CROWN:00 プロローグ
なんとなく思い付いたものを書いてみました。
世界にフルダイブ型VRゲームが普及され、人々はVRMMOにのめり込んでいった。ジャンルは様々あるものの、仮想世界でアバターを自分の体のように動かせるVRゲームの人気は止まることを知らなかった。
しかし一方で、スポーツに念頭を置いている者等現実での活動を重視しVRに手を出さない者との溝が徐々に深まっていき、両者間でトラブルが発生するといった事態が増加していった。
そしてVRが世に定着して10年が経ち、フルダイブ型VRから新たなゲームが誕生した。
その名も、『CROWN CHASE』
VRにのめり込んでいく者とVRより現実に重点を置く者の溝が深まる中に誕生したこのゲームは、両者の利点を汲んだシステムを構築し両者の溝を埋めるきっかけとなった。
『CROWN CHASE』は子供の遊びである鬼ごっこをベースにしたルールで、様々なステージギミック・アイテムを駆使し逃走者と追跡者の間で発生する心理戦等が、プレイヤーの増加を促した。
その影響もあってか、全世界で発売されてから僅か1週間で1億本を突破。1年後にはフルダイブゲーム初の世界大会が開催された。
第1回大会から白熱し参加者は2000人を超え、第2回大会では優勝賞金が増額され、参加者も倍増した。
そして第3回大会、後に最強プレイヤーと称される追跡者と逃走者が現れた。
~~~第7回WorldCrownChaseChampionship・ラスベガス会場~~~
『さあ、第7回WCCC決勝!!ここアメリカで開幕した今大会もいよいよ大詰め!!市街地Eフィールドで世界最強の追跡者・《天眼の指揮官》アルバート・ホワイト率いるフェイルノートの10人が、残り1人となった世界最強の逃走者・《東洋の神風》ハヤト・キサラギ率いるファスト・スターを追いかける!!残り時間はあと1分!勝つのはフェイルノートか、それともファスト・スターか!!』
実況と共に、巨大モニターに残り一人となった逃走者を追いかける4人の追跡者が映し出される。その光景が観客の熱を更に高める。
「楽しいなアルバート!やっぱお前のチームすげえ強えよ!前回は捕まっちまったが、今回は逃げ切らせてもらうぜ!!」
「させるわけがないだろう。今回も俺達がお前を捕まえる。トーマス、アルフレッド。準備はできたか?」
『問題ない』
『こっちもOKだ、いつでもいいぜ♪』
「標的は約20秒で目標地点に入る。ヘンリー、クリフォード、ヒルダ、クラリッサは、ターゲットが別方向に向かった時の対処を。バックアップは俺とディラン、マイルズがする。確実に仕留める。奴は予想できない方法で逃走する。気を緩めるな」
『『『『了解』』』』
赤髪の青年・如月隼人を追い、銀髪の青年アルバートは通信機能を使い先回りしている仲間に指示を出す。万が一目的地から別方向へ向かっても捕らえられる様、予め残りの仲間を配備していた。そして、隼人は目標地点へと向かう道に入っていった。
「標的は予定通り目標地点へ向かった。包囲しろ」
別方向に配備していた仲間に作戦の進行を伝え、包囲するよう指示する。
「作戦開始!」
目標地点へ向かう隼人の前に、スキンヘッドの巨漢と身軽そうな金髪青年が立ち塞がる。「ここから先は」
「行かせない!!」
「やっぱり待ち伏せてたか!……だが!!」
隼人は大きくジャンプすると、空中で再び跳躍体勢を取る。
「スカイジャンプ!?だがさせん、うおおおおお!!」
スキンヘッドの巨漢は頭上を越えようとしてくるであろう隼人の行動を先読みして、自らの身体能力をブーストしジャンプした。だが、
「何!?」
隼人がジャンプしたのは上ではなく真横だった。
「フェイントする可能性は読んでいた!!そこからサイドホッパーだろ!」
残っていた金髪青年は跳んでくるであろう方向で隼人を待ち伏せる。
「当たりだ!!だが、もう一個足りなかったな!!」
隼人は壁から跳躍すると、直後に正面に跳んだ。
「スカイジャンプをもう一個だと!?」
待ち構えていた二人を置き去りにし、隼人はそのまま駆けていく。
『ハヤト・キサラギ、立ち塞がる敵を読み合いで制し軽やかにかわした!!しかしアルバート、その間に距離を縮めてきた!!』
「追いついたぞ!ハヤト・キサラギ!!」
「追いつかれると思ったよ、アルバート!!」
アルバートの手が、隼人に向かって伸びる。隼人はそれを手刀ではたき落とす。そして再びアルバートの手が掴もうとし、再び手刀ではたき落とす。
「バックランしながらで大丈夫か?コケたら終わりだぞ」
「心配すんな!こう見えても後ろ走りは得意だ!!あと20秒、このまま逃げ切ってやる!!」
『残り20秒、零距離で繰り広げられる凄まじい攻防!!アルバートの手をハヤト・キサラギは全てはたき落とす!!お互いに手札は尽き、他の追跡者も追いつけない!』
「後ろに気を付けなくていいのか?もしかしたらまた待ち伏せしているかも知れんぞ?」
「お前相手にそんな余裕あるか!!それに二重の待ち伏せする余裕を与えたつもりはねえ!」
「ブラフには乗らないか」
「ああ!!」
「だがそう時間も無いのでな、残念だが終わらせてもらう!!」
アルバートは両手を一旦引っ込め、身体能力をブーストして再び接近する。
「うおっ!?危ね……」
身体を仰け反らせ避ける隼人。しかし、
「ぐっ!?」
『何と!?アルバートの膝がハヤト・キサラギの顎にヒット!!なんというアクシデント!!』
「逃走側の防御行為・追跡側の故意ではない攻撃は有効だ」
アルバートの膝が、仰け反った隼人の顎を捉えた。隼人の体は後方に蹴飛ばされた。
「獲った!俺の勝ちだ!!」
アルバートが再び、蹴飛ばされた隼人のに向かい手を伸ばす。
「そうは問屋が卸さねえよ!!」
隼人は蹴飛ばされた勢いを利用して身体を回し、伸びてくる両手をすんでのところで回避する。
「まだだ!!まだ終わってはいない!!」
「上等だ!!行くぞアルバート!!」
ブーストしたアルバート相手に素直に逃げていてはすぐに捕まる。故に、隼人はアルバートに向かい駆け出した。
「ハヤトォォォォォ!!」
「アルバートォォォォォ!!」
伸びてくるアルバートの腕を、横に避けて回避する。アルバートは残った腕を伸ばそうとするが、隼人はアルバートの腕を掴んでアルバートの突進した方向に向け勢いを加速させた。
そして、試合終了のブザーがフィールドと会場に鳴り響いた。
『遂に決着!!40分間の激闘の末、見事勝利を掴んだのはチーム、ファスト・スター!これで3度目の優勝となりました!!』
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「っしゃあああああああああああああ!!」
会場内で歓声が上がると同時、フィールド内で隼人が腕を突き上げ雄叫びを上げた。
「くそっ、また負けた……」
「いい試合だったぜ、アルバート」
悔しがるアルバートに手を差し出す隼人。アルバートはそれに手を伸ばし、握手に応じる。
「ああ、いい試合だった……」
「へへっ」
握手に応じたアルバートに隼人は嬉しそうに笑う。しかしアルバートは、握手している手に思いきり力を入れた。
「だが次こそ勝つのは俺達だ。覚悟しておけ」
「痛だだだだ!!手が潰れる!!お願い、やめて!!マジで!!」
あまりの力に悲鳴を上げる隼人。暫くしてアルバートは力を緩めた。
「ふん。では、ログアウトするぞ」
「あ、ああ……」
そんなやり取りもあり、プレイヤー達は皆ログアウトした。
「優勝したファスト・スターには、賞金として100万$が与えられます!!では、リーダーであるハヤト・キサラギにインタビューを行います!!ハヤト・キサラギさん、優勝おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「勝利の要因は何ですか?」
「残り10分あたりの赤弥の足止めが、勝負を分けたんだと思います。あの足止めがなかったら、多分俺も捕まってました。」
「つまり仲間のお陰であると?」
「そうです。CROWN CHASEは団体戦です。1人でも戦うことはできますが、一人では勝つことはできません。仲間との連携が、命運を分けることもあります」
「成程……。優勝賞金の使い道は?」
「妻に何かプレゼントしようと思います。何を送るかはまだ決めてませんけど」
「え?キサラギさん、結婚してたんですか!?」
「ええ、2年前に」
「失礼ですが、キサラギさんお幾つですか?」
「23です」
「若っ!!そして結婚早!!」
「いやぁ照れるなあ」
「照れる要素ないと思いますけど!?……まあ、いいです。では最後に一言お願いします!!」
「俺は最高の仲間と最高のチームを作って、最高のライバルに恵まれた。これから出会う人達も、それぞれ最高の仲間がいると思う。そしたらそいつら皆集めて、勝負しようぜ!!」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
隼人が腕を突き上げ叫ぶと同時、会場から呼応するように絶叫が上がった。
「それでは、第7回WCCCこれにて閉幕!!皆さん、また次回お会いしましょう!!」
大熱狂を生んだ大会は、こうして終わりを迎えたのだった。