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キミのタマはボクのモノ 巻の一  作者: しかも・かくの
第一章 錆びた剣と四人の順列組合せについて
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第四回

 急に手が軽くなった。

 いや違う。

 手に掛かっていた重さが消えたのだ。

「まったくもう、またこんな変な物拾ったりして。錆だらけじゃないの。擦り剥いて傷口から毒でも入ったらどうするの」

 (めぐむ)の手から取り上げた剣を、深雪(みゆき)は地面にひょいと放り投げた。

 今度は深雪の手から離れなくなる、などということはなく。

 鈍い音を立てて草の上に落ちる。

「さ、帰ろ」

 深雪に袖を引かれながら、恵は横たわる剣に名残り惜しげな視線を向ける。

(我が主よ、我を置いていくのか)

 頭の中で、声が響いた。

(我をお忘れか? 主の忠実なるしもべ、伝説の〈(あお)(つるぎ)〉を?)

「恵? どうしたのよ、ぼうっとして。疲れちゃった?」

「へいき。なんでもない」

 恵はぶんぶんと首を振って子供じみた空想を追い払う。

 どうしてさっき手から離れなくなったのかは謎だが、こうして眺めてみれば、やはりただの錆びた剣でしかない。蒼い閃光を放ったりもしない。

 それでもありふれた品ではないらしかった。

「かなり古い物っぽいな。見た事ない型だ」

 大きな体を身軽に屈めて、豪太が剣を拾い上げる。

「恵、預からせてもらってもいいか? 少し調べてみたい」

 真面目腐った調子で尋ねる。恵は一瞬ためらったすえ、そっぽを向いた。

「好きにすればいいよ。別にぼく……わたしのじゃないし」

「そうか。ならば俺が持って帰ろう。何か分ったことがあればお前にも知らせるから」

「うん! ……う、ううん、わたしは別に、そんなの興味ないけど、ごうくんが話したいっていうなら、聞く」

 豪太が手にした剣を何度もチラ見しながら恵は答えた。

「……豪太は恵に甘いんだから」

 深雪はひそかに息をついた。

 森の中の道を抜け、膝くらいの高さの境石(さかいいし)を過ぎて里に入る。

 切株に腰を下ろして待っていた文音が、三人を見て跳ねるように立ち上がった。

「おかえり、遅かったな」

「あ、ふみねちゃん、ただい……」

「こらっ、ふみねーー!」

 耳の底を突き破りそうな怒声に、半端に口を開いたまま恵は思わず首を竦めた。

 豪太と並んで前を歩いていた深雪は、文音に向かって一人ずんずんと速度を上げる。

「あんた、なに恵のこと置いて一人で先に帰ってんのよ! もし恵に何かあったらどうするつもりよ、この役立たず!」

「あいたっ」

 ぺしりと頭を引っぱたかれ、文音は暴力反対というように両手を上げた。

「えー、だって恵が一人にしてほしそうだったからさ。邪魔したら悪いかなって」

「そういう時はね、少し離れた所から見守るの。いざって時にはすぐに駆けつけられるようにね。いい? 女の子を守るのが男の一番の役目なんだから。あんただって一応は男なんでしょ?」

「うーん、たぶんそうだと思うんだけど。みゆ、確かめてよ」

「な、何してんのよ、あんた!?」

「恥ずかしいけど、みゆになら見せてもいいかなって。そうだ、どうせなら見せっこしよう。ほら、みゆも脱いで」

「馬鹿、ヘンタイ、近寄るな、あっち行け!」

「いてえっ。ちょっと待って、本気で痛いから、蹴りは勘弁!」

「うるさい、地の底に沈め! このケダモノ!」

 文音は両腕で身を庇いながらしゃがみ込んだ。深雪は構わずがしがしと蹴りまくる。文音は情けない悲鳴を上げて、しかしそのわりに楽しそうだ。まさか痛いのが嬉しいわけでもないだろうけど。

「ふ、二人とも、喧嘩は駄目、だから」

 間に割って入るため、恵はじりじりと近付こうとする。

「隙あり、ていやっ」

「や? ちょっとやめ、やめてって、あははは」

 深雪の足を受け止めた文音が、逆襲とばかりにくすぐりにかかり、深雪は身をよじって笑い出した。

 まるで見えない壁に阻まれたように、恵の足が停止する。

「うー、もうっ」

 恵は下を向いてつま先でがしがしと地面を削り始める。そこに新たな剣が埋まっているわけもなく、せいぜい小石が出てくるぐらいだ。

「ふわっ?」

 恵は驚いて口を開けた。頭の上に大きくて温かい物がかぶさっていた。

「ふにゃあ~~っ!?」

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