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キミのタマはボクのモノ 巻の一  作者: しかも・かくの
第四章 空ろなる聖所と初めての戦いについて
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第三十六回

「ふみねちゃん!? ……え、何がどうなって」

 助かった、と安心するより前に、頭が今の状況に追い着かない。

 恵はともかくも体を起こすと、お尻で這いずるようにして後ろに下がった。

 大ネズミはチュウチュウと甲高く鳴き喚いている。ひどく苦しんでいる様子だが、ぱっと見た限りでは怪我もなくさっきまでと違いがあるようには──いや。

「……ひょっとして、縮んでる? うん、やっぱりそうだ。あいつ、小っちゃくなってる!」

 気のせいなどではなかった。未だネズミとしてはあり得ない大きさだが、外の皮を幾枚も取り去ったかのように胴体がしぼんでいる。

 このままどんどん小さくなり続けて、そのうちただのネズミに戻るか消えてしまうのではないか。

 しかし都合のいい期待は思わぬ形で打ち消された。

(否だ、我が主よ)

 頭の中で響いた声は無視することのできない強さを持っていた。恵は師の教えを受けるように心の耳を傾けた。

(あのものを形作る多くは実体にあらず。故に容易に揺らぐ。されどそれは戻るもまた容易ということ)

 言葉遣いが古めかしくてとっつきにくい。だがおよその意味は理解できた。

「放っておいたら、また前の大きさになっちゃうっていうこと?」

(然り。あるいはさらなる殻をまとうかもしれぬ)

「そんな」

 つまりもっとでっかくなるかもしれないということだ。嫌過ぎる。

「どうしたらいいの」

 恵はごく自然に尋ねていた。果たして本物の〈蒼の剣〉が語りかけているのかは知る由もないが、今はひたすらに信じるだけだ。

(玉を討つのだ。さすれば歪みし幻は消え去らん)

「玉を……」

 恵は目を凝らした。

 どうやら大ネズミはしだいに回復し始めているようだった。むやみに身を震わせることが減り、それまでぶれて薄く見えていた体が再び元のような、いや元よりもいっそう強固な質感を取りつつある。

 そしてその最も深い場所に、まるで闇が凝り固まったかのように暗く濁った部分があった。

 あれだ。恵は直観した。あれを斬れば魔物を倒せる。〈蒼の剣〉はそのためにこそある。

「やってみるよ」

 恵は足を踏み締めて立ち上がり、剣を構えた。

「絶対に……やってみせる!」

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