白く世界で
灰色に染まった曇天の下、風に乗った純白が頬に溶け、つたう雫が反射する。
僕を閉じ込めた雫を指でなぞる君は、凍える僕に微笑みかける。
「だいじょうぶだよ」
何一つ根拠のないその言葉でも僅かばかりに安心を生み、優しいその声が心を温める。
白く白く続く大地は僕らを飲み込むばかりで、僕はひたすら凍っていくのに、いまだに暖かい君はそうやって僕を溶かそうとする。
「あなたまで凍ってしまったら、わたしは誰をあたためたらいいの?」
本当はもう僕も手遅れであることを察しているだろう君は、僕に縋るようにそんなことを言う。
僕だって、君だけをこの世界に残して凍るなんてことはしたくない。
でも僕も、君とは違って、君以外の誰かたちと同じ。
もうこの世界は、君だけを助けるために出来上がってしまったんだ。
世界は灰色に染まっている。
世界は白く白く塗られていく。
世界が望んだ君は白くなる世界を愛して、世界が拒んだ僕たちは灰色の世界を恨んだ。
世界は唯一愛してくれる君を望んで、僕たちを白の中に隠した。
君の記憶まで白くして、世界を愛していることだけを覚えさせた。




