リストの悪夢
第二十七話 夢
「物怪、物怪がいるぞ!」
「殺せ、殺せ!」
「ここから出ていけ!」
親友の面狐が住んでいた地域に戻ると、そこはオレが知っている場所ではなかった。城も無く、家も見たことがない石のようなもので作られたものばかりだった。
地面には鉄と木の柵らしきものが敷かれており、時々人間を乗せた大きな鉄の塊が大きな音を立てながら蹂躙していた。いや、蹂躙という言葉は正しくない。その柵の通りしか動けないようだったからだ。
人間たちはオレを見るなり石を投げつけたり、茶色い入れ物に入った、禁止されていたはずのタバコを投げつけたりした。
オレはついこの間までお前たちと同じ人間だったのに。どうしてこの人間というものは少しでも他人と違ったら差別したり敵対視したりして傷付け合うのだろうか。だから愚かなのだ。
オレは人々の罵声と攻撃をくぐり抜け、路地裏に飛び込んだ。そして落ちていた文字が沢山書かれた紙切れを拾い上げ、少しだけ読んだ。そこにはこう書かれていた。
『明治時代』、と。
オレは驚きのあまり声が出なかった。幕府は倒されてしまったのか。天皇が代わったのか、と。
アイツが言っていた「覚悟」というのはこの事だったのだろうか?それとも人間が攻撃してくるという事だったのだろうか?
どちらにせよオレにとっては過酷な試練だ。
所謂『ウラシマ効果』でオレの知っている者は皆あの世に行ってしまったらしい。それはとても孤独なものだった。
「見つけたぞ!」
「あっちだ!」
オレの方に武器を持つ人間が走ってきた。彼らの狙いはオレだ。どうして、どうしてそんな顔をして襲いかかってくるんだ?オレはお前らと同じ存在だったのに。やめてくれ、痛いじゃないか。
怒りではなく、悲しみがオレの心を覆っていく。誰か……助けてくれ。
「リスト!!」
突然、どこか幼いが若い男の声が聞こえた。路地裏の闇に紛れて手が伸びて、オレの腕を掴んでそのまま闇に引き込まれた瞬間、オレの視界は真っ黒に染まった。
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「……うーん……」
「リスト!」
うっすら目を開けると嬉しそうにオレの顔を覗くヘラの姿があった。
「よかった!急に苦しみ出して……悪夢を見てたみたいだから、飛び込んでこっちに引き戻したんだぞ?」
「夢に飛び込む……?」
「だって俺はインキュバスだから夢はホームグラウンドだ!」
「そうか……すまなかった。助かったよ」
オレは起き上がって礼をした。あの声はヘラのものだったようだ。
夢に飛び込んだということはオレの夢の事も知っているのだろう。人魔になってよく見る夢を。あの日の出来事を。
ヘラに尋ねようとしたが、彼はこちらをキラキラと輝く目をして見、そのまま楽しそうに話し始めた。
「ねぇ、明治時代ってどんなの?明治の前って確か江戸時代だったんだよな?本で読んだことあるんだ!ねー、教えてよー!」
「え、えっと……」
オレはヘラに気圧され、仕方なく江戸について話した。ヘラは飽きることなく真剣に聞いている。
しかしオレは話せば話すほど悲しくなっていった。だが後悔はない。こっちの世界が大好きだから。面狐がいない世界なんて無いに等しいから。だからこっちを選んだ。たとえ人間という自分を捨ててでも。オレはこの世界で生きていく。
どうも、グラニュー糖*です!
お茶は何派ですか?
というかおー○お茶を飲むと確定で腹痛になるのが悩みです。
では、また!




