変わり果てた城
第七話 魔王と白の騎士団
私たちはメノイさんとヘラの夢魔姉弟から緑のスフィアを貰い、ヘラを連れてイリスを出発した。ヘッジさんは未だに見つかっていない。
イリスの森の奥はたくさんの蝙蝠が飛んでいたので足早に森を抜け出した。
「……ハレティ、いるのはわかってるんだ。出てきたらどうだ?」
ヘラは唐突に私の方を向いて言った。
私はギョッとしてヘラの方を向いた。
「な、何を言って……?」
「ハレティの魔力を感じるんだ。いるんだろ?」
ヘラ、すごく鋭い勘をお持ちで。
彼の言う通り、ペンダントの中にハレティは封印され……いや、住んでいる。出入り自由なのでもう封印とは言えない。
ハレティはテレパシーで『出ます』と短く言い、ペンダントを発熱させた。
「お久しぶりですね、ヘラくん」
「……そうだな」
ヘラは素っ気なく答えた。
「知り合いだったの?」
「……スクーレ、あなたはレインさんと一緒にいなさい。少しお話をしてきます」
ハレティは私が何かを言う前にレインの方にグイグイ押しやった。男同士の内緒話ですか、そうですか。
私はくしゃみが完全に治まったレインの方へ歩いていった。
ハレティとヘラは前を行く私たちとちょっと離れたところで話していた。
「……俺の呪いのことだが……めんどくさいことしてくれたな」
「嫌がらせにしては上出来でしょう?」
「上出来すぎて困るな」
「褒めないでくださいよ」
「褒めてねーよ。で、なんで封印するのが表情なんだ?どうせなら感情まで……」
「……感情を封印するのはあなたに多大な害をもたらします。精神に関わるので表情だけにしたのです」
「どうしてこんなことをした?」
「……それは今話すことではありません。そうですね……この旅が終わる頃に教えてあげましょう。なに、すぐわかりますよ」
ハレティは優しくヘラの頭を撫でた。
ヘラはそっぽ向いた。ハレティはニコニコ笑っている。
そんな二人に無神経なレインは大声で話しかけた。
「おーい!なんだ、あの白い建物は?!」
レインが指差す方を見ると、形は変だが、文字どおり大きな白い建物があった。何だ、あれ。
「……魔王城……!」
一番最初に反応したのはヘラだった。顔には出てないが、ものすごく驚いているようだ。ほんと、この人ずっと仏頂面だな……。
「白の騎士団……何をするつもりなのですか……」
珍しく、隣にいるハレティも驚いた表情を見せていた。
私たちは急いで白くなった魔王城へと向かった。
「こっちだ!」
私たちは魔界の中心にあるリグナに到着し、すぐに魔王城へと向かった。正門には白い鎧を着た人間が大勢立っていたので、裏口から入ることにした。二年前、魔王城に入ったことがあるというヘラに案内してもらい、裏口中の裏口、つまり秘密の裏口から潜入した。
裏口を出ると、そこは謁見の間だった。そこには茶髪のポニーテールで首には黄色いマフラーを付け、茶色いワンピースを着た女性と黒髪のボブで首には赤いバンダナを付け、体にフィットした赤いワンピースを着たナイスバディな女性と白い鎧を着た人間たちがいた。
「ライルさん……どういうことですか?」
ヘラが前に出て話しかける。ライルというのは茶髪の悪魔のことらしい。
恐らくここの主……魔王だろう。
「ヘラ……どうして来ちゃったの?」
「ライル様。あちらにも人間がいます。どうか慎重になさってください」
黒髪の悪魔が言う人間って……私のこと?私はただヘラについてきただけなんだけど……。
ライルさんの魔力は一級品で、さすが魔王と言えるほどだ。しかしどう見ても悪いことはしなさそう。私は誤解を招かないためにヘラの横に立ち、自己紹介した。
「あ、あのっ……私はスクーレです。勇者ですが……あなたを倒しに来たわけではありません。どうか、御理解していただけますでしょうか?」
「……どういたしますか、ライル様」
ライルさんは数十秒間考え込み、その間私の息は緊張で止まっていた。
「……わかった。ヘラと一緒にいるんだったら信じるしかなさそうね。そこの幽霊を見たら……半信半疑になっちゃうけど」
「やっぱり見えてましたか」
「私をなんだと思ってるの?霊王さん」
「……その呼び名は反則ですよ」
ハレティは苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
霊王?どうしてハレティが?
「あら、知らなかったかしら?彼は二年前の騒動の幽霊や妖怪のトップ……霊王なのよ」
「えええ?!」
「もー、秘密にしてたのに……」
ハレティが不服そうに言う。そんな彼にレインは詰め寄った。
「おい、ハレティ。今だから聞くが……ヘラの呪いって……」
「私がかけました」
なんてこと。でも呪いって?
「……話はあとです。白の騎士団が待ちきれないようですからね」
「そうみたいね。気を付けて、あの人間達は強敵よ。ヘラ、あなたの質問に答えるなら……『あいつらは魔王城を乗っ取りに来ている』ということかしら」
「なっ……!」
驚く皆を一瞥し、一人だけため息をついたハレティは私に向き合った。
「スクーレ、あなたは下がってなさい。人間同士戦わせたくありません。それと……あなたを失いたくありませんから」
私は有無を言わさず結界の中に押し込まれた。まず『白の騎士団』って存在したんだ……。それに私が知らなくてハレティが知っているということは……。
「傀儡……」
私の口から零れた言葉は誰の耳にも届くことはなかった。
「ヘラ!相手は人間ですが油断してはいけませんよ!」
「……わかってる」
ヘラを敵に回すと凄まじい攻撃力に恐れ入るが、仲間にするととても頼れる人だ。一太刀で私を守る結界もビリビリと震えている。
ハレティは相変わらず水の魔法で応戦している。
レインは二本の剣に魔法をかけて強化し、タイマンを張っている。二人、三人と来たときは呪術で対抗している。
ライルさんは魔導書を片手に電撃を放っている。
スグリと名乗った黒髪の女性は体術だ。
どうして人間ではなく傀儡なのに私を遠ざけたりしたのだろう。
もしかして私には早いとでも言いたいのだろうか?私もたくさん魔物を倒したのに。それとも人外にだけ効く幻術でも発動しているのか?私だけが人間だから効いてないのか?しかしなぜ私もこの城が白く見えたのか?どこからどこまでが幻術なのかわからない。
私が導き出した答えは一つ。
『幻術をかけているが、魔王城を実際に白くし、今本当に起こっていることにしている。操っているのは相当な手練れだ』ということだった。
しかし、犯人は検討がつかなかった。
「はぁ……はぁ……なんとかなりましたね」
「だぁーっ!……疲れた!」
レインが上を向いて叫ぶ。それをヘラは耳を塞ぎながら睨んだ。
「そんな叫ぶ元気があるなら疲れたなんて言うな」
「うっせーなぁ」
「スクーレちゃん、大丈夫?」
「は、はい!」
「ライル様……」
悪魔達は祭りが終わったあとのように疲れを癒している。
彼らの目には死屍累々が映っていると思うが、私の目には壊れた土人形しか映っていない。
幻術なんて使えるのは術師のレインぐらいだが、彼も戦っていたため候補から外れる。これは厄介なことに巻き込まれてしまったかもしれないとスクーレは溜め息をついた。
どうも、グラニュー糖*です!
メンバーが増えてきましたね!
今期はカリビア、ヘッジ、レインですか。
次回!また増えます。
では、また!