕は強いので食べまくってますがね!!
次回、『異世界に拳銃を持ち込んでよいものか…心が揺れる…』
Twitter→@Shin_Sorano




