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キミのタマはボクのモノ 巻の一  作者: しかも・かくの
第四章 空ろなる聖所と初めての戦いについて
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第四十二回

「恵!?」

 血相を変えた深雪に、恵は力なく笑いかける。

「へいき……じゃないかも。疲れちゃったみたい。うー、でもあんまり休んでたら帰るの遅くなっちゃうよね……」

 どうやら深刻な事態ではないらしい。深雪は胸を撫で下ろしたが、ゆっくしていられないのも事実だ。最低でも日が暮れる前に里に着いていなければ、大騒ぎになってしまうかもしれない。

「安心しろ、恵。お前は俺がしっかりとおぶって、ぐっ」

 深雪はしゃしゃり出てきた豪太の脇腹を突っついた。豪太は苦悶の呻きを押し殺す。

「豪太だって怪我してるんじゃないの。人の面倒見るよりまずは自分の身を大事にしてよね。ほら文音、あんたの出番っ」

「あ、いたたたた、やばい、さっき挫いたかも」

 文音はいきなりわざとらしく足を押さえた。だが恵が見るからにしゅんとしてしまうと、深雪が叱りつけるまでもなく立ち上がる。

「しょうがないよな。引っ張り回したのがばれちって、あとで恵の爺ちゃんに怒られても面倒だしさ」

 恵の前まで歩いて来ると、背中を向けて腰を屈める。

「ほら、恵」

「ふみねちゃん、いいの?」

 恵はどこか脅えたような調子で尋ねた。文音は振り向いて頷いた。

「がんばったからな。特別」

「えへへ……ありがと」

 文音の肩に指を掛けて、ゆっくりと身を預ける。よいせっ、と文音は立ち上がり、恵は文音の体の前に腕を回して落ちないようにしがみつく。

 文音は残念そうに息をついた。

「やっぱりな。全然おっぱいあたんないし」

 しかし恵は怒らない。そのまぶたは早くも落ちてきている。心がゆるりとほぐれ、体からさまよい出すかのようだった。時の流れさえも超えて。

 ――そうだ、前にもこんなことがあったんだ。

 今よりもずっとずっと小さな背中が、やはり今よりもずっとずっと小さい恵を乗せて、山の中を降りていく。世で最も尊い宝物を運ぶように、一歩ずつ足を前に出す。何度もよろめきながら、けれどついに最後まで離すことはない。

 それはきっと魔物を倒すことよりもはるかに凄いことだった。

 ――ふみねちゃんがいてくれれば、ぼくはどんなことだってできる……。

 恵の安らいだ顔がことりと文音の肩に落ちた。

 背中の革鞘に納められた剣が、刹那蒼くきらめく。


(巻の二に続く)

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