大都市エメス
今回は『一字下げ』というものをやってみました。
まだ慣れないね!
第八話 人魔のトレジャーハンター(前編)
「じゃあこれは幻だったのね」
「はい」
土人形を片付けたあと、私は悪魔達に「これは幻術で土人形を人間に見せられていた」と伝えた。
「でも変ね。どうしてスクーレちゃんだけかからなかったのかしら」
「そーだ!呪術師なのにオレもかかったんだぞ!」
「それはお前がドジだから」
「うっせぇ!」
ヘラとレインが睨み合う。ヘラの仏頂面はレインの怒りをさらに掻き立てていた。
ライルさんの隣で側近兼参謀だというスグリさんが口を開いた。
「恐らく……人間がかけたのではないでしょうか?私たちは悪魔です。しかしスクーレさんのような人間がいるとは思わなかったんじゃないでしょうか?悪魔に向けての幻術だとしたら、もちろんスクーレさんにはかかりません」
今の説が最も有力だろう。
そういえばさっきからハレティがゴソゴソしてるけど……どうしたのだろうか。
「あれー、どこにいったのですかね?」
「どうしたの、ハレティ」
「あぁ、スクーレですか。いやぁ……スフィアが見つからないのです」
まずいつもバスケットボール大のスフィアをどこにしまっているのかが気になるんですけど。しかし無くなったと言うなら大問題だ。
「黄のスフィアがありません」
黄のスフィアはバノンで獲得したもの。しかし黄のスフィアはスフィア自体を持って行かず、代わりのものに力を込めていた。
バノンはカリビアさんとヘッジさんに出会った場所。そういえばカリビアさんは「黄のスフィアは幻影の力が込められているアイテムだ」と言っていた。
もしかすると、このスフィアの使い方を知っている者がこの騒ぎの間奪い取り、使用したということだ。
「魔王城は私たちが復興させておくから旅を続けなさい、勇者として」
「……はい!」
私はライルさんに返事をすると、ハレティの元へ向かった。
その時、ヘラがライルさんの方へと向かった。
「ライルさん……あの……」
「……ムジナはきっと大丈夫よ。だってあの子なのよ?」
「……そうですね」
「呪い、苦しそうだけど頑張ってね」
「はい」
そうして私たちは襲撃された魔王城をあとにした。たったひとつの不安を残して。
「次のスフィアは『クノリティア』にあります」
「とうとうそこに……」
「どうしたの、ヘラ」
「なんでもない」
ヘラはそっぽ向いた。めちゃくちゃ怪しいんですけど。
「しかし……とても遠いですよ。魔界最大の都市エメスを越え、キスタナ洞窟を越えた先にあります」
「しかもクノリティアは雪山だぞ。エメスで温かい服を買っていくといい」
ヘラがハレティの後、続けて説明する。それほど有名なところなのだろうか。
「ヘラは大丈夫なの?」
「俺は炎を使うから大丈夫だ」
「お、オレは寒いから買ってくぞ!」
「あんたに聞いてない」
「うぐぐ……」
レインはなぜかヘラの方を向いて睨んだ。ヘラはまだ仏頂面だ。
魔王城がある街、リグナの西にあるのは大都市エメス。そこは人間界よりは劣っているが、魔界のどの街よりも発展しているという。大きな店はもちろん、学舎まであるらしい。
「あるルートを使ってホテルを予約しておいたので、あの建物に用意した魔方陣で移動しましょう」
「どんなルートだよ……」
「ふふ、秘密ですよ。あと、レインさん。あなたにお願いがあるのですが……」
「え?」
ハレティはレインに耳打ちした。途端にレインは神妙な表情になった。そしてすぐに私とヘラに向き直った。
「……やはりな」
「え?」
ヘラは低い声で唸った。
「鋭いヘラくんは知っているのですよね。あの建物のことを」
「……行くのか?」
「えぇ、そうですね。……って耳打ちした意味無いじゃないですか」
ハレティが残念そうに首をすくめる。
「……ってことだ。スクーレ、悪いがレインといてくれ」
「う、うん。ヘラも行っちゃうの?」
「……行く」
目を逸らして答えるヘラ。淡々と答える彼はどこか焦っているようにも見えた。
「それと、ハレティ。いい加減『くん』を付けて呼ぶのをやめてくれないか?」
「えー?いいじゃないですか。ヘ・ラ・く・ん♪」
「消すっっっ!!」
「あなたにはまだそんな力は備わってないですから不可能ですよ?」
「くそっ!」
……恐らく二年前の騒動の時に何かあったのだろう。私はその話題に敢えて触れないようにした。
大都市エメス。あまりにも広い土地なので警備が行き渡ってないと言われている。なので暴力はもちろん、窃盗も絶えないらしい。そんな犯罪天国のエメスだが、最近街を騒がしている者がいるらしい。通称『リスト』。彼は度々窃盗を犯しているという。
「着きました。ここがエメスです」
私たちはハレティが用意した魔方陣でテレポートし、エメスのホテルのロビーに到着した。ちょっと酔いそうだ。
私は先程ハレティに説明された『リスト』のことが気になってソワソワしていたとき、レインが私の手を引いた。
「行こっ?」
無邪気な笑顔を見せるレインを見て、思わず笑ってしまった。いつの間にかハレティとヘラの姿が見当たらない。用事があるようなのでどこかに行ってしまった。レイン曰く、「ご飯までには帰ってくるだろう」ということらしい。
最近はペンダントに封印されつつも、ハレティがいつもそばにいることが普通だと思っていたが、いなくなるとそれはそれで寂しい。
私たちはハレティが予約してくれた部屋に入り、外の景色を見ていると、レインが私の名前を呼んだ。
「スクーレ」
「何?」
振り向くと、レインはにっこりと笑っていた。
「……何かあったら何でも言えよ。オレらがついてるから」
「……レインは私を殺そうとしたりはしないの?」
「いきなり何を?」
「だって……言ってたじゃない。悪魔として……って」
私はイリスの入口で聞いた言葉をもう一度思い出しながら言った。
レインはみるみるうちにさっきまでの笑顔を消した。
「……何度も言うが、オレはお前を殺す気なんか無い。オレが……オレが殺すのは悪人だけだ」
「……そっか」
大勢の悪魔によって形成された街を見る。彼らは彼らで生きている。勇者である私は彼らを倒さねばならない。
本当にこれでいいのか?もし私が昔レインに関わってなければ、どちらかが殺されているだろう。勇者としての死。悪魔として散るレイン。どのルートにもハッピーエンドは残されていない。
悪魔たちから護るためにいたレインは「ご飯買ってくる」と残し、部屋をあとにした。
ドアの開閉音がしたあとに訪れる静寂。私はベッドに近づき、さまざまな思いが込み上げてきて耐えきれない体を沈めた。
どうも、グラニュー糖*です!
珍しく前書きがありましたよね。
文章量がめちゃ多いんです。
三期の最後の方ではさらにとんでもない量が飛び出してきます。やばい。
今回名前だけ出た『リスト』ですが、『奇士刑事』の本編に出てきます。
リストって名前なんですが、本当は日本人です!
理由は今後出てきますので、お楽しみに!
では、また!