表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キミのタマはボクのモノ 巻の一  作者: しかも・かくの
第四章 空ろなる聖所と初めての戦いについて
34/42

第三十四回

「……あたた」

 背中を打った。激痛とまではいかないものの、咄嗟には起き上がれない。

「でもちょっと休んだらへいき、かな」

 手足の感覚は普通にあるし、大きな怪我はしてなさそうだ。ただし、すこぶる大きな問題が一つ。

“チュウゥー”

 生臭い匂いが吹きつける。恵の首筋のうぶ毛が残らず逆立つ。

「あ……あ……」

 未だ剣を警戒しているのか、大ネズミはいきなり齧りついてはこなかった。しかしただでさえ短い間合いは、寸刻みに縮まっていく。

 剣は一応まだ恵の手にあったが、柄もちゃんと握れていないていたらくだ。今の体勢からまともに振るえようはずもない。

 そして恵が進退きわまっていることを、大ネズミはついに見て取ったらしかった。

“チュ”

 ごちそうを前にした喜びに髭が震える。そこに宿るのは魔性の意思か、はたまた獣の本能なのか。どちらだろうと恵は救われない。

「どうりゃーっ、りゃっ、りゃっ、りゃっ、ちぇーいっ!」

 その時豪太が死に物狂いで大ネズミに打ち掛かった。全力を振り絞った一撃はあえなく弾かれ、しかしならばと二、三、四、五と重ね撃つ。

 大ネズミが身動ぎをした。豪太に対して初めて見せた、怯んだような反応だった。

 豪太は身に残った生気をかき集める。相手が何物だろうと関係ない。恵に仇なす存在は全力で打ち砕くのみだ。

「ちぇやぁーっ」

 渾身の打ち下ろしを放った。ついに大ネズミが顔を背けた。

 もう一発だ。それできっとこの化物を恵の傍からどかせられるはず。

 豪太は山刀をいったん引き付け、次の瞬間、撓めた力を一気に解放、体ごと突いて出る。

 大ネズミが背中を向ける。豪太はその後肢の付け根に山刀を叩き込み、弾かれそうになるのをそれ以上の力で押し返した。

「っぐはっ」

 胸郭が軋みを上げる。腰がよじれる。

 横から叩きつけられた大ネズミの尻尾に、豪太はひとたまりもなく吹き飛ばされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ