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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悠久の羅針儀

孤独の棲む場所

短編『運命の女神』アルベルト視点のお話です。

『コンサ・モンテディオルに女神が住み着いた。』


彼女にガイドを受けた者の評価は真っ二つに分かれる。

曰く、愛想も可愛いげもない性格で、外見だけは整った"お人形"。

曰く、情熱を持って職務に励み、深い知識と戦う勇気を兼ね備えた"烈女"。

一部女性を称するとしては問題ある表現を含むが、前出の評価は特に若い男性から挙がっているということから推察するに、ある種の期待を込めて近付いたところ相手にもされなかったというところか。

多少気性が荒くとも、自身や仲間を守れる程に腕が立ち、秘境や魔境と呼ばれる場所に対する知識が豊富であればお人形だろうが烈女だろうが構わない。

…この時は単純にそう思っていた。


「アルベルト様、また調査に出掛けられるのですって?」

煩わしいと思いながら、人脈作りのために参加した夜会で豪奢なドレスを纏ったご令嬢に話しかけられる。彼の場合、かつて軍に所属していた経歴から除隊した現在でも一定の恩給を得ているが、それはあくまでも最低限の暮らしが保障される程度の額。

そのため新たに調査に出るためには援助してくれる者の存在が必要不可欠であった。彼女はそんな有力な支援者のうち一人の娘。溺愛されて育ったが故に周りの人間は全て自分の思い通りに動くと思っているところがある。

無難にやり過ごそう、そう判断して一歩足を引き恭しく頭を下げた。

「これはこれは、キャサリン様。本日はいつもに増してお美しい。」

差し出される手の甲に軽く唇を寄せると、彼女は嬉しそうに微笑む。

「ふふ、魔弾の射手と呼ばれるアルベルト様にお逢い出来ると思って精一杯おめかしして参りましたの。最新のデザインですわ。如何?」

その場でふわりと一回りして見せる彼女から香水の甘い香りが漂う。

「まるで花の妖精のようですよ。貴女の美しさに周りの男性は釘付けだ。」

「感想はそれだけですの?貴方のために装って参りましたのに残念ですわ。」

まるで誘いをかけているような言葉に思わず目を見張る。

彼女は自身の立場に気付いていないのか。

アルベルトは彼女から見えないように小さくため息をつく。

心配した父親が釘を指して回っていて、すでに周知のことであるのに。

「ああ、そういえば伯爵家のご子息に望まれてご婚約されるそうだとか。両家とも、このご縁により一層繁栄されることでしょう。心よりお祝い申し上げます」

再び相手を敬う礼の姿勢をとる。

アルベルトが婚約のことを知っているとは思わなかったのだろう。

途端に不愉快そうな表情になり彼を軽く睨む。

「まあ、何て冷たい方かしら!…お気付きでしょう?私が本当は貴方を」

「キャサリン、どうした?」

「…お父様。」

礼の姿勢を崩すことなく面を下げたままのアルベルトの横にキャサリン嬢の父であるカルヴァン氏が立つ。真っ直ぐにキャサリン嬢を見て軽く視線をやり家族のいる方角を示す。

「あちらへ行っていなさい。私は彼に話があるから。」

不満そうな表情を崩さず、家族の待つ方角へと向かう娘の背中を見送ってからカルヴァン氏は小さくため息をついた。

姿勢を戻し、何事もなかったかのように普段通りの笑みを浮かべるアルベルトを見てここまでの詳細を何となく察したらしい。

「すまんな。分別のない振る舞いをして。」

「とんでもない。急にご婚約が決まって戸惑っていらっしゃるだけのことでしょう。」

続けて祝福の言葉を述べるアルベルトに対しカルヴァン氏は満足そうな笑みを浮かべて頷く。

今回の婚約は両家にとって政治的な思惑の方が大きい。

上流階級ではよくあることだが、お相手の家は資金を、カルヴァン氏は家名と人脈を望んだ。


「そういえばいつ次の調査へ出かけるのかね?」

「別の調査依頼を受けているので、それを終えて準備が整い次第、再び挑戦します。」

「目指すは『悠久の羅針儀』か。」

「はい。今回調査へ向かう地に経験豊富なガイドがいるそうなので、使えそうな者であればスカウトしてこようかと。」

「ほう。次の調査の場所とはどこなんだい?」

「コンサ・モンテディオルです。」

「神の住み処と呼ばれる場所だな。なんでも"女神″と呼ばれる女性がいるらしい。」

「意外ですね…カルヴァン様がご存じとは。」

「たまたまな。親しく付き合いのある商人の娘がその場所でガイドをしている。以前商談の際に家族の話題が出てな、商いの場では如才なく振る舞える人なのに、何故か自身の娘の扱いには困っておるようだったから覚えていたんだ。」

「娘の扱い、ですか?」

「なんでも運命の女神に『孤独』という道すじを授けられた問題児なんだそうだ。道すじのとおり、友人や家族を捨て、ある日突然姿をくらましたらしい。噂によると、どうやら僻地専門のガイドとして生計を立て、今ではその場所を拠点としてガイドをしている、と。しかし各地を転々としながら気ままに暮らしているなんて、家族の苦労も知らず呑気なもんだ。」

運命の女神の祝福。

それは"道すじ"という呼び名を借りて授けられると聞く。

選ばれる言葉は最も多いもので『健康』、ついで『平穏』、『名声』、『幸運』と続く。

実際のところ『幸福』という道すじを授かっても、不幸を嘆く人間はいるのだから所謂占い程度のものだろうが、この国は庶民にまで女神に対する信仰が深く根付き、与えられた祝福を人生の指針と信じて疑わない者は多い。


それにしても珍しい。

アルベルトは話を聞きながら思った。

不幸を感じさせるような道すじを授けられた例は殆ど聞いたことがない。

一度調査の過程で、神殿まで話を聞きに行った時、話の流れから不幸な祝福について解釈を聞いてみたことはある。

神官曰くそのような場合は、幸多き人生の戒めとして試練を与えられたという解釈になるらしい。

とはいえその経験豊富な神官ですら今までそういう不幸を予感させる祝福を授かる瞬間に立ち会ったことはない、と言っていたが。

夜会の後、彼女の人柄や仕事ぶりについて調査を依頼していた情報屋から詳細な報告を受けた。

念のためと生い立ちと今までの生活についても調べてもらっている。

聞けば複雑な家庭環境にあったらしい彼女は、家族と離れた後も、カルヴァン氏の言うように呑気になどは暮らしてはいなかったらしい。

「なんでも幼い頃から笑顔の少ない気難しい子だったそうだ。それでも我が子だからと両親も周囲の人間もそれなりに可愛がっていたようだな。ところが跡継ぎとなる男の子が生まれた途端、両親も使用人達も愛くるしい弟の方を積極的に可愛がるようになる。その結果、家で完全に孤立した彼女は、成人すると同時に行き先も告げず姿を消したそうだよ。いなくなった後に部屋を確認したら、書き置きどころか本当に存在したのか疑わしいほど何も残っていなかったらしい。」

当時、驚くほど完全に消息を消した手際の良さから、随分と前から家を出ていくことを計画していたのだろうと両親も周りも思ったという。

そして成人後の娘の行動だからと放置することにした。

多少世界を見て、現実を知れば戻ってくるだろうと。


だが、予想に反し、彼女は戻ってこなかった。

以降、一度も実家に姿を見せていないらしい。

アルベルトには彼女の行動が理解できる気がした。

居場所がないと感じるほど孤立していたのなら、私物なども、たいして与えられていなかったのだろう。

それならば家族に知られぬよう立ち去った後、部屋に何も残っていなかったことも納得がいく。

持っていなかったのではなく、与えられていなかったのだ。

そんな単純なことにも気づかない家族との暮らしは想定よりも遥かに精神を磨耗させる。


孤独というものは他者の意識が自分を通りすぎていくほど深まるもの。


それが家族から与えられたものであれば尚更傷は深いだろう。

もたらされる苦痛の一つ一つは小さくとも、積み重なり、終わりなく続く。

ではどうしたらそんな苦痛から逃げられるのか。

家族の存在をなかったことにすればいい。

自らの手で自身の存在を消すことは、彼女が『孤独』という運命を受け入れ、歩き始めるために必要な通過儀礼だったというわけだ。

「彼女にも、そう考えるだけの愛情は残っていたんだな。」

「ん?」

「いや何でもない。続けてくれ。」

「とにかくそこまで覚悟を決めたのなら好きにさせてやろうと両親は彼女を放っておいた。そしてこのまま何事もなければ彼女のことは友人や家族の記憶からも薄れていっただろうがな。」

彼女がいなくなって間もなく、跡継ぎとなる息子が病にかかった。

息子は運命の女神の道すじにより『繁栄』の祝福を受けているのにも関わらず、だ。

ベッドで寝たり起きたりを繰り返す息子はやがて思い悩むようになり殆ど笑わなくなった。

…突然いなくなった彼の姉のように。

その変貌ぶりを見て親しくしていた友人達も徐々に距離を置くようになる。

そして可愛がっていた使用人達もだんだん気味悪がって、世話を言いつけられた時にしか近付かなくなっていった。

「病を癒そうと両親は手を尽くしたらしい。その過程でふと思い出した。意図せずとも、疎み、虐げていた自身の娘のことを。」

調べたところ、僻地専門のガイドとして徐々に名が知られてきた娘が、現在はコンサ・モンテディオルに住み着いていることがわかった。

あそこは"神の住み処"と呼ばれる原住民にとって神聖な場所。

娘を蔑ろにしたことで、息子に神罰が下ったのかもしれない。

もしくは恨みに思った娘が呪いをかけたのかも。

とにかく両親は息子の健康を取り戻すためだけに娘を呼び戻すことに決めた。

「娘は嫌がって、ずいぶんと抵抗しているようだが、腕の立つ人間を使って無理矢理連れ戻そうとしているらしい。その腕の立つ人間も結構な人数が挑戦したそうだが、成す術もなく追い返されたそうだ。女一人、ガイドとしてやっていけるだけの力量はあるらしいな。だが…この状況だと、もしかするとお前にも声が掛かるかもしれないな。」

「まあ、掛けようとするだろうな。」

カルヴァン氏は彼女の両親と親しく付き合いがあると言っていた。

早速恩を売るために彼女の両親に連絡をとるだろう。

目端のきく人間とはそういうものだ。

思わず顔を顰める。

不愉快だ、と正直思った。

第一、彼女が何をしたというのか。

娘が寂しい思いをしないよう、気を配るでもなく放置していたのは両親の方であるというのに。

簡単に身元を調べた程度で『孤立していた』ことがわかるなど、周囲に隠す気すらなかったのだろう。

つまり女神の祝福を知る家族や周囲にとっては彼女が孤独である事は当たり前のことであり、道すじを違えてまで愛することができなかったのではないか。

ここまで縛られてしまうと、祝福ではなく呪いだな。

そう思ったところで、ふと気がつく。

いや、それとも。

「そう考えると本当に(・・・)神の祝福を受けているのは彼女の方、なのかも知れないな。」

「ん?何のことだ?」

「いや、神官もたまには正しいことをいうのかもと思っただけだ。」

気になったのは両親が息子の病を癒やすためだけに娘を探したということだ。

職を得て経済的にも自立した娘を、娘のためではなく、別の理由をつけて無理やり連れ戻そうとする。

彼女は家や両親のための道具ではないというのに。

そんな業の深い両親や周囲の思惑に沿って利用されては彼女が幸せになれたとは思えない。


だから試練を与え、自立を促した。

慈悲深さと残酷さの両面を併せ持つ運命の女神に相応しい祝福ともいえる。

女神の祝福が本当なら、やはり手を貸さないことが最善だ。


情報屋と別れたのち、出発の準備を進めながら予定を見直す。

時計を確認すれば、もう夜遅い時間だ。

カルヴァン氏が、自分と会った後に手紙を書いたとする。

それを読んだ両親が俺に会いにこちらへ向かうのは早くとも明日の昼。

到着は夕方になるだろう。

そして会ってしまえば連れ帰ると約束せざるを得ない。

そうでなければカルヴァン氏の面子を潰すことになるからだ。

アルベルトはニヤリと笑う。


とすれば、会わなければいいだけのこと。

運良くカルヴァン氏には出発する時間を告げてはいない。

「…仮眠をとって明朝出発するか。」

さすがに商人でもある彼女の両親が、失礼を承知で明朝に押し掛けてくるとは思えないが、その時は居留守を使えばいい。

問題の先送りにしかならないが、そうしようと決めた。


ふと我に返って苦笑いする。

随分と彼女に肩入れしているようだな、俺は。

彼女を哀れに思う気持ちがないでもないがそれにも増して心を占めるのは別のこと。

所定の場所にいつも置いている手帳を取る。

祖父が死ぬ間際まで手放さなかった『悠久の羅針儀』に関する調査記録。

病にかかり動けなくなくなってからも思い付いたことを書き足していたという手帳は父から孫へと受け継がれ、さらに彼の手で厚みが増した。

アルベルトは何度も読み込んで覚えてしまった手帳のページを開く。

「『羅針儀への道は女神の祝福を受けたものが知る』、か。」

筆跡から見て父がどこからか調べてきたのだろうその言葉が気にかかる。彼女がそれに該当するかはわからない。だが、彼女が拒まぬなら調査へ連れて行こう、そう決めて手帳を鞄にしまった。

…そういえば情報屋から容姿や特徴について聞くのを忘れていたな。

女神と呼ばれるのだ、女性なのは間違いない。

それに腕も立ち、美しい…戦乙女ということか?

以前遺跡の発掘現場で目にした原住民から"戦乙女"と呼ばれていた壁画の女性像を思い出す。

あれは美しいと言うよりは勇ましい立ち姿だったな。

鍛えられた二の腕や屈み込むようにして獲物を狙う仕草が随分と歳を重ねた女性のように見えた。

きっと彼女もそのような屈強な体格をした女戦士に違いない。

そう思いつつ眠りについた。


翌朝。

朝日が射し込み、街並みを鮮やかな色合いへと塗り替える。

それを眺めながら街道を歩くアルベルトの脇を一台の馬車が慌ただしく通り過ぎていった。

自身が角を曲がったところで、さり気なく様子を伺うと馬車は彼の自宅がある建物の前に急停車する。

そして転がるように飛び出してくる夫婦の姿を見て一つため息をついた。

「危なかったな…。」

彼らが予想よりも早く到着出来たのはきっとカルヴァン氏の後押しがあったからだろう。

恐らく夜会でアルベルトの行き先がコンサ・モンテディオルであることを知ってすぐ、この夫婦へと知らせるために配下の者を走らせたに違いない。

…これだから商人は抜け目なくて困る。

とはいえ、ここで早めに家を出ておいたのが功を奏したのか、この後は特に何の横槍も接触を図られることもなく順調に日程を消化し目的地へと到着した。


待ち合わせ場所はコンサ・モンテディオルへ立ち入る者にとって入り口に当たる場所。

朝早い時間でもあったせいでうっすらと霧が出ている。

霧の奥に人の気配を感じて、少し離れた場所から声をかける。

「貴女がアイシャさん?」

霧が晴れ、相手の姿を確認した。

そして思わず息をのむ。

圧倒的な美に彩られた女性は同じ人間とは思えぬ程に完成されていた。


白銀の髪に、青い瞳。

野生生物を思わせるしなやかな肢体、左右対称にして整った面立ちは優美で品がある。

そしてこちらを静かに見つめる眼差しの底には知性と底知れぬ情熱が満ちていた。


まさに女神そのもの。


心拍数が上昇し、自身の顔に赤みが差すのがわかった。互いに無言のまま暫し時が過ぎる。

しまった、不審に思われたか?

自己紹介をすると、女性は簡単に挨拶を返しただけで、そのまま秘境の奥へ分け入ろうとする。

ちょっと待て、予想していた百戦錬磨の戦乙女は屈強な女性のはず。

彼女は誰だ?

「ええと、アイシャさんは?」

「…私ですが。」

口調を変えることもなく彼女はそう返してきた。

まさか本人とは。

そこで、はたと気がつく。

それもそうだろう。

こんな秘境に場所に女性が何人もいるわけはない。

あまりにも衝撃を受けてそんな単純なことにも気付かなかったらしい。

彼女の瞳の奥が若干曇ったような気もしたが、それは一瞬のこと。

こちらの意向を確認した後は、淡々と予定にそって各所を案内してくれる。

およそ半日の同行だけでも彼女が優秀なガイドであることが理解できた。

的確な解説と作業中も周囲の警戒を怠らない用心深さ。

そしてある程度教えれば各種調査機器を自分に代わって扱える器用さを持ち合わせながら、こちらの要望にも臨機応変に対応できる思考の柔軟性もある。

…さらに料理が上手い。


よし、絶対に連れて帰ろう。

彼女が用意した軽食を口にしながら心に決めた。


「十日後に迎えに行くと言ってはみたが…本当に待ってくれるだろうか。」

彼女がその気になれば、明くる日には彼の手の届かぬ場所まで逃げおおせることも可能だ。

彼だって最寄りの町まで辿り着けば、そこから約束の場所まで一日で戻る算段は出来ている。

だが、戻ったときに彼女が待っているという保証はない。

「我ながらここまで彼女に固執するとは。」

初めは容姿の美しさに魅了された。その事は否定しない。

だが、彼女はガイドとしての能力も一流だった。

そして狼との戦闘で見せた戦闘能力。

女性としては腕が立つというだけではなく、軍に属した事のある彼から見ても、鍛えれば充分戦場で通用するレベルだ。

そして。


…たぶん彼女は人を殺めたことがある。


狼との戦闘で鼻先へ切っ先を突き付けたその気迫は戦いに慣れただけのものとは違う。

無駄に戦闘を好むタイプとは思えなかったから、恐らく手を下したのはやむを得ずなのだろうが、その経験を持つことは彼にとって正直ありがたかった。

"悠久の羅針儀"を狙う者は多い。

自身が最もゴールに近いと言われているが、その分要らぬ厄介事に巻き込まれる率も高い。

彼自身、火の粉が人の手を借りて降りかかってくるのを黙って受け止める性分ではなかったから、戦闘となったときに自分の身を守れる助手を求めるのはそのため。

彼の口許が自然と緩む。

彼女が気迫で狼を退けて見せたとき自分も思わず跪いてしまいそうになったことを思い出す。

そして彼が甘い言葉で誘ったときも、流されることなく逆に彼の覚悟を問うた。

魔弾の射手と呼ばれ戦場では数多の敵を跪かせた自分がまさか一人の女性の前に屈することになるとは。


あの気高さは誰も侵せぬ。

女神と呼ばれるに相応しい気質。

そして運命の女神は自身に親しい存在を愛するという。

「間違いない。彼女こそ運命の女神の祝福を受けている。ならば悠久の羅針儀は彼女の指し示す場所が鍵となるはずだ。」

思い悩んでいても仕方がない。今は先ず最寄りの町まで辿り着く事が最優先。

予定通りなら、そろそろ彼らが自分を迎えにくるはず。

コンサ・モンテディオルの豊かな自然はすでに夕闇に飲まれ姿は見えない。

その闇の奥に、自身が求めてやまぬ光があった。


「待っていろよ、アイシャ。必ず迎えに行くから。」


孤独など憂う間もないくらい、波乱に満ちた日々が過ごせることを約束しよう。

だから再び会う、その時は。

女神に愛された貴女の笑顔を見せて欲しい。







2/8加筆修正しました。

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