戦いの前日
第三十三話 ライルとスグリ
「これは一体どういうことですか?」
私たち『勇者一行』と『魔王城の悪魔たち』が一触即発の状態に陥ったとき現れたスグリさんは、笑顔のまま事の顛末を聞き出そうとしていた。そして誰もがその笑顔の奥に揺らぎのない冷たいモノがあることを感じていた。
「スグリさん!」
「よく来てくれました。ライル様がお待ちです」
スグリは奥に向かうように指示する。
「スグリさん、あの取り囲む悪魔はどうするのです?」
ハレティは不機嫌そうに問う。まだ戦いたいという気持ちがあってのことか。
「その件については、倒しても問題ないでしょう」
「えぇ……」
レインは頭を抱える。おおかた自分がその立場になったときの事を考えてしまったのだろう。
「さぁ、行きますよ。赤のスフィアを渡すために……」
スグリさんはその様子を見て、クスクスと笑いながら私たちを先へと促した。赤のスフィア……一体何の効果があるのかはわからないが、獲得するためには恐らくスグリさんかライルさんと戦うことになるだろう。
私は気合いを入れ、三人の後を追った。
「よく来たわね、霊王ハレティ、殺人鬼レイン、そして……勇者スクーレ」
真っ暗な部屋に響く声。それと同時にボッボッボッと音を立てながら炎の明かりが灯っていく。暗いのに相当な広さがあると感じられる部屋。何もしていないのに押し潰されそうなオーラを感じられる。そう、ここは魔王城で最も強い者がいる部屋……魔王の部屋である。
そんな何とも言えない雰囲気を緊張感の無い声でぶち壊す者がいた。
「はい、来ましたよ~♪」
「相変わらずね、ハレティ」
私はもちろん、部屋の主……魔王も呆れていた。
「ライルさん、赤のスフィアがここにあったんですか?」
私は無理矢理本題へと移ろうとした。
ハレティがいたら世間話ばかりするかもしれないと察したからだ。
「えぇ、確かにここにあるわ。整理してたら出てきたのよ。本来は別のところにあるものなんだけどね。訳あってこの魔王城で保管してるの」
「え?じゃあどこにあったんですか?」
ライルさんは少し溜めたあと、ゆっくりと口を開いた。
「カヒト……あなたなら知ってるはずよ、ハレティ」
「カヒトですか……またまた厄介なとこにあったんですねぇ」
ハレティは顎に手を当て、考えるそぶりをしながら呟いた。
カヒトといえば武闘派の悪魔が棲む場所。話を聞かず、口より拳で語ろうぜ!というような者たちがいるらしい。これといった観光スポットは無く、荒廃していると言った方が正しい。建物が無く、サバイバル生活のようだ。なお、女しかいないという噂がある。……と、本で読んだ。
「ぶっちゃけ、スグリが赤のスフィアを守ってたのよね」
「えぇ、ライル様」
「そうだったんですか?!」
これは初耳だ。……ということはスグリさんはカヒト出身のようだ。どうやって魔王城に連れてきたんだろう?拳で語り合ったのかな?
「そうよ。スグリってばカヒト最強だって言われててさ。だからスフィアを護る仕事を押し付けられてたみたいなの。初めて会ったとき、私は遠征中だったの。スグリは私の魔力に驚いちゃって……で、ついて来たのよ」
「お恥ずかしいです」
カヒトの人たちは魔法をあまり使わない。驚いたのは魔法使いの類に値するライルさんを見てのことだろう。
近距離のスグリさんにに対し、遠距離攻撃も可能なライルさんには敵わないと悟ったようだ。
と、ここでしびれを切らしたレインが本題に入った。
「なぁ、赤のスフィアのために戦うんだろー?誰と戦うんだ?」
「せっかちな人ね。そうねぇ……私とスグリ、二人ともと戦えって言ったらキツいでしょ?」
「魔王に勝てるわけないじゃねぇか」
言い出しっぺのレインは顔をしかめる。
「だからスグリと戦ってもらうわ」
「この人と?戦えるのか?!」
「これでもスグリは強いわよ?特に体術は飛び抜けてるのよ」
ライルさんは自慢気に言う。よほど信頼しているのだろう。
「でも飛んだり結界張ったり魔法を使えば楽勝じゃないの?」
「なら試してみますか?」
レインは半ばナメるようにスグリに喧嘩を売る。それをスグリさんは笑顔のまま返した。
「二人とも落ち着きなさいよ。とりあえず今日は明日のために体力を残しなさい。部屋は用意してあげるから。スグリ、よろしく」
「了解しました」
ライルさんは魔王城に泊まるように指示した。一人一部屋、霊体のハレティにさえ部屋を用意してもらっていた。
レインは廊下にいた悪魔たちと喧嘩になるといけないのでハレティの隣の部屋に泊まることになった。
ベッドの上に寝転がる私は不意にヘッジさんのことを思い出した。
____今、あの人はどうしているのだろうか。今、あの人はどこにいるのだろうか。
あの人のことだから大丈夫だろうという思いはあるが、やはり心配だ。
誰よりも仲が良いと言われているカリビアさんでさえ知らないという。
しかしカリビアさんにスフィアをかけて戦うことの代行を頼んでいたから無事なのは確定している。どうして姿を見せてくれないのかは不明だが、心配なのは心配だ。
「はぁ……こんなこと考えてられないわね……今は明日のことに集中しなきゃ」
私は深くため息をつき、静かに目を閉じた。
どうも、グラニュー糖*です!
ボス前には必ずと言っていいほど回復アイテムが置いてますよね。
では、また!




