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その1

 これは6つ目よりも前のいつともしれぬ昔、7つ目よりも後のどこともつかぬ所のお話です。


 大きな森のほど近く、沼と小川に囲まれた小さな村がありました。その村のはずれ、西に森をのぞむ沼地の中に古いあばらやがありました。そのあばらやに、おばあさんと女の子が二人だけで暮らしていました。


 おばあさんは村の占い師でした。春が来るとおばあさんは村へ出向き、その年の天候を占い作付けについての助言をしました。村に災いが迫るとき、その卦を村長に知らせて何をなすべきかを告げました。村の占い師としてのそれらの占いを、おばあさんは一度も外したことがありませんでした。だから祭がくると村長はおばあさんを招き、その年の実りを分かちました。


 けれどもう長い間、おばあさんがおばあさんになるずうっと前から、おばあさんは決して誰かのことを占おうとはしませんでした。そのころのことを憶えている人は、おばあさん以外にはもういませんでした。かなり前からおばあさんは、村で一番の年寄りでしたから。それでも何人かの年寄りが、おばあさんがいったとされる言葉を語り継いでいました。たとえ人が占おうと、天候はそれで変わったりしない。でも誰かの運命を告げたなら、それはその人だけでなく、絡み合う人たちの運命も曲げてしまうだろうからと。


 このあばらやに移り住んだのはその頃だったという言い伝えもありましたが、それが本当かどうか、知っているのはおばあさんだけでした。おばあさんはずうっとそうして暮らしてきたのでした。そしてちょうど5年前、身寄りをなくした女の子を跡継ぎとして引き取ったのでした。

 おばあさんの見込みどおり、女の子には占いの才能がありました。最初の2年、おばあさんは女の子に占いの技を教えました。次の2年は作柄を二人で占いました。そして今年の占いを、おばあさんは女の子にまかせました。女の子が自分と同じ卦を出せるようになったこともありましたが、体が弱り伏せりがちになったからでもありました。


 女の子の助言に従ったため、今年の稔りも豊かでした。だから今年の祭の招きには、初めて女の子が応じることになりました。けれどおばあさんは、女の子にいいました。秋の日は短いから、急いで帰ってくるようにと。西の森の梢に日が沈まないうちに、戻らなければならないよと。

 女の子はうなづきました。女の子自身、村にあまり長居したくないと思っていましたから。身寄りをなくし家を出ないといけなかった悲しさに加え、なかなか引き取り手が出なかったことで、村にはあまりいい思い出がなかったのです。


 けれどもそんな思いとは裏腹に、村長や村の人たちは女の子をほめ称えてくれました。女の子はとまどいましたが、嬉しかったのも確かでした。ほんの5年前、役たたずの厄介もの扱いされていた自分を、みんなが誉めそやしてくれるのですから。かすかに浮いたような頼りなさも感じつつ、それでもその居心地の良さに女の子はなかなか腰を上げることができずにいました。


 そうする間も太陽は西へ西へと滑りゆき、空がしだいに暮色に染まり始めました。赤い夕日の縁がついに黒い梢に触れました。すると風が、どこからともなく吹いてきました。いつもの夕方の風よりも、なんだか冷たい風でした。女の子はなぜか怖くなり、村長たちに別れを告げました。

 今年の稔りを明日届けてもらうよう頼むのももどかしく、女の子は村はずれの沼地へと急ぎました。正面の太陽が沈むにつれ、背後から風が追いすがってきます。知らず女の子は走っていました。決して後ろを振り返りませんでした。風の中から何かが歩み出ようとするのを、占いで磨かれた霊感は感じていましたから。そして夕日の最後の欠片が森の影に没する寸前、あばらやの中へ駆け込んだのでした。


 ベッドに身を起こし心配していたおばあさんは、女の子の話を聞くといいました。おまえが同じ卦を出せるようになったから、こんな事も起きるかもしれないと案じていたのだよと。どういうこと? とたずねる女の子を抱き寄せると、おばあさんは話してあげようといいました。けれどこのことは決して誰にもいうてはならん、恐ろしいことになるやもしれぬからとおばあさんはいうのでした。女の子は声もなくただうなづきました。家の外を吹く風の中に、あの怪しい気配を感じていましたから。おばあさんはしばし目を閉じ耳を澄ませている様子でしたが、やがて低い声でゆっくりと話し始めたのでした。


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