ネクロマンサー<死者を蘇らす者>〜少女の記憶 1〜
初の投稿です。
短い小説ですが、よろしくお願いします。
「1989年12月4日 14時25分 御臨終です…」
閉ざされた、光のない世界の中で、確かにその声は聞こえた。その世界では少女一人しかおらず、その少女もどうしてここにいるのかわからなかった。
え?誰が死んだの?…もしかして、私?どうして?なんで?まだ私は生きたいのに。
そう、彼女は死んだ。不幸な事に、学校の帰り道で…
車に惹かれ…
閉ざされた世界に、外の世界は届かない。だが、外の世界の声は聞こえている。
「まさか、あんな事故で死ぬなんてな…」
「母さん。もう、止めないか。この子も頑張ったんだ。休ませてあげなさい」
「いやよ!!まだこの子は15なのよ!!まだ生きなきゃいけない子なのよ!!」
お母さん…
そう、まだ彼女は15年しか生きていない。受験は今年だというのに、彼女の人生はそこで止まってしまった。親と友の楽しかった思い出はこれ以上、ない。
彼女は泣いていた。死ぬのにはまだ早かったから。まだやりたい事がたくさんあったから。残るモノは、前世で作りあげたこの感情と知識だけ。
それでも、彼女のお別れ会は知らぬ間に流れていく。線香の匂いと暗黒の視界。そして、時々聞こえてくる鎮魂歌(お経)。だが、彼女の思いは、別れたくないという思いだけだった。
「こんにちは。今日もいい天気ね」
そんな彼女が死んだ3日後、外界では彼女のお葬式の最中なのだが、彼女の暗黒界では黒服の少女が、場違いな笑顔で立っていた。
…死神?
「そう、私は魂を冥界にお送りする使者さ」
…でも
少女は死神の外見に疑を感じた。どう見ても自分より小さい。
「もしかして、疑ってる?それって年齢差別だよ。人間はよくこの差別をするけど、それをこちらに投げかけてくるのは止めてほしいな」
そして、少女は今の彼女にとって最悪な言葉をとばした。
「さぁ、行こう。生きる者が最後に辿り着く世界へ」
「!?」
少女が手を差しのべるが、彼女はその手を払った。
「いやよ!!私はまだやりたい事がたくさんあるのに!!まだ生きたいのに!!」
今の彼女に、自分が死んでいる事は信じられない事だから。そんな彼女の言葉に、少女は驚いた。どうして彼女は、そんなに生きたがるのか。彼女の人生は終わった筈なのに、どうして生きたいと望んでいるのか。
「もうわかっていると思うけど、君はもう死んでいるんだよ。そんな君が生きたいと思っても、それはできない話だよ」
わかっている。だから、これはただの望みでしかない。これは願いでしかない。死人である彼女に、その思いが叶う事はないと、彼女自身が知っているというのに。
「それでも、私は…」
「生きたいのか?」
「!?」
ふとそこに、少女にとって、死神にとって最悪な仕事の阻害となる者が立っていた。
「あんたは…」
少女と同じ黒服の少年だが、髪は白く、顔には大鎌が折られたタトゥーが刻まれており、死神とは違うモノが感じられた。
「…ネクロマンサーがここに何をしに来たのかしら」
少女が敵を睨む目で、少年にその言葉を投げつける。だが、少年は少女を見向きもせず、彼女の方へ歩いて行った。
「君は、まだ生きたいと言ったね?」
彼女は呆然としていたが、その少年に話しかけられたせいで、ハッと正気を取り戻した。
「そうよ。私には生きたい理由があって、やりたい事がたくさんあるの!!」
彼女はいつの間にか叫んでいた。それまでにして生きたかったから。少年は、彼女を見つめたまま少し考えこんで言った。
「…わかった。君の願いを叶えてあげよう」
端的な言葉だ。
「え?」
「な!?ちょっと!!なにを言ってるのよ!!死者を生き返らしちゃったら、この世界の論理が壊れちゃうじゃない!!」
その少年から彼女を守る様に、少女は少年の前へ立ち塞がった。
「その論理を壊さず出来るのが、僕の力だ」
端的にも端的すぎる言葉だ。少女はその言葉をすぐに反論する。
「そう言って魔者を作ったのは誰よ!!」
少女の声が高く木霊する。
「50年くらい前に、理想家を生き返らした貴方のせいで、人間がどれぐらい死んだ事かわかってるの!!」
「それでも生き返りたい者を生き返らすのが、僕の仕事だ」
「そんな事…」
「お願い。やって」
少女の肩を叩き、彼女は少年の前に立った。多分、少女の言っている事は、彼女には分かっている。死人がいる世界がどうなるのか。そして、今生き返ればどうなるのか、という事も。
「わかった。でも、これだけは覚えておいて」
少年は光のない瞳で彼女を見つめながら言った。
「君はこれからも生きる事になるけど、君は自分が思う人がすべき事をしていくんだ。そうすれば、この人生だって楽しくなるし、他人からも笑顔で接してくれる」
…あれ?急に眠気が…
彼女は遂には深い眠りについた。その眠りは暖かいモノで、でも感覚はある。
※
見えているのは、棺桶の蓋の裏ではなく、真っ白い天井だった。
あれ?とも言えない光景は、彼女の驚きを更に誘発してくる。そこは、まさしく現世であるのだが、どう見てもお葬式をやっていた風景ではなかった。病院のある一室。嬉しさのあまりに、泣くことをやめない母。静かに嬉しさを受け止めている父。彼女は、その光景を淡々と眺めていた。そして、彼女は思った。
あの暗闇(世界)は夢だったのか。でも、今は親の心配を静かに受け止めよう。
読んでくれてありがとうございます。
題に、1とか書いてありますが、実は次回を書く予定はありません。…はい。
次回も短編でいきたいと思いますので、よろしくお願いします。
このジャンルは、ファンタジーじゃない様な気が…