CROWN:01 大松東高校
もっと早く作品を書き上げたいのに筆の進みが遅い……
「それで神楽坂。そろそろ部員は集まったかね?」
関東にある県立大松東高校。授業開始前の教室の一角で眼鏡を掛けた茶髪の男子生徒が、後輩である黒髪の女子生徒・神楽坂李緒に苛立ちを交えながら話しかける。
「これからですよ先輩。私は自分で選んだメンバーで全国に行きますよ」
李緒は踏ん反り返って自信満々に答える。だが、
「そう言って僕らの逃追部の誘いを断って3週間!まだ部員が5人しか集まってないじゃないか!!大会に参加するには最低7人必要だということを忘れるなよ!去年の全中ベスト8だからって忘れてる訳じゃないだろうな!?」
「西門、その辺にしとけって。あまり下級生に圧をかけるな」
眼鏡の男子生徒・西門と一緒にいた生徒、東海林宗太が西門を諌める。
「東海林!お前こそ、こいつの部に転部するとはどういうことだ!」
「李緒とは幼馴染だから、中学の時に誘われてたんだ。悪い」
「だからといって!うちの支えだったお前が勝手に転部するとか」
「先輩、正直に言ってもいいですか?」
東海林に怒りをぶつけていた西門に、李緒が割り込む。
「何だ神楽坂?」
「逃追部って名前、ダサくないですか?」
「お前初代部長が考えた名前になんてことを言う!?」
李緒の指摘に、西門がキレた。だが隣にいた東海林も含め、逃追部の部員の半数は同じことを思っていた。
「大体お前が作る部の名称は何だ!?言ってみろ!」
「シンプルに『CCC』ですけど?妙に凝るより覚えやすい方がいいでしょうから」
「こういうのはシンプルよりカッコよさだろ!」
「いや、別に名前にカッコよさを求めても何の良さもありませんから」
部活名にカッコよさを求める西門の意見を、李緒は欠片も同意せずバッサリ切り捨てた。
「おぉまぁえぇはぁぁぁ」
「西門、一旦落ち着け。……李緒、人数に関しては確かに深刻な問題だ。それに数合わせで適当に加えたメンバーじゃあ、地区予選すら突破できないぞ?アテはあるのか?」
怒りのオーラが見えそうなほど不機嫌になっていた西門の肩を掴み抑える東海林。同時に李緒に現在直面している問題について問い質す。
「問題ないさ宗太。一応一人は心当たりがある。昼休みにスカウトに行くつもりさ」
「実力は?」
「さあ?ただ、身体能力の高さだけは保証するよ」
李緒は自身に満ち溢れた表情で笑みを浮かべた。
「とはいえ、もう一人のメンバーをどうにかして見つけないと……」
昼休み、中庭にあるベンチに腰を下ろした状態で物思いに耽っていた。ちなみに何故こんな場所にいるかというと、件の人物が昼休みにこの中庭に入ってくるからだ。
「既に集めたメンバーも磨けば光る面子だけど、どうにも決め手に欠ける。逃走・追跡どちらでも実力を発揮できる人物が欲しい所だが……」
「なああんた、静かにしてくれないか?折角煩い教室から出て静かなこの中庭で読書をしているというのに、近くでブツブツ呟かれていると気が散る」
ふと隣のベンチから声を掛けられた。先日雨が降ったため、利用者は待ち伏せしている自分ぐらいだろうと思っていた李緒が視線を向けると、視線を本に向けている眼鏡の少年がいた。ベンチには屋根が付いていて、座る分には問題はなかった。
「おっとすまない。少々悩み事でね」
「静かにしてくれればそれでいい」
李緒は煩くしてしまったことに対して謝罪したが、少年は興味などなさそうにそれを流した。
ガラガラバタン!!
静寂だった空間に、上から窓を強引に開ける音が響き渡る。
「来たか!」
件の人物が来たことに李緒は反応した。狙いの人物は毎日昼休みになると廊下の窓を開き2階(もしくは3階)からこの中庭へと降り、購買へのショートカットを行う。それを目撃したのは2週間前、4人目のメンバーをスカウトし終えた時に南校舎と北校舎を繋ぐ3階の3階の渡り廊下を歩いている時だった。件の人物は3階の渡り廊下から持ち前の身体能力を駆使して購買へのショートカットを行ったのだ。それから李緒は、件の人物の名前を特定し、ほぼ確実に現れるこの場所で待ち伏せをしたのだ。
「……しゃあああ!!一番乗りはいただきい!」
その男、煤原駈は2階の窓から飛び出すと、身体に回転を加え中庭へと落下する。その姿には、着地失敗への恐怖など欠片も感じさせないほどの自信があった。
(というより、食欲に忠実なんだろうな)
駈が中庭を通る目的が、1日10個限定のスペシャルセットだということを李緒は既に特定していた(というより目撃した)。セットを入手した時の満足げな顔も見たから確定的だ。
李緒がベンチから立ち上がろうとした時、あることに気が付く。駈が着地するだろう場所は先程声を掛けてきた読書中の少年が座っているベンチの前。そこには大きいというわけではないが決して小さくはない水溜りがある。
つまりこのまま駈が着地すると、水溜りの水が飛び散ることになる。
「避けろ少年!」
李緒は咄嗟に叫ぶが、
ばしゃあああん!
落下してきた駈が水溜りに着地し一回転した。一方李緒は少年のほうに顔を向けていた。しかし、李緒が心配したような事態は起こっていなかった。少年は本を制服の内側に入れ、自身も水による被害をを被らないようにベンチの背もたれに手を掛け自分の体をベンチの裏に回避させた。
「危ないな。本に水が掛かるところだった」
少年は落ち着いた様子でそう呟き、懐から本を取り出し読書を再開する。一方、無事着地した駈はそのまま購買へ突っ走っていった。
李緒は事態が落ち着いたことを確認すると、読書を再開した少年に近付き、その肩を掴んだ。
「君、CROWN CHASEに興味ないかな?」