危険な雪山
第十二話 死神の街
仲間の姿をした敵に対抗するため、私は名前の由来でもある斧を、ヘラは刃がギザギザの大剣を取り出し、駆け出した。
「とにかくあの仮面を壊すのみ!」
「あっ、ごめん……ファイア放ったとこ」
「……」
ヘラが指示する前に私は炎系の魔法を放ってしまった。炎に包まれるレイン。氷に炎をぶつけると溶ける……そんな思考は甘かった。
「溶けないじゃない!」
「ここは死神の『永遠の力』が働いている。生き物には効果は無いけど無機物には効果があるんだ」
「え?でもモンスターは生き物でしょ?」
「あのモンスターは有機物と無機物、自在に変えることができる。あの仮面が本体ならば、今は無機物というわけだ」
「じゃああのレインは?」
「傀儡か何かだろ」
「アバウトね……」
二人が話していると水色の触手が飛んできた。ヘラが一瞬逃げ遅れ、腕に触手が触れた。急いで斬り落とすと、そこが凍っていた。
「なるほどな」
「どうしたの?」
「あれに触れると凍ってしまう。しかも力が吸い取られるようだ。恐らくレインは全身の魔力を吸い取られるか何かしたんだろう」
「……どこかにレインがいる……のよね?」
私は周囲を見渡した。
「いるはずだ。あと一つだけ聞いてほしい」
「?」
ヘラが後ろを向いて話す。私は頷き、駆け出した。
「レイン!こっち来い!」
『……ウラァ!』
「よし……!」
ヘラがレインを引き付け、私はレインを見失った分かれ道の方まで走った。
ヘラの作戦はこうだ。
先程の分かれ道の横に矢印が書かれていた。裏向きにするとお札の効果があるものが稀にある。見分けは簡単につく。四辺に赤い点があるかどうかだ。
私は言われた通りに裏返しにし、赤い点が光ったのを確認した。すぐに周囲が輝き、消えた。永遠の力が消えたのだ。
「やった!」
「できたか?!今行くぞ!」
モンスターを引き連れて駆けてくるヘラ。私は斧を構え、ヘラと共に斬りつけた。真っ二つに割れる仮面。仮面が外れたことにより、魔法でレインを形作っていたものが溶けていった。やはりあの氷だった。一息つくヘラの腕の氷もみるみるうちに溶けていった。
私はヘラの元へ駆け寄った。
「ヘラ!」
「さぁ、レインを探そう」
「う、うん」
「ん?どうしたんだ?」
「何でもないわよ」
「?」
「……バカ」
私はせかせかと早足で歩き出した。
ヘラは怪訝な顔をしてついてくる。
もう知らないんだから。
しばらくすると、水溜まりの中央にレインが倒れていた。氷に閉じ込められていたのだろう。魔法が解けたことにより、氷も溶けたようだ。
ヘラはレインの方へ向かい、しゃがみこんで話しかけた。
「レイン、起きろ」
「ん、んー……」
「そんなとこで寝てないで行くぞ。……もうすぐクノリティアだ」
「え、もうそんなとこに?!……って、オレってば何をしてたんだろ」
「どうでもいいだろ?」
「へいへーい」
レインは気だるそうに立ち上がった。首に巻いているマフラーはびしょびしょになっており、彼も気になるのか絞っていた。
でもどうしてもうすぐ着くとかわかったんだろう?
「忘れたのか?俺はクノリティアに何度も行っている。あんな敵は前までいなかったから時間がかかっただけだ」
「そうだったわね」
「なに不機嫌になってんだよ。俺はそういうのを解決するスキルは持っていない」
「持ってなくてもいいわ。さっさとスフィアを貰いに行くわよ」
「……チッ、頼りたくはないが、ハレティがいてくれれば……」
私が先に、次にヘラ、後ろにレインという感じに歩き出した。
(これはヤバそうな空気だな……)
それからヘラはもちろん、レインとも会話をしなかった。
そしてキスタナ洞窟を抜け、ほぼ吹雪に近い雪が降っているクノリティアに到着した。別名、死神の街。ここに三つ目のスフィアがあるらしい。ハレティが霊界に戻る前日に残してくれたメモには地図が書かれており、その通りに行くと神殿があった。
「こんなところに神殿があるんだな」
レインは雪を丸く固めながら話しかけてきた。その顔には「話しかけていいんだよな?」という不安が表れていた。もちろんダメだけど。
神殿に入ると、そこには見覚えのある姿があった。
「カリビアさん!」
「やっと来たな。おや、ヘラくんも一緒か。初めての人もいるようだけど」
「……こんにちは」
「は、初めまして」
レインの表情は硬かった。しかも身構えている。
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__何だ、こいつ……スクーレはともかく、ヘラまで親しげに……こいつの中の力に気付いていないのか?とんでもない化け物みたいな力を感じるのに……。
オレはカリビアを見た。ずっとニコニコしている。逆に少しだけ恐怖を覚えた。
「君たちはスフィアの力を貰いにここまで来た。バノンと同じように……。そうだな?」
「えぇ。いいですか?」
「……じゃあオレと戦おう。それが決まりだからな。全力、それが戦士の礼儀だ」
「わかりました!」
__まずい。こんな奴と戦うことになるなんて。しかも全力で戦うだと?殺す気か。しかしこの魔界にこんな力を持つ奴がいるとは思わなかった。ラスボス級じゃないか。いろんな奴と戦ってきたオレでも足が竦んでいるのに。
スクーレとヘラを見ると相変わらず喧嘩している。作戦を組まないと倒せそうにない相手なのにどうするのか。仕方ない、オレが何とかするしかない。
オレは剣を抜き、身構えた。……はずだった。
「なっ……」
カランと音を立てて手から滑り落ちた二本の剣。手が痺れて剣を拾うことができない。圧倒的な力の差に怯む。カリビアと呼ばれた男に勝つことはほぼ不可能だと悟った。強い者ほど常に笑顔だと言われる。まさにそうだと思った。
「どうしたんだ?来ないのか?」
カリビアは槍をこちらに向けて挑発していた。さっきまで剣を持っていたのに。
一人じゃ無理だ。しかしまだ二人は喧嘩している。たまに攻撃を仕掛けているが、どう見てもバラバラだ。
「本当はヘッジの仕事だが……代役を頼まれてね。生憎オレの方が強いぞ」
そういえばヘッジはどこに行ってしまったんだろう。代役を頼むということはこの近くにいたのか。
「さぁ、手加減は無しだ。この元魔王直属兵第三班副隊長に勝てるかな?」
冷たく笑うカリビアの姿はさっきとうって変わって騎士の姿になっていた。
どうも、グラニュー糖*です!
まさかカリビアを出してくるなんて……。
しかもくっそ強いなんて……!
今、四期でもカリビア書いてるんでタイムリーですね!
では、また!