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妹が憎たらしいのには訳がある  作者: 大橋むつお
13/68

13:『その明くる日』


妹が憎たらしいのには訳がある


13『その明くる日』          




    

「よかったあ! 思ったより元気そうやんか!」


 佳子ちゃんは登校前に幸子の様子を見に来てくれた。


「切り傷だけだから、治りは早いと思うの。でも、昨日の今日だから用心しないとね」

「そうやあ、傷跡残ったら大変やもんね。ほんなら、連絡事項なんかあったら聞いとくわ。サッチャンのクラスの未来ミクとは中学で同級やったさかい」

「じゃ、よかったらお兄ちゃんと行って。昨日のこといろいろ知ってるから」

「おお、それは、願ってもない!」

 好奇心むきだしで、佳子ちゃんは賛同した。


 で、俺は寝癖の頭を直す間もなく、佳子ちゃんといっしょに学校に行くハメになった。


「佳子ちゃんに、手出すんじゃないわよ」

 オチャメそうではあるが、プログラムされた俺への対応もカワイイとは言えない。

「大丈夫、サッチャンのお兄ちゃんは、そういうカテゴリーには入ってないから」

 佳子ちゃんもデリカシーがない。

「今のところはね(^#0#^)!」


 行ってらっしゃいの声でドアを閉めた後、佳子ちゃんがウィンクしながらグサリと刺す。どうも女子高生というのは嗜虐的な生き物だ。


「わあ、お姉ちゃん、今朝はアベック!?」

「せや、ウラヤマシイやろ?」

「わーい、アベック、アベック!」

 妹の優ちゃんもなかなかの幼稚園児ではある。


「で、ほんまに傷跡とかは残らへんのん?」


 事故の責任が百パーセント相手の車にあることを説明したあとに、佳子ちゃんは真顔で聞いてきた。

 今朝の幸子は念入りだった。左脚に重心を載せないようにし、左手も庇うようにして、ほっぺにバンドエイドを二枚も貼るという念の入れようだった。まさか、スプレー一噴きでメンテナンスしたとは言えない。



「うん……あれでも、いちおう女の子だからね」


 と、兄らしく顔を曇らせておく。佳子ちゃんの顔がみるみる心配色に染まっていく。ちょっとやりすぎたか……。


「大丈夫、小学校の時の事故でも、傷跡ひとつ残らなかったから」


 そう言って、鼻の奥がツンとした。


 あの事故で、幸子は死んだも同然なんだ。今の幸子は、ほとんどプログラムされたアルゴリズムでしか反応できないサイボーグ……。


「ほんまに大丈夫?」


 佳子ちゃんは立ち止まってしまった。目には涙さえ浮かべている。


 俺はシマッタという気持ちと、素直な反応をする佳子ちゃんをカワイイと思う気持ちで、少し混乱した。


「ダイジョブダイジョブ(^_^;)。佳子ちゃんが真剣に心配してくれるんで、感動したんだよ。これからも、いい友だちでいてやってくれよ」

「うん、まかしといて! サッチャンは佳子の大親友や!」


 それからの話は、女子高生とは思えないシビアさだった。示談の仕方から、示談の相場、弁護士事務所まで紹介してくれる。なんで15歳の女子高生が示談のやり方知ってんだ(^_^;)?


 学校に着くと、祐介と優奈からも聞かれた。


「加藤先輩も、えらい心配してはったわ」


 で、俺は午前中いっぱいの休み時間と昼休みを使い、加藤先輩、顧問の蟹江先生。幸子の担任の前田先生、保健室の先生。演劇部の生徒と顧問、それから、噂を聞いてきた幸子のクラスメートへの説明に追われた。


 だれも、俺の心配はしてくれなかった。見た目ピンピンしてることもあるが、俺だって、救急車に載せられ、CTなんか撮ったりしたんだけどな!


 放課後は、幸子のクラスメートの未来から、ノートの写しなんかもらい、その後、はんなりと部活が始まった。


 いつもの教室でバンドのメンバー。ベースの祐介、ドラムの謙三、ボーカルの優奈、そしてギターの俺。


 最初は、当面の課題曲である「いきものがかり」の曲を少しやったが、すぐに研究と称してダベってしまう。気に入っているアーティストの曲なんかかけて、あーだこーだと思いつきを喋る。練習しなきゃという気持ちが無いわけでは無い……でも、互いの気持ちを都合良く推し量り、ただの喋りになってしまう。まあ、収穫と言えば優奈が見つけてきたユニットがいけてることを発見したぐらい。


 帰りの電車は運良く座れた。


 今日はアコギを持ってかえるので、ありがたかった……気が付くと、俺の前に背を向けてつり革につかまっている女の人のお尻を見ていた。パンツの上からでも、夕べ露天風呂で(アクシデントとは言え)見てしまった女の人のお尻に似てるなあと思った。


――いかん、妄想だ!――


 自分を叱りつけて家路についた。


「これ、未来から預かったノートの写しやらなんやら」

「おう」


 予想はしていたけど、ニクソイ笑顔にはムカツク。


「あれ、あのギター、どうしたんだ!?」


 渡すモノを渡して、さっさと、幸子の部屋を出ようとしたら、ドアの横にギターラックと、そこに掛かっている新品のギターに目がいった。


「こ、これ、ギブソンの高級品じゃないか!」

「加害者の人から……これと治療費をもってもらうことで手を打った」

「触っていいか!?」

「ダメ。わたしの」

「じゃ、いっしょに練習しようぜ!」

「お兄ちゃんとじゃ、練習にならない」


 方頬で笑って、無機質に言うところがニクソ過ぎる!


「お兄ちゃん。言っとくけど……」

「この上、なんだよ!?」


「昨日の事故ね、お兄ちゃんが飛び込んでこなきゃ、わたし一人で避けられたのよ」


「な、なんだと(゜Д゜)!?」


「お兄ちゃんが助けたように見えるように……で、お兄ちゃんを怪我させないように……そして、わたしが義体だって気づかれないように計算したのよ」

「おまえなあ……」

「だから、そのギターは幸子の戦利品。ギタイギター……シャレのつもり。笑ってくれると嬉しいんだけど」

「は…………」

「まだ、道は長いわね……お兄ちゃん、これから、幸子が危ないと思っても手を出さないでね。かえって、ややこしくなるから」

「あ……ああ」

「世の中、だれが見ているか分からないから」

「だれが、見てるって言うんだよ」

「……一般論よ」


 幸子は、なにかを言いかけて一般論で逃げた。俺もころあいだと思って部屋を出た。


 そのあと、幸子がギターを弾きながら歌うのが聞こえた。曲は、今日優奈から聞かされたユニットの曲だった……。




※ 主な登場人物

•佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄

•佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 

•父

•母

•大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生

•大村 優子      佳子の妹(6歳)

•学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)


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