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キミのタマはボクのモノ 巻の一  作者: しかも・かくの
第四章 空ろなる聖所と初めての戦いについて
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第二十九回

「文音、どう? 何か分った?」

 期待薄ながらも一応深雪は尋ねたが、文音は案の定首を振った。

「別に変わったものはなかったぞ。崖にできた単なる窪みって感じだ。場所は絶対にここで合ってるはずなんだけど……こんなんだったかなあ」

 納得いかなそうな面持ちである。しかし幼い頃の印象が実際と異なっていてもさほど不思議はない。

 呼吸を整えた後、恵は改めて洞窟へと近付いた。今度はすかさず豪太が付き従い、深雪と文音も共に続く。

「……ここに、ぼくが」

 中に踏み入り、覚束なげに呟く。文音が言った通りどうということのない岩穴だ。動物の骨なども落ちてはいない。

「ねえ、ふみねちゃん、父さまと母さまは」

「おれは見てない。恵だけで手一杯だったし」

「そっか」

 恵は切なくうつむいた。だがすぐに背筋を伸ばす。

 両親は文字通り命を懸けて助けてくれた。幼い文音はかつて一人で、そして今また大切な仲間達と共にこの地へと来てくれた。

 今度は自分が頑張る番だ。きちんとありがとうを言うためにも、記憶の底の扉を開く。

 瞳を閉じる。世界が自分だけの闇に閉ざされる。暁に見た夢に意識を向ける。

 真っ黒い獣が迫り来る。母が恵を抱き締める。温もりが肌を伝わり身裡を満たす。

 眠れ、と母は言った。“しあわせなゆめ”を見ろと。

 押し潰さんばかりだった恐怖が水に散るように薄れ、固く厚い意識の殻が向こう側との通路を繋ぐ。今や露となった恵であるものの核へと何かが──。

「──たまうつし」

 ふっと言葉が口をついて出た。

 過去に聞いた憶えはない。もちろん意味も分らない。

 なのに自然と心に適う。まるでずっと昔から馴染んでいたかのように。

「ぼくの中に、入った?」

 己が身は魔物への贄として。

 ただ魂だけを愛しき子へと移し入れ。

 古の浄き所へと導いた。

 ──蒼い光を帯びた玉が、高く澄んだ音を奏でる。

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