スグリの実力
第三十五話 試練とルール
「この剣の良いところは……なぜか速くなる!軽い!一撃が重い!」
最後にひゃっほぅ!と駆け抜けながら叫ぶレインを視界の隅に入れ、私たちは散開した。
観客席の二人はそんな私たちを見てのんびりと感想を述べていた。
「始まりましたね」
「そうね」
「おや、何か不満でも?」
「不満なんかないわ。むしろいい暇潰しになるくらいよ」
「魔王がそんなに暇な仕事なんて思ってもなかったですよ」
「嘘じゃないんだけどね。ま、どうやって突破するのかなとか考えるくらい暇はあるわね」
不意にライルさんは席を立った。
「どこに行くのです?」
「招かれざる客の殲滅よ。そっちは行けないんだっけ。霊王のくせに妖怪を倒すなんてーとか思われないために、かしら?」
「おやおや……やはりあなたに隠し事はできませんね」
クスクスと笑って誤魔化した。いつまでそれは持つだろうか。
「じゃあね。終わったら戻ってくるわ」
「健闘を祈りますよ」
「なんか複雑」
ライルさんは困り顔をして闘技場の外に向かった。
私たちはそんなことはつゆ知らず、スグリさんが一発拳を打ち込んで割れた地面を縫ってスフィアの方へと走っていく。
「なかなか近づけないわね……」
「私だって仕事ですからね」
「仕事の域越えてないですか!?」
「これがカヒトに棲む悪魔の平均的な力です」
「嘘だー!!」
私はスグリさんがほぼ本気だということは既に知っている。カヒトが毎日こんな感じだったら、とっくの昔に世界が崩壊しているだろう。
「そこだぁっ!」
遠くでレインの叫び声が聞こえる。彼は大きな黒い翼を広げ、高く飛んだ。そのままスフィアの元へ行くつもりだろう。しかしそう甘くはなかった。
スグリさんは振り向いてから地面に再び一発、拳を打ち込んだ。真っ黒い岩盤のようなものが露わになる。それを踵落としの衝撃で打ち上げ、上空へと幾つか飛ばした。それはレインがいる高さ辺りまで飛んでいった。
「う、おっ……んぶふぉっ!?」
下を向いて驚くレインの顔面に、硬い土の塊がクリーンヒットした。
そしてスグリさんは驚くべきスピードで空に舞った岩盤のようなものや、土の塊を蹴ってレインと同じくらいの高さまで飛んだ。
一方、私は動けなかった。怖いからではない。動けば、彼女が捕まえたレインを私がいる地上に叩きつけ、二人とも行動不能にされるかもしれなかったからである。
どうしてレインが捕まるとわかるのか?それは彼を見ればわかることだった。土が邪魔で前が見えないのと、とっても怯んでいたからだ。
そして数秒も経たないうちに前の方で砂ぼこりが舞う。レインが落ちてきたのだ。
「これじゃあ難しいわ」
「そ、それな……がくっ」
「寝るな、起きろ」
私は動かないレインを容赦なく蹴る。彼の白いマフラーにたくさんの土が付いていた。さっきまで彼を支えていた翼も力なく萎れている。しばらくは動けないだろう。
一方、地上に降りてきたスグリさんは余裕綽々だった。そして私に話しかけてくる。
「スクーレさん、いけますか?」
「ナメないでほしいわ」
「ふふ、頑張ってくださいね」
斧の柄をさらに強く握り、スグリさんの方を睨んだ。しかし内心はすごく怖かった。
「そうよ……ただスフィアを手に取るだけじゃない……」
私は自分にそう言い聞かせ、怖さで重くなった足を動かした。
「行くわよ!」
「来なさい、勇者スクーレ!」
私は立つついでにレインが持っていたカリビアさんの剣を手に取った。すると、斧の先の星と剣の宝石が共鳴するように金と銀に輝き始めた。
「え!?な、何これ!?」
「これは……」
焦る私を見てスグリさんも訳がわからないというように目を丸くしていた。唯一反応したのは観客席にいるハレティだけだった。彼はライルさんが置いていったメガホンを手に取り、叫んだ。
「スクーレ!それはスフィアの欠片です!」
「スフィアの欠片?」
「私のではなく……アルメト様のです!」
「アルメト様の!?」
どうしてこの二つが共鳴するのかはわからない。ただ、共通しているのはカリビアさんだということだけはわかる。何せ、この二つの武器に手を加えたのが彼だからだ。
そして体の奥が熱くなってきた。これはハレティがペンダントに出入りするときと同じくらいの熱量……しかしハレティは相変わらず観客席にいる。どうしてこうなってしまったのだろうか?慌てて前を見ると、台に置かれているスフィアが赤い光を放っていた。
「ちょっ、まっ……熱いっ!」
ハレティがいる方向から今まで獲得してきたスフィアたちと向こうに置かれていた赤のスフィアがフワフワと浮遊し、私の周りを旋回し始めた。
黄、緑、白、赤のスフィアが共鳴し、それぞれの色で輝く。さっきより熱いし、なんと言っても眩しい。燃えてしまいそうだ。
「スクーレさん!?今行きます!」
スグリさんがどうにかしようとこっちに向かってきた。しかし謎のバリアが行く手を阻む。
「きゃっ!?私の力でもダメだなんて……」
「うぅ……ぅへぇっ!?」
とんだバッドタイミングでレインが目を覚ましてしまった。そして異常な状態に思わず情けない声を上げた。
周りの声がどんどん遠くに聞こえる。まともに立ててるかどうかもわからない。そんな私が最後に目にしたのは、鬼の形相をしたハレティだった……。
「スクーレ!目を覚ましてください!」
「……ここは……」
「ここは救護室ですよ」
どれくらい経ったのだろうか。私は闘技場の救護室で眠っていたようだ。動こうとすると首の後ろがズキズキと痛む。
「あぁ、安静にしててください。手刀で気絶させたんで、痛いでしょ?」
「てっ、手刀ぁ!?道理で痛いわけだ……いたたっ」
「どうしたー!?何かあったかー!?」
「大丈夫です、解決しましたよ」
レインがカーテンをスライドして開放し、転がり込むように入ってきた。大声で叫ぶので頭が痛い。
そういえば戦いはどうなったのだろうか?
「ねぇ、戦いは?」
「それは私が説明するわ」
レインの後ろから入ってきたのはライルさんだった。彼女の手には赤のスフィアがある。他のスフィアはハレティが持っているのだろう。
「あなた、理性を失ってたわよ。でもこのスフィアに手が触れたってことであなたの勝ちなわけだけど。妖怪殲滅から戻ってきたらあら大変、ハレティ以外みーんな倒れてた。スグリは魔力のせいで近づけず……あなたは確か自分の剣に拒絶されたのよね?」
「恥ずかしいぜ」
「自慢することじゃないでしょ?」
壁にもたれて腕を組むレインは自慢気に首を縦に振る。ライルさんはその様子を見て呆れていた。いつの間にかハレティはどこかに行っている。スグリさんの姿が見当たらないが……。
「あの、スグリさんはどこですか?」
「他の部屋よ。オーバーヒートしちゃったみたい」
「オ、オーバーヒート?」
「折れるほどの衝撃を受けてないのに骨折するとか、そんなもんね」
「え……」
「大丈夫大丈夫!いつもの事だしね」
「いつもあったらダメじゃないですか!」
思わずつっこんだ。しかしそれを見てライルさんは安心したように笑った。
「なんで笑うんですか?!」
「いやいや。気落ちしてないかどうか見てみたかったのよ」
「じゃあスグリさんは……」
「あ、スグリはオーバーヒートしてるわよ」
「嘘じゃなかったんですね……」
私はベッドの毛布を見つめながら呟いた。恐らくスグリさんは目も当てられない状態なので別室にいるのだろうと思った。
「でもスクーレが元気になってよかった。ずっと目覚めないかと思ったぞ」
「失礼ですね。私の手刀、そんなに強力じゃないですよ」
「嘘つけ、一発だったじゃねぇか!!」
部屋の隅でレインとハレティが口論をしている。喧嘩するなら出てってほしいけど……今はそんなこと言える気がしなかった。逆にずっといてほしいと思った。どこかこの騒がしいのが心地よいと思ってしまう自分がいた。
「ふふふ、相変わらず騒がしい二人ね。とにかくあなたの勝ちよ。おめでとう」
「ありがとうございます」
ライルさんは手を差しのべてきた。私も条件反射で手を伸ばす。そして握手をした。
これは魔王と勇者が初めて手を取り合った瞬間でもあった。
どうも、グラニュー糖*です!
乾燥で喉が痛いです。
昨晩新しいキャラ描く練習してましたが、ムズすぎて「眠っwてかむずいwww」と深夜テンションになってました。
では、また!




