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妹が憎たらしいのには訳がある  作者: 大橋むつお
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18:『飛行機事故の翌日』

妹が憎たらしいのには訳がある・18

『墜落事故の翌日』        




 明くる日は臨時休校になった。


 奇跡的に死傷者が出なかった(グノーシスたちがやったんだけど)とはいえ、飛行機が校舎に突っこんできたんだ。警察や、国交省の運輸安全委員会の現場検証は今日が本番だ。それに、突っこんできたのは視聴覚教室だけど、他の校舎や施設も無事ではない。復旧には一週間はかかる……と、これは俺の希望的観測。


 ケイオンで視聴覚教室を使っていたのは加藤先輩たち中心メンバー。先輩達の楽器はおシャカになってしまったけど、そこは選抜メンバー、みんな自分ちにスペアの楽器を持っている。加藤先輩は、昨日は幸運にもスペアの方だったので、ギブソンのアコステは無事だった。


――アタシらはスタジオ借りてレッスン、あんたらは適当に――


 加藤先輩からは、こんなメールが来ていた。いかにもアバウトなケイオンだ。

 で、俺達のグループの楽器はオシャカになってしまったので、自主練と称してカラオケに行った。


 五曲歌ったところで、みんな喉にきた。



 いかに普段マッタリとしか部活をやっていないか、メンバー全員が自覚した。自覚したが反省なんかはしない。俺たちがケイオンに求めているのは、一に掛かって、このマッタリした空気なんだからな。



「しかし、祐介、とっさに優奈庇ったのは大したもんやったな」


 ドラムの謙三が、ジンジャエールを飲み干して言った。


「うん、オレ、ひょっとしたら優奈に惚れてんのかもな」

「祐介のは、ただのどさくさ紛れ。庇うふりして、わたしのオッパイ掴んでた!」

「うそ、そんなことしてへんて!」

「病院で検査してもろたとき、赤い手形がついてた」

「とっさのことやから。祐介も力入ったんやろ」


 ジンジャエールでは足りず、俺のウーロン茶まで手を出して、謙三がフォローした。


「そやかて、両方のオッパイやで!」

「惜しいことしたなあ。オレ、その時の感触全然覚えてへんわ」


 大阪弁というのは、こういうことをアッケラカンと言うのには最適な言葉だと実感した。



 そして、良かったと思った。



 ハンスたちグノーシスが時間を止めて処理していなければ、プロペラの折れは、祐介の背中を貫通して、庇った優奈ごと串刺しにしていたに違いない。

 それに、なにより、あの時の祐介の顔は、真剣に優奈を守ろうとする男のそれだった。普段はヘラヘラした奴だが、本当のところは、情に厚く、優奈のことも本気で好きなんだと思う。

 謙三は体育とか苦手で、ドン謙三(ドンクサイ謙三の略)などと言われているが、本気になれば意外に俊敏。いつか、その俊敏さが、ドラムのスキル向上に役立てばいいんだけど、俺同様マッタリケイオン。ま、これはこれでいい。


 そのころ、幸子はギブソンの高級ギターを持ち出して、大阪城公園駅から大阪城ホールに行くまでの道で路上ライブをやっていた。


 ここは、大阪の路上ライブの聖地の一つ。京橋や天王寺などは、大容量のアンプを持ち込んでガンガンやる悪質なパフォーマーが多く、幸子のように生声、生ギターで演るものまで締め出しにあうが、ここは比較的に緩い。佳子ちゃんが、例によって警戒とパーカッションを兼ねて付いていくれている。


 それに気づいたのは、優奈がスマホで動画を検索している時だった。


「ちょっと、これサッチャンちゃうん!」

「ええ……!」


 俺たちが、大阪城公園に行ったときは、優奈のスマホで見た何倍もの老若男女が幸子の生歌に聞き惚れていた。リクエストに応えてやっているようで、松田聖子の歌を唄っていた。


 ……若いころの松田聖子そっくりに。


 思い出した。


 夕べ、パラレルワールドの説明をしているときにパソコンに映った幸子の顔を垂れ目にしたら、幸子は自分の顔も垂れ目にして、俺をおちょくった。幸子は確実に進化しているんだ。


 オーディエンスは次々に増え、四百人ほどになったが、どういうわけか、みんな行儀良く座って聞いている。そして、道路の半分はキチンと空けられて通行人の邪魔にもなっていない。


 お巡りさんが、向こうのアンプガンガン組の規制をしはじめた。


「あいつらが、おったら、この子の歌があんじょう聞こえへん」


 六十代とおぼしきオッチャンが、お巡りさんに注意したようだ。


「あんた、警察に顔きくねんなあ」

「ええ音楽は静かに聞かなあかん」


 その顔つきの悪さから、その筋の人か、お巡りさんのOBかと思われた(^_^;)。


 そのころ、幸子は、盛大な拍手の中で安室奈美恵のそっくりさんになっていた……。




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