スグリとの戦い
第三十四話 赤のスフィアをかけて
翌日、ライルさんに案内されたのは小さな闘技場だった。中はイメージしていた闘技場を少し小さくしただけだった。
ちゃんと選手が入場するところもあり、観客席も完備されている。しかし客は誰もいない。いるとすればライルさんとやる気の無いハレティくらいだ。
……なぜハレティが?
「ねぇ、何でハレティ、観客席にいるのよ」
「霊体はすり抜けますからね。チートじゃかわいそうです」
ハレティは頬杖をついて言った。それに隣に座っているライルさんは異を唱えた。
「チート?何言ってるの?スグリのキックは次元を切り裂くわよ」
「余計行きたくなくなりました……」
ハレティは両手で顔を覆って嘆いた。そんな彼の背中をライルさんはドンマイとばかりにポンポンと叩く。何なんだ、この人たちは。
突然ライルさんがどこからかメガホンを取り出し、こちらへ向けて叫んだ。
「二人とも油断してていいのかしら」
「え?」
____ドーン!!
私とレインが振り向いた瞬間、すぐそばで爆発音に似た音が聞こえた。いや、そのものにも聞こえた。
ぶわぁっ!と砂ぼこりが舞う。その向こうには一つの影が見えた。あれは紛れもなくスグリさんのものだった。
「うっそぉ……」
「あんなんに勝てるわけねーだろ!」
私は茫然とし、レインは指を差して吠えまくる。
「ほら、油断しちゃダメでしょ?」
「油断どころじゃねぇよ!あんなん、いつか死ぬわ!」
「ちょ、レイン……」
レインが観客席のライルさんに向かって怒鳴っている間にも、スグリさんはゆらりゆらりと近づいてくる。このままじゃ時間の問題だ。しかし隣に立っているレインを見ると不敵な笑みを浮かべていた。
「……なーんてな!そこだ!」
「!?」
レインがいたずらっ子のような声を出した時だった。砂ぼこりが強風で消え去ると共に、スグリさんの周りに薄紫の壁が出現した。これはレインが得意な結界の一種だ。
この戦い、いつから始まってたんだ……?
「見たか、魔王!お前の側近を閉じ込めてやったぞー!」
レインが勝ち誇ったようにライルさんに向かって叫ぶ。この二人はいつから争ってたんだ。
しかし今度はライルさんがいたずらっ子のような顔をして喜ぶレインに告げた。
「それはどうかしら?」
その途端、爆風が私たちを襲った。本日二度目だ。
「え?」
「私のスグリには結界は効かないわ」
「何だってー?!」
何だって?!はこっちのセリフだ。何でこんなことも想定できないかな?
何はともあれ、ここは闘技場。広いフィールドにはほとんど何もない。この二人でスフィアをかけて戦うのは二度目だ。
一回目はヘラと緑のスフィアをかけて戦ったときだ。あの時はヘラが水に弱いことがわかったので、運良く近くにあった泉まで誘い込んだので勝てたが、今度は何もない。
結界が効かなければ、飛んでも砂ぼこりでどこにいるかがわからない。魔法だっていまいちだ。さて、どうしよう?
「スクーレさん、レインさん、手加減はいりません。全力でぶつかってくださいね」
砂ぼこりの向こうでスグリさんが優しく言うが、言動が一致していないのでどうしても身構えてしまう。
もうすでに地面がいろんなところで割れている。足の踏み場が少なくなってきた。
「くっそー、これでも喰らえー!」
「レイン!無茶はよしなさいよ!」
レインはどこからか二振りの剣を取り出し、そのまま駆け出した。が、すぐに元の場所に弾き返された。
「何だあれ!?めちゃくちゃじゃねぇか!」
「だからよしなって言ったのに……」
レインは起き上がるなり、またギャアギャアと喚き出した。毎回何か言うなんて、クレーマーかお前は。
どうしようかと悩んでいたとき、観客席でハレティと話していたライルさんが再びメガホンで叫び始めた。
「スグリー、勝てそうにないし、ルール追加でもするー?」
「ルールですか?」
「スグリ、あなた強すぎるのよ。そうねぇ……優勝旗がありそうなところにスフィア置いとくから、スグリは守りなさい。で、二人が取ったら勝ちにしてあげる」
「いいのか!?それなら簡単だな!」
レインはさっきと打って変わって満足そうな顔をして言う。
確かに武器を使用しないスグリさんに二人で挑むと、どちらかに集中しなければならない。それは二手に分かれたとき。分けなければいいだけの話だが、どうも引っかかる。そんなことしたらすぐに決着がつくのに、どうしてライルさんはそんなことを言い出したのだろう?
「その代わり……スグリ、本気出していいから」
「了解しました」
……そういうことか。じゃあカヒトで一番強いと言われていたスグリさんの力量、見てみようじゃないの。
私はカリビアさんに強化してもらい、今ではお気に入りとなった斧を構えた。
一方、先程まで元気だったレインは今度は愕然としていた。私は驚き、彼の手元を見ると血の気が引いてしまった。なんと太い呪われた剣が真ん中辺りでポッキリと折れてしまっていたのだ。いつも防御するときにその剣を盾代わりに前にしていたからだろう。
レインのどうしようもない癖によって折られてしまった呪いの剣に刻まれている瞳は、レインのいる方向をしっかりと見据え、恨めしそうにしているように見えた。
「くそっ……オレの剣が……」
「大丈夫なの?」
「……どうすっかな。こっちの細いのは二刀流じゃないとただの爪楊枝みたいな耐久力になっちまうし」
「あっそ」
爪楊枝って言い過ぎだと思うけど……。いつもその細い剣一本で戦ってきたの見てたとは口が裂けても言えない。というか本人も知っているだろう。
二人で悩んでいる時、ハレティは私たちの異変に気付き、ライルさんと話をしていた。
「あらら、剣ポッキリいっちゃってますね」
「あれ、呪いの剣じゃないの。呪われるわね、あんなことしたら」
「まぁ……あの人はああ見えて呪術師なんで大丈夫でしょうけど……」
「何?心配なの?」
「……戦力がここで削れてしまうといろいろ問題があるのです」
「問題?死んでるあなたには関係無いのでは?」
「いえ……死んでるからこそです。私たちはこの戦いのあと、この冒険に終止符を打ちに行きます。ヘラくんを守るための旅……ではなく、本当の旅の目的を果たしに行きます」
「どこに行くの?支援はいらない?」
「……イリスの奥の奥です。支援……そうですね、牢屋一つ開けといてもらえればそれでいいです」
二人が何を話しているかはわからないが、何か嫌な予感はしていた。
レインはあの剣を後ろに投げ飛ばし、さっきとは別の粗末な剣を手にした。あれは……。
「こっからカリビアの剣でいく。だから心配すんな」
レインはにっこり笑い、すぐに前を向いた。私はなぜかとても安心してしまった。
「二人とも、準備はいいですか?」
「えぇ!」「いいぜ!」
私たちは同時に返事をした。
スグリさんは「元気がいいですね」と呟き、臨戦態勢をとった。
どうも、グラニュー糖*です!
UFOキャッチャーは設定がイロモノのほうが好きです。
では、また!




