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怪奇討伐部Ⅱ  作者: グラニュー糖*
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森の屋敷

第三十八話 化ける者



「早いですね。ちゃんと寝ましたか?」


 まだ太陽が昇りきっていない頃。私はハレティの元へ向かった。そして私は心の中を打ち明けた。


「そうですか……。私も皆さんと別れるのは寂しいです」

「じゃあなんでっ……」

「だからって戦うのを拒むのですか?だからってヘラくんを苦しませ続けるのですか?」

「そ、それは……」

「じゃあ戦いなさい。戦って、自分の悩みにも勝ちなさい。いいですね?」


 ハレティは諭すように優しく話しかけてくる。


「どうして……どうしてハレティはそんなこと平気で言えるの!?今までの勇者をその手で葬ってきたから!?」

「違います」

「じゃあなんでなの!?」


 ハレティは俯いたまま、口を開いた。


「……あなたは正義のヒーローの気持ちがわかりますか?」

「いきなり何よ?」


 私は思わずたじろいだ。この人は何を言い出しているのだろうか。

 ハレティが正義のヒーローだなんていうのか?


「もし大切な人が入院しても悪いやつを倒しにいかないといけないってなったら?もし自己犠牲でないと敵を倒せなかったら?その人が一番大切だからとか寂しいからって戦わないのですか?」

「……戦うわよ」

「そういうことです」


 ハレティはにっこり笑った。

 そして私は心の悩みと戦うため、ヘラを護るために戦うことを目標に斧を手に取ることに決めたのだ。



「気をつけてね?死んじゃダメよ。リメルアは強いんだから」

「それは私がよく知ってます」

「……自分を殺した人に会うのってちょっと変な感じするわよね」

「そうですねぇ」


 ハレティが頷く。そこ、頷いていいのかな。


「よーし、いっちょ暴れてやるか!」


 レインが準備体操をする。やる気満々だ。


「小さい頃、ヘラたちが使ってた抜け道があるのよ。そこから行った方が楽よ」

「何から何までありがとうございます。終わったら……また挨拶に伺いますね」

「ふふふ、待ってるわよ」


 メノイさんは笑って手を振る。本当にいろんなことをしてくれた。

 私たちがここまで来れたのは人間と悪魔の垣根を越えて協力してきたからだ。こんな考え、アルメト様の伝説を信じる信者としてダメだと思う。でもこれだけは事実なのだ。


 リビングと武器庫の間に大きな本棚がある。全てヘラの本らしいが、その二つの部屋を繋ぐ扉を開き、また目の前の扉を開く。そこには薄暗い一本道が続いていた。長い長い一本道。明かりは間隔が適当な松明だけだ。地下道のようだが、その上にはあの泉があるらしい。泉と目的地である屋敷は一直線上にあるらしく、抜け道を作りやすかった……とヘラと共に道を掘ったムジナが供述したらしい。


 屋敷に行くなと言われていたのに二人は行ってしまったので、メノイさんとヘッジさんにこっぴどく叱られたようだ。だがそんな二人をカリビアさんが宥め、ようやく怒りが収まったという。


「くっくっくっ……ヘラにあんな過去があったなんてなぁ……いじるネタが増えたぜ」

「レイン、あんまりいじめないでよね?ヘラだって大変だったみたいだし」

「知ってるさ。リメルアの噂くらいオレの耳にも届いてたし。なんたって、オレはコルマーにいたからな」


 自慢にならない自慢を聞かせられた数分後、はしごが見えた。もう到着したようだ。やはり地下道は早い。木も障害物も何も考えずに真っ直ぐ歩くだけなのだから。これは昔のヘラとムジナに礼を言わなければならない。


 はしごを上ったあと、私たちは大きな塀の内側に出た。目の前には水が流れている。恐らく水源は屋敷の後ろ五百メートルほどにある滝だろう。


 黒いが少し赤みを含んだレンガで建てられた屋敷はかなりの大きさだった。幼い頃のヘラとムジナが行きたいと言わないわけない。私だって探険したくなってくるほどの規模だ。

 レンガと同じような素材で作られた門をそっと開けると、たくさんの部屋があった。明かりは松明だけ。二枚ほど部屋の扉を開けると、どちらも同じ家具が同じ場所に対になって設置されており、同じ列の部屋はコピーしたかのように全く同じだった。まるでホテルみたいだが、ここは一人が住む家。もはや家というよりダンジョンだ。


「おい、あそこにはしごがあるぞ!」

「あそこにもありますね」

「どっちかがアタリとかそんなんじゃないの?」

「じゃあオレあっち行く!」

「私はこっちですね」


 彼らは下見として率先して行った。だが……。


「いってぇ!」

「スクーレ、こっちですよ」

「普通右じゃねーのかよ?!利き腕とかさぁ!」

「左利きなんじゃないですか?」

「そんなんありかよー!」


____両利きのあんたに言われたくないわ。


 右の通路から出てきたレインは頭をさすっている。何があったのだろうか。


「なぁ、聞いてくれよ!レンガの塊があったんだ!めちゃくちゃ痛かったぞ!」

「それはご愁傷さまね……」

「二人とも、のんびり話している余裕はないみたいですよ」


 ハレティの消え入りそうな声が聞こえ、私たちは慌ててそっちを見る。するとそこには二体の動物がいた。狐と狸だ。ハレティってもしかして動物苦手?それとも動物アレルギー? 幽霊なのに?


「かわいいじゃん!ハレティ、こんなのが苦手なのか?」

「あ!そんなに近づいたら……」

「いってー!噛みやがった!」

「だから言ったのに……」


 狸に噛まれたのに狐に抓まれたような顔をしているレイン。わりと痛そうだ。ハレティは「あちゃー」と言って顔に手を当てる。こいつ、確信犯だ。なぜならクスクス笑っているのが見えたからだ。


「おかしいですねぇ。狸はどちらかというと草食なのに。まぁ小動物などは食べるみたいですが」

「知らねーよ!てかもういい!スクーレはリメルアのとこ行かないといけないし、ハレティは動物嫌いなんだから、ここはオレがやる!」


 レインは振り向いて拳に力を込めて言い放った。


「でも……」

「心配すんな。オレはそんなに柔じゃない」

「違うの。私が言いたいのは……」

「ふふふ……久しぶりね、おにーさん♪」


 イレギュラーな声を聞き、レインの動きが錆びついたようにぎこちなくなった。


「お、お前は……」


 レインの瞳が大きく見開かれる。彼の瞳に映っていたのは、首が長い女性……ろくろ首だった。


「ハレティ!これはどういうことだ!?」

「あれは化け狸……妖怪です。化かされてるんですよ。お前は狸だー!なんて言ってみてはどうですか?」

「そんな悠長なこと言ってられるか!倒す!ろくろ首め、何度も出てきやがって!」

「ろくろ首と思っているあたりからもう化かされてますけどね……」


 ハレティは呆れ返っている。

 残った狐も化け狐だと思うが……まだ姿が変わらない。レインが化け狸の相手をしているこの間、先に進む絶好のチャンスだ。ハレティも同じようなことを考えていたその時、バーン!と音と共に玄関の扉が左右に大きく開かれた。


「ここだ!リスト!」

「ヘラ!?」

「スクーレ!ハレティ!それにレイン!やっぱり来てたんだな!」


 肩で息をしながらヘラは叫んだ。まだ呪いは解けていない。まだ少し上ずっただけの声の状態だったからだ。


「……スクーレ……人間か」

「リスト、約束約束」

「わかってるよ」


 舌打ちをし、屋敷に入ってくるリスト。ヘラと何の約束をしたのだろうか。そしてそのまま私に声をかけた。


「スクーレ!俺はまだお前を殺さない。だがな、手伝わないことはない。その……何て言うんだ。そこの妖怪はオレに任せろ。お前はヘラを連れてリメルアのところに行くんだ。わかったな?!」

「もちろん!ありがと、リスト」

「……遠慮するな。元だが、同じ人間のよしみだ」


 そう言ってリストは着物の懐から鞭を取り出す。すると化け狐は待ってましたというように姿を変えた。これは……ミイラ?いや、包帯男か。乾燥してないみたいだし。その姿を見て明らかに狼狽えた者が一人。ヘラだ。


「なんでここに……何があっても俺に罪を思い出させるんだな……」

「ヘラ!突っ立ってないで、行くわよ!」

「絶対勝てよ、スクーレ!」

「……まずはこっちを片付けるぞ、レイン」

「おう!」


 私とハレティとヘラはリメルアの屋敷の二階へと向かった。私がはしごを上り終わったとき、既に戦いの音が聞こえてきていた。

どうも、グラニュー糖*です!


やっとラストステージですね!

リメルアはキャラではなくデザインがブレブレだったんです

ライル?あいつはデザインブレブレの殿堂入りでしょ。


では、また!

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