第五回
顔ががくがくと揺れて目が回る。凄い力で頭をがしがしと撫でくり回されている。
「ひゃっ、あんっ、えと、ごうくん? なに?」
混乱する恵があえぎながら問うと、豪太はすぐに振り振り攻撃を停止した。
「なんとなくな。気にするな」
「変なの……びっくりした。髪ぐしゃぐしゃになっちゃった」
「悪かった」
豪太は短く謝罪した。詫びのつもりか、恵の髪を丁寧に梳き始める。今度は恵も嫌がらず、目を細めてされるにまかせる。
「こら、ふみねぇー、いい加減にしろーっ!」
あちらではついに深雪が怒りの咆哮を上げた。脇腹から脇の下へと侵蝕しようとしていた文音の指を振り払い、至近距離から渾身の蹴りをぶちかます。
くすぐられて笑いっ放しだったせいだろう、深雪の顔は真っ赤で、はぁはぁと息を切らせている。
「今日の山菜採りはおしまい、みんなさっさと家に帰る! 文音、あんたはちゃんと恵を送っていくのよ、いいわね!」
「お? おーう、おまかせー」
深雪の足裏を胸の真ん中に喰らって、仰向けに引っ繰り返っていた文音が、転がった格好のままひらひらと手を振ってみせる。
「そうだな、もう帰った方がいい」
豪太は恵を文音の方に押しやった。背中に与えられた力にこらえきれず、恵は前にたたらを踏んだ。
「お疲れ、剣士さん。修業の成果はどうだった? 魔物とか斬れるようになったか?」
文音は脳天気に笑い、服に付いた汚れをはたきながら立ち上がった。
「送るよ。みゆ様のご命令だからな」
「……いい。一人で帰れる。ふみねちゃんは、みゆきちゃんを送ってけば」
「えー、だってみゆんち逆方向だし。恵ならついでだろ」
「ついでなんかいらないもん!!」
つむじ風を起こしそうな勢いで、恵は文音から顔を背けた。ぎゅっと目をつむって走り出す、けれどたったの三歩目で。
「ありゃ」
「危なっ!」
「むっ」
文音、深雪、豪太が三者三様に反応した。
足をもつれさせた恵が、頭から地面へと滑り込んでいた。もしかして狙ってやったのかと思いたくなるぐらい、砂埃が盛大に舞い上がる。