吸血鬼リメルア
第四十話 吸血死神
「ヘッジさん。痛いとき、苦しいときは遠慮なく言ってくださいね。その強さでいきますから」
「さらっとひどいこと言うよなぁ」
ヘッジさんが大きな鎌を構えておどける。その鎌からハレティは必ず逃げ切らないといけない。なぜなら、ハレティはこう見えて衰弱しきっているからだ。
「戦いですので」
「そういや下が騒がしいな」
「レインさんたちが戦ってるのです」
「そうか。あの動物たちには気をつけた方がいい」
「どうしてですか?」
「あいつらは……吸血鬼になってる」
「……そのことですか」
「そんなに驚かないのな」
「もちろん。だって……私の部下ですから。それくらいのことは知ってます。ね、ヘラくん」
「あ、あぁ……」
突然ふられたヘラはちょっと戸惑いながら相槌を打つ。
部下が吸血鬼にされた?一体どういうこと?さっきは苦手だからと思っていたけど、本当はもっと別の理由があったってこと?
「じゃあこれは?レインはもう手遅れだということ」
「!?まさかさっき噛まれたので……」
「というかなんで知ってるの?」
「使い魔を送り込んでたからな。そろそろ変化が起きてもおかしくないんじゃないか?」
ヘッジさんが言った時、下から叫び声が聞こえた。この声は……レイン!
どうなってるのか確かめないと……!
「行くな」
思わず一階に下りようとした私の手をヘラはがっしりと掴んだ。力が強すぎて骨が折れてしまいそうだ。
なんで、と反論をしようと彼の顔を見ると、いつもの無表情が心なしか怒っているように見えた。
「レインは大丈夫だ。きっと、な」
「ヘラ……」
「でも本当は知ってて……」
「……あいつはいつもトラブルに突っ込んでいくからな。でも最後はちゃんと解決する、だろ?」
「……うんっ」
「だから大丈夫だ。わかったな?」
「わかった……」
ヘラは満足したのか、また前を向いた。その目線の先でヘッジさんとハレティは魔法合戦をしている。どちらが勝ってもおかしくない戦い。生と死の相対する宿命とも言える戦い。今は二人が口論をしていた。
「ヘッジさん……あなたを救います!アルメト様のことでわかりました……だから、今度はあなたを守ります!」
「守るって、もう遅いんだよ!俺は……もう普通の死神じゃない……ムジナに合わせる顔がないんだ!」
「それなら今から作ればいいんです!そして……二人で暮らせるようにしていきましょう?」
「そのムジナを閉じ込めたのは誰だ!!」
ヘッジさんが割れんばかりの声で叫ぶ。それは吸血鬼の夫としてではなく、一人の兄としてだ。
それを聞き、ハレティは魔法を止めた。そしてスルスルとヘッジさんの方へと向かっていく。
ヘッジさんは明らかに焦っている。何が起こっているのかを脳が処理できていないようだ。
ハレティはヘッジさんの所に着くと、何やら耳打ちをした。ヘッジさんの血の気のない顔に希望の光が差した気がした。
「それは本当か!?ハレティ!」
「えぇ。だから通してください」
ハレティが頼み込む。ヘッジさんも了承したような素振りを見せたその時、凛とした声が響いた。その声は部屋の奥から聞こえてきた。
「ヘッジ。あんまり信じちゃダメよ」
「お前……」
「久しぶりね、ヘラ」
一番最初に警戒したヘラに妖艶な笑みを向けて挨拶をした。胸に花をつけた白黒のワンピースを着、カチューシャとチョーカーをつけている長髪の女性。話の流れからして、この人がリメルアか。
「近所なのに全然会いに来てくれないんだから」
「……会いに行くわけない」
「あら、見ないうちにクールになっちゃって」
「リメルア……」
「ヘッジ、そんな悲しい顔しなくていいのよ。それと、ハレティは何をしようとしてるのかしら?」
スフィアを体の周りに浮かせたばかりのハレティに全員の視線が注がれる。
彼は私、ヘラ、ヘッジさん、そしてリメルアの順番に顔を見てから告げた。
「何って……あなたを倒すための準備ですよ。リメルアさん」
「ふふ、笑わせないでよ。幽霊に何ができるの?」
「できることはもうやりました」
「準備だけ?やっぱり変わらないわね、ハレティ!」
叫ぶや否や衝撃波をハレティに放った。しかしそれをスフィアのバリアが掻き消した。
「めんどくさいアイテムね」
「その為に集めたんですからね」
「でも私はヘラを殺せばそれでいいの。ね、ヘッジ」
「え……でも……」
「なに尻込みしてるの?ヘッジは私に従順じゃないといけないのよ。だって私に血を吸われたんだから」
そう言ってリメルアはヘッジさんと唇を重ねる。見ているこっちが恥ずかしくなってきた。そんな彼女は今度は私を上から下まで舐めるように観察し、話しかけてきた。
「で、今期の勇者よね?あなた」
「は、はいっ」
「ふーん……その姿、ハレティが仕えてたアルメトのこと信仰してるのね。実在してるの知ってるのに信仰ってちょっとおかしいけどね」
「はい」
「……リメルアさん、あなたは何が言いたいのですか?」
「邪魔しないの、ハレティ。あなたの話なんだから」
「私の……?」
「あなたの遺体の話よ」
「!」
ハレティの遺体?どこにあるっていうの?伝説には記されてなかったような……。もし発見されたら宗教的大発見だ。
「ハレティにも見せてないけどね。まだ服も着て……人間にしては綺麗なもんよ」
「まるで人間じゃないように言ってくれますね」
「だってあんなことする人、人間じゃないでしょ?」
ハレティが苦虫をかみつぶしたような顔をしている。この言いぐさはリメルアがハレティの遺体を所持しているのだろうか。
「……人間じゃない、ですか。そうかもしれませんね……」
ハレティは俯いて自分に言い聞かせるように呟いた。
そしてずっと沈黙を保ってきたヘラがそれを破った。
「……黙って聞いてりゃハレティを傷つけてばっかで……何とも思わないのか、リメルア」
「あら、ハレティの遺体を残すことになったのはあなたのせいなのはお分かり?それにあなたはハレティに感情を封印されてるのでしょ?恨んだりしないの?」
「お前になんか教えるかよ」
「もう、いけずね。反抗期なのかしら?」
「うるせぇ」
リメルアは普通に対話しているように見えるが、殺気が抑えきれていない。今にもヘラに襲いかかりそうだ。
「言うこと聞かないなら手っ取り早く消しちゃった方がいいかしら?」
「そんなこと私が許さないわ!ヘラを殺させやしない!」
私はヘラの前に庇うように立ち、それを見て腕組をしたリメルアは鼻で笑った。
「ふん、お子さまにはわからないだろうね。スクーレっていったかしら。甘いのよ。人間かつ勇者なのに、のこのこと旅なんかしちゃって。あなたぐらいよ、悪魔を何とも思わない人間は。ハレティでも悪魔を忌み嫌ってたのにね」
「だって……悪魔も人間も中身は一緒だと思ってるもの!だから嫌いになんてなれないわ!」
「そう。勝手に思っておくといいわ。いつか必ず裏切られるわよ」
さっきまでの接待用の笑顔とは裏腹に、今度は禍々しい笑みを浮かべるリメルア。私は自然と「ぐ……」と呻いていた。
「さぁ、ヘラ。早く戦いたいわ。さっきから戦いたくてウズウズしてるの。あなたのあの力……もう一度見せなさい!」
リメルアは両手を広げて叫んだ。
その手には銀色に輝く細身の剣が握られていた。
どうも、グラニュー糖*です!
先月三周年記念投票やって一番人気だったのはリメルアでした。
出したタイミングとかもありますが、人気でした。
あなたの好きなキャラクターは誰ですか?
では、また!




