第三十八回
剣は易々と大ネズミの体を切り裂いていった。
いや、違う。
剣は何も切ってはいない。大ネズミなど最初から存在していなかったかのごとく、ただ地に引かれるままに落ちてゆく。
剣は今や恵の一部となり、いやむしろ恵こそが剣の一部となって、何物も遮ることなき真空をどこまでも流れる、かと見えたのも束の間。
かつん、と硬い手応えにぶつかって剣が止まった。
闇が凝縮したかのような黒い玉、その表面に剣先がめり込んでいる。
「ふんっ」
腹の底から力を出すようなつもりで、恵はさらに押し込んだ。どろりと重く粘る抵抗を押し退け、剣先がじわりと沈む。そしてついに膜を破り彼方に触れた。
「ひっ……ひゃうっ!?」
ぞくりとした。柄を握った手の先から体の熱がどんどん吸い取られていく。それとも逆に冷気が流れ込んでいるのか。
いずれにせよその先は黒玉へと通じている。悪しき根を断ち切るのが先か、それとも恵の気力と体力が尽きるのが早いか。
「勝負だ! いざ〈蒼の剣〉よ、我がいかずちの光となりて闇を開け!!」
(御意)
一面の蒼が世界を満たす。
剣の発した光が力となって恵を衝き動かし、恵の振るう剣がその発する光をさらに強める。
そして。
あたかも幼子がこねて作った泥団子であったかのごとく、黒玉はほろほろと崩れて消えた。




