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キミのタマはボクのモノ 巻の一  作者: しかも・かくの
第四章 空ろなる聖所と初めての戦いについて
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第三十五回

「豪太!!」

 深雪が身を切り裂かれるような悲鳴を上げた。いつものしっかり者の姿はどこにもない。頑是ない幼児のように目に涙を溜めている。

 恵は倒れ伏した豪太を呆然と見つめた。間近で大鐘を打ち鳴らされたみたいに頭の芯が痺れていた。剣を使うことはおろか逃げることさえ忘れて、豪太が作った隙を空しく費やすばかりだった。

 自分のせいだ。真っ黒な後悔が胸を突き刺す。

 これではまるで封印されていた記憶の繰り返しだ。

 恵の犯した過ちはかつて両親の命を奪い去り、今また大切な仲間を贄にしようとしている。

 恵はきつく唇を噛みしめた。

 ──ううん、まだ間に合う。助ける方法ならある。

 豪太は生きているのだ。怪我はしているとしても、魂はしっかりと体に結びついている。傷はそんなに深くない。暫くすれば立ち上がることだってできる。

 そして恵の魂もここにある。

 だから大丈夫。

 あの魔物は恵を喰らうために現れた。

 ならば元の欲望さえ満たされれば、いずれどこかに行ってしまう。

 恵は瞳を閉じた。

 せめて最後にもう一回近くで顔が見たかった。

 自分がいなくなったら、少しは淋しがってくれるだろうか。

「ねえ、ふみねちゃん……」

「ん? ああ、恵、危ないからちょっと頭引っ込めてて」

「へ?」

 びっくりして目を開ける。すぐ傍に大ネズミがいるせいで姿は隠されているものの、その向こうから近づいてくるのんびりした気配は紛れもない。

「んじゃ行くぞー」

 大ネズミの後方で、文音は鉈を振り上げた。距離はまだたっぷり五歩以上も離れており、たとえ腕の長さが倍になったところで掠るはずもない。といって豪太のように突撃をかけるわけでもなく。

「ほいっ」

 投げつけた。狙いは適当に大ネズミの真ん中辺りだ。

 ゆるりとした弧を描いて鉈は魔物の方に飛んで行き、豪太の斬撃を跳ね除け続けた毛皮に達して。

 あっさりと突き抜けた。

“チュ、チューッ!”

 まさに絶叫だった。尻尾に火がついたかのごとき激しさで、大ネズミが身を捩る。ほとんど体がぶれて見えるほどの悶えようだ。

 文音は悪戯が図に当たったみたいに指を鳴らした。

「ほらな、ばっちりだ。恵、いいぞ、やっちゃえ!」

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