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妹が憎たらしいのには訳がある  作者: 大橋むつお
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11:『憎たらしさの秘密・2』 

妹が憎たらしいのには訳がある・11


『憎たらしさの秘密・2』    





「幸子、裸になって」

「……はい」

 

 無機質な返事をすると、幸子は着ているものをゆっくり脱ぎ始た……。


 妹とはいえ、年頃の女の子の裸なんて見たことない。

 でも、不思議と冷静に見ていることができる。幸子の無機質な表情のせいかもしれない、これから顕わにされる秘密へのおののきだったかもしれない。


 幸子はきれいなな体をしていた。その分、左の腕と脚の傷が痛々しい。


 お母さんは、小さな殺虫剤ぐらいのスプレーを幸子の体にまんべんなく吹き付けた。


「幸子は、心身共に未熟なの。だから、肌もこうやってケアするのよ」


 ラベンダーの香りがした。幸子が風呂上がりにさせていた香りだ……驚いたことに、傷がみるみるうちに消えていく。


「メンテナンス」


 お母さんが、そう言うと、幸子はベッドで仰向けになった。


「ウォッシング インサイド」


 幸子の体から、なにか液体が循環するような音がしばらく続いた。電子音のサインがして、指示が続く。


「スタンバイ ディスチャージ」


 幸子は両膝を立てると、静かに開いた。M字開脚! 

 さすがにドキリとして目を背ける。


「見ておくんだ。緊急の時は、お前がやらなきゃならないんだからな」

「ドレーンを」

「うん」


 まるで手術のような手際だった。


「ここにドレーンを入れるの。普段なら、こんなもの使わずに、本人がトイレで済ませるわ。太一、あんたに知っておいてもらいたいから、こうしてるの」

「う、うん」


 お父さんがドレーンの先を、ペットボトルに繋いだ。


「ディスチャージ」


 ドレーンを通って、紫色の液体が流れ出し、ペットボトルに溜まっていく。


「レベル7だな」

「そうね、まだ未熟だから、ダメージが大きかったのね。もっとダメージが大きいと、この洗浄液が真っ黒になるのよ。ダメージレベルが6までなら、オートでメンテする、太一覚えた?」

「あ、うん」

「復唱してみて」


 ボクは、今までの手順をくり返して言った。


「オーケー。幸子メンテナンスオーバー」


 幸子は、服を着てベッドに腰掛けると目に光が戻ってきた。


「これで、いざって時は、お兄ちゃんたよりだからね。よ・ろ・し・く」


 あいかわらずの憎たらしさ。


「……じゃあ、幸子は五年生の時に一度死んだっていうこと?」

「ザックリ言えばね。脳の組織も95%ダメになったわ……」

「お父さんも、お母さんも、ほとんど諦めた……」

「でも、大学病院の偉い先生が、一人の学者を紹介してくれたの……時間はかかるけど、幸子は治るって言われて……」

「藁にもすがる思いでお願いしたら、幸子の体は別の手術室……いや……」

「実験室……みたいなところ」

「そこで……?」

「幸子そっくりの人形……義体が置かれていた……で、幸子の生きている一部の脳細胞を義体に移植した」

「分かり易く言えば、サイボーグね……」

「でも……あの体は、小学生……じゃないよ……」

「あれは三体目の義体だ……あれで、義体交換はおしまいだ……そうだ」

「ずっと、十五歳のまま……?」

「いや……人口骨格は5%の伸びしろが……ごちそうさま」

「人工の皮膚や筋肉は、年相応に変化……させられる……そうよ。ごちそうさま」


 俺たちは夕食をとりながら、この話をしていた。幸子は安静にしている。


「問題は……心だ……」


 お父さんが、爪楊枝を使いながら言った。


「太一……あなたには、幸子、冷たいでしょ」


 お袋が、お茶を淹れながら聞いた。


「冷たいなんてもんじゃない、憎ったらしいよ!」

「すまん、太一ひとり蚊帳の外に置いてしまったなあ」

「どんなふうに憎ったらしかった?」

「え、えと……」


 俺は唾とお新香のかけらと共に、一カ月溜まった思いを吐き出した。


「あれが、今の幸子の生の感情なんだ」


 親父は顔にかかった唾とお新香のかけらをを拭きながら続けた。


「人前で見せるものや、わたしたちに対するものは、プログラムされた反応に過ぎないの」


 と、テーブルを拭きながら、お袋。


「いま、幸子は劇的に変化というか成長しはじめている。過剰適応と思われるぐらいだ。幸子の神経細胞とCPを遮断すれば、普通の十五歳の女の子のように反応はするが、それでは、幸子の成長を永遠に止めてしまうことになる」

「お母さんもお父さんも、幸子のようなお人形は欲しくない。たとえぎこちなくとも、いつか、当たり前の幸子に戻ってくれるように、太一に対してだけは生の感覚でいてくれるようにしているの」

「だから太一、お前が見守っていてやってくれ。幸子は、お兄ちゃんが一番好きなんだから……」

「お願い、太一……」


 お父さんも、お母さんも流れる涙を拭おうともせずに、すがりつくような目で俺を見る。


「う……うん」


 俺も、涙を流しながら頷いた。


 幸子が憎たらしい理由は分かった。


 しかし、その時の俺たち親子は、幸子の秘密の半分も知ってはいなかった……。


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