第三十九回
「やった、の……?」
恵は呆然と呟いた。
その場をまばゆく照らし出した蒼の光は既に消え去り、辺りにはごく当り前の山中の景色が広がっている。
全身がひどく疲れていた。やたらに腕が重い。握ったままの剣をもう離してしまいたいのに、黒い玉を断ち切った時の余韻が掌にまだ生々しく残っているせいで、思うに任せない。
だがこれであの大ネズミを退治できたのだから──できたのだろうか。本当に!?
恵は逸って顔を上げた。
いない。
最前まで小山のごとき圧迫感を放っていた魔物の姿が、今は影も形も見えない。
恐る恐る首を左右に振り向ける。
倒れ込んでいた豪太が身を起こそうとしている。その動きはゆっくりだが着実で、不自然にどこかを庇っている様子もない。恵はひとまず胸を撫で下ろす。
洞窟の前では、口を手で覆った深雪が立ち尽くしていた。近くには大ネズミも他の危なそうな獣もいない。特に心配はいらなそうだ。
視線を前に戻す。少し離れた先で、文音が地面に腰を落としている。一瞬怪我でもしたのかと焦る。だが恵が見つめていることに気付くと、文音はいつものお気楽な笑みを浮かべた。
やったじゃん。
声は小さくて届かなかった。だが口の動きだけではっきりと分った。恵はためらいがちに頷いた。
「うん。やった」
自分の言葉が耳に入り、じんわりと心に沁みていく。
「……やったんだ、ぼく。魔物を倒した。みんなを、守れた」
ふいに熱いものが体の中を駆け上がった。つま先から頭の天辺までが喜びに満ちてぶるりと震える。
恵は剣を天へと掲げるように両腕を突き上げ、飛び跳ねた。
「いやったーー!!」
“チュ”
「え……あれ?」




