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妹が憎たらしいのには訳がある  作者: 大橋むつお
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48:『スナイパー』

妹が憎たらしいのには訳がある


48『スナイパー』      




 イゾウは閉じた思念の中で装備の最終確認をした。


 義体一体吹き飛ばすのには十分な装備だ。



 炭素繊維の短銃身のグレネードランチャー。本来ゲリラ戦用の使い捨て武器である。イゾウはこれを二本まとめて、二発発射できるようにしていた。

 一発で仕留める自身はあったが、義体の脳は頭にあるとは限らない。胸や腹に仕込んだもの、中にはバックアップのCPを持っているものもあり、義体を完全に仕留めようとしたら、頭部と胴を同時に破壊しなければならない。


 今まっさかりの極東戦争でも、こういう義体には手を焼いているが、イゾウは仕留め損なったことはない。その腕を買われて、こちらのグノーシスに引き抜かれた。むろん正式にではない。今回佐伯幸子という義体が、スニーカーエイジに出るので、できるだけ派手に破壊して欲しいという要請だ。 


 どうやら、こちらのグノーシスは結論を出したようだ。


 しかし、イゾウは、そのことに関心はない。向こうの世界で、イゾウのようなスナイパーは、南西諸島や大陸の山岳部、時に都市部でコッソリと使われ、報酬だけが与えられ、その名が世に出ることはない。


 それが、部内だけとは言え、今度の仕事は記録に残る。


 三万の観衆が見守る中、ショ-のように自分の仕事は注目される。腹の中で沸々と喜びが湧いてくるが、それは思念バリアーの中に封じてある。思念バリアーには物理的な防御力は無い。自分の思念が読み取られ、あるいはハッキングされないためのバリアーで、スナイパーには必須のものである。


 ただ、このバリアーの能力を最大に上げると、聴覚が低下する。視覚とスナイパーとしての能力に集中するのに都合がよく、戦場の様々なノイズを遮断するのに有効である。


 だから、午後の部開始のアナウンスは、はっきりとは聞こえなかった。


 聞こえていれば、ただちに撤収したであろう。


 ステージにターゲットが現れた。


 あらかじめ登録していた桃畑律子の衣装のシリアルと合致した。


 イゾウは観衆に溶け込むために、演奏にノッた。


 バリアーのため、歌詞の内容までは分からないが、パワーといい、エモーションといい、人の心を動かす力を十分に持っている。こういうものには素人のイゾウにもいいパフォーマンスのように思えた。


――せめて、最後まで歌わせてやるか――


 ああ ああ レイブン レイブン レイブン 傭兵少女隊……ただ今参上! 


 笑顔で決めポーズになった瞬間、イゾウはトリガーを二度引いた。


 0・1秒の間隔を空けて、優奈の頭と胴体は血しぶきをあげて吹き飛んだ。


 会場は騒然となった。


――ブラフか、ターゲットが違う!――


 そう思った瞬間、パルスレーザーが飛んできた。イゾウは磨き抜かれたスナイパーの勘で、跳躍して、ホールの天井板を突き抜けた。


――しまった、こんなところに戦闘用の義体が――



 ねねちゃんはシーリングライトのスペースで演奏を聞いていた。



 ラストの決めポーズになって、拍手の最初の一拍を打ったところで、グレネード弾の発射を感知した。あまりの至近距離なので、グレネード弾の破壊には間に合わなかったが、すぐに発砲者にパルスレーザーを撃った。


 発射位置を悟られないため、ステージ上のミラーボールに反射させた。その間0・1秒。優奈の胴体が吹き飛んだとき、そいつは天井板をぶち抜き、目の前に現れた。そいつは意図的に現れたのではなく、緊急避難としてここに逃げてきたのだろう。スナイパーらしからぬマヌケ顔にねねちゃんはパルスレーザーのパワーを最大にして撃った。


 バシューーーーーーーン!!


 イゾウは視神経が捉えた映像情報を行動に反映する前に、周囲に僅かな煤をのこしただけで蒸発してしまった。


 舞台の仲間や、観客席の前の方にいた者達は、優奈の返り血を浴びてパニックになっていた。幸子は、無意識にバラバラになった優奈の側に寄り、優奈の前頭葉の破片を探し、優奈の遺体を抱きしめるふりをして、それを飲み込んだ。なかば無意識な行動だった。


「幸子、しっかりしろ!」


 俺は、幸子が義体であることも忘れて、抱き起こした。


「優奈、優奈が……!」


 幸子は、そう叫びながら、優奈の前頭葉を喉の奥経由で自分のCPの予備スペースに保存した。幸子自身、そんな機能が自分にあることに驚いていた。


 そして、その会場にいた人たちは、認識の多寡に差はあるものの、とんでもないことが起こり始めていることを実感することになった……。



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