死神の街の裏切り者
第十五話 クノリティアの秘密
「おっかしいなぁ……」
「?」
「誰もいないぞ」
白のスフィアがあると言われているクノリティアにある宿から出発して二時間、そろそろヘラが起きてくるだろう時間にレインは街を見渡して唸っていた。それもそのはず、情報収集のために出掛けたのに誰もいないからだ。
「みんなまだ寝てるんじゃない?」
「いや、死神はほとんど寝ないんだ」
「不眠症ね」
「そういう訳じゃないんだが……」
レインは呪われた方の太い剣を天に掲げた。すると、木々の向こうからゾロゾロと死神たちが出てきた。どういうこと?
「見てみろ。呪いが四方に飛んでるだろう?それに呪いを嫌う死神が気付いて……やってくる」
「ちなみに今かけた呪いって?」
「烈火の呪い。雪を溶かす」
「……あ、はい」
いつの間にか私たちは死神に囲まれていた。ざっと八人くらいだろう。こいつら全てヘッジさん以上、もしくは以下だと言うなら勝ち目はほぼ無いだろう。それに加え、ヘラまでいないのだから尚更だ。その死神たちに向かってレインは歩き出した。一体何をするのだろうか?
「いやぁ、みなさんどーもどーも。実はオレら、ヘッジのことを聞きたくてね。何か知ってるか?」
レインの質問に、死神たちは各々の口を開いた。
「ヘッジ?……あぁ、あいつの事か」
「あいつは愚か者だ」
「あいつは魔王軍を引き連れてきた」
「あろうことか弟を魔王の元へ連れていった。かわいそうに」
「あいつのせいでなかなか強い死神がどこかへ行ったって噂があるぞ」
「あいつは最近帰ってこないな」
「どうでもいいだろう」
あいつは、あいつは、あいつは……。みんなヘッジさんを『あいつ』呼ばわりしている。話を聞いていると、みんなに嫌われているようだ。
「そうか。ありがとうな。いい情報が手に入った」
「呪いは解くんだろうな?」
「もちろん」
レインはひらひらと手を振り、死神たちは解散した。いい情報というか悪口にしか聞こえなかったんだけど。
「一旦ヘラんとこ戻るか」
「そうね」
「あ、あの……」
「「ん?」」
宿へ戻ろうとした私たちをか細い声が引き留めた。さっきの死神のうちの一人だ。そういえばこの死神だけが悪口を言ってなかった気がする。私はその子供の死神に声をかけた。
「どうしたの?仲間のところに帰らないの?」
「……来て」
「わ、わっ!」
突然子供の死神に手を引かれ、どこかに連れていかれた。レインも慌てて後を追ってきた。彼に連れられたのは木造の家。他の石で作った家とは違った印象だ。
「ここ」
「何だ、ここ。ボロ屋じゃん」
「ここ、ヘッジの家」
「えぇ?!」
私が驚いて死神の方を向くと、彼は既にどこかへ行ってしまった。となると、ここを調べろというわけだ。
「鍵開いてんぞ」
「勝手に開けんな!」
そう言いながら入る私を見てレインはクスクスと笑っていた。我ながら恥ずかしい。
中はほとんど物が無かった。その代わり、食料と思われる何かの肉があった。なぜか吐き気を催すものだった。
「おいおい、お前がそれ見たら倒れるかと思って言わなかったのに」
「あ、あんた、よくこんなもの見て冷静でいられるわね」
「オレが殺人鬼だったの忘れてるだろ」
そうだ、レインは殺人鬼だった。彼はその罪を償うため……という建前でこの旅についてきているのだ。
「う……もっと嫌な気持ちになってきたわ」
「……はぁ。お前は地下行ってろ。オレは上にいる」
「地下なんかあるのね」
「地下の方が暖かいらしいぞ。土あるし」
「そういうことなのね」
私は初めて地下の部屋へ向かった。地下の部屋なんて見たことないから内心ワクワクしている。
一階よりさらに小さい敷地には額縁に入った写真が飾られていた。そこに写っていたのはヘッジさんと……。
「さっきの死神?!」
「お姉ちゃん、見たんだ」
「わ!?」
「オレのお兄ちゃん。背が高くてかっこいいでしょ?」
「う、うん」
驚いた。急に後ろに出てくるんだもん。死神ならありえるかと心の中で納得してしまった。それにしてもこの子のお兄ちゃんがヘッジさんということは……この子が二年前、姿を消したムジナという悪魔?
「オレはね、お兄ちゃんと白い珠を護ってるんだ。でも今は出来ないんだ。だってこんな体なんだもん」
そう言って私の方へ手を伸ばすムジナ。しかしその手は私に触れることなく、すり抜けてしまった。
「え?え?!」
「ここには肉体は存在してない。魂だけの存在なんだ。だから話せるけど触れない」
とても悲しそうに呟くムジナ。そんな時、二階からレインの声が聞こえた。ムジナの魂と共に向かうと、本を持ったレインが私に向かってそれを差し出した。
「何これ」
「読んでみな」
「……『今日はお兄ちゃんが早く帰ってきた。昼間はヘラが遊びに来たし、とても嬉しい一日だった。』……ってヘラ?!」
はっとして顔を上げた私に向けられた慎重な顔。それはこの日記を書いたムジナのものだった。
「そうだよ。君らと旅してるヘラのこと」
「うおっ?!こんなとこにさっきの死神が?!」
「オレはムジナだよ」
「ムジナだと?!死神じゃなくて魂だけだったのか?」
「ううん。今こんな姿なだけ。まぁ、戻れないんだけどね」
ちょっと困ったような表情をするムジナ。
「……ヘッジがいない今聞くが……」
「いいよ」
「……カリビアって何者なんだ?」
いきなり何を聞き出すのかと思いきや、とんでもない質問だった。
「カリビアさんは……お兄ちゃんの師匠だよ」
「「師匠?」」
「時期は魔王軍全滅の時。オレたちが幽霊に追われてたときに助けてもらって……それからだよ」
ここでも出た『魔王軍』という言葉。そのとき、どれだけ私たちはいろんな問題に首を突っ込まないといけないのだろうと考えた。
「ありがとう、参考になったぞ」
「珠……いや、スフィア集め、頑張ってね」
「えぇ」
「あと……たまにハレティが見に来てくれるんだけど、最近見かけないんだ。何かあったの?」
「えっと……」
とても瀕死状態だとは言えない。きっとムジナだって憎んでるはずだ。瀕死ならいつでも倒せるという状況なのに、霊界に閉じ込められてるということが、いつナニカが切れてもおかしくないという心配を掻き立てる。
では、何と言えばいいのか?
「……天界」
「え?」
レインが何かを呟いた。しかしそれは聞いてはならない気がした。
「ハレティはきっと天界にいる」
「!!」
突然、ムジナの表情が変わった。そして彼は少し黙ったあと、私たちを麓へ帰した。
彼が帰そうとしたとき、彼の日記が雪の上に落ちた。そこには所々見えないページがあり、
『今日、ヘラがやって来た。 でも血まみれだった。ヘラの姿を見て固まるオレにヘラは笑顔で言ってきた。「俺ね、今日、 を したん よ。すごいでしょ?でもね、 は『私はあな を むわ。私は だから、いつか 活したとき、あなたを すわ』って言ってきて、ちょっと っくりしたよ」って。だからしばらく ばないようにした。オレは ラが怖かったのかもしれないから。』
と書かれていた。私はムジナが混乱している隙にその日記を拾って持って帰った。
どうも、グラニュー糖*です!
最近調子が悪いんです……。
電車反対乗るし、いろいろあるし……。
なんか憑いてんのかな?
では、また!