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キミのタマはボクのモノ 巻の一  作者: しかも・かくの
第四章 空ろなる聖所と初めての戦いについて
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第二十七回

 豪太のこめかみに太い青筋が立った。

「文音、お前はそんな厄介な場所に恵を連れてきたのか」

 怒鳴り散らすのではなく、声音はむしろ低い。地鳴りのような迫力があった。

「いやだって恵が連れてけって……」

 文音が後退りしつつ言い訳するが、豪太は聞く耳を持たない。

「いいか、もしも恵が無事に帰れなくなるかもしれないと承知の上で、あえて踏み込んだというなら」

「そりゃあ豪太は怒るわよね。誰より恵が一番大事なんだもの。おまけでくっついてきただけのあたしのことなんて気にしないで。自分でどうにかするから」

「……深雪」

 豪太は物を喉に詰まらせたような顔をした。

「なあに」

 深雪は半ばそっぽを向いたまま応じる。

「もちろん深雪のことも大切だ。仲間だからな」

「へえそう。ありがと」

 深雪はにこりともしない。文音は他人事みたいに提案した。

「もう今日はやめにするか? おれはどっちでもいいんだけど。あと帰るのには迷わないから。たぶん」

「ああ、ここは引き返すのが上策かもしれん」

 豪太は考える素振りをしたが、実質結論は出ているのも同然だった。これ以上先に進めないのであれば、労を費やす価値はない。

「大丈夫だよ。このまま真っ直ぐ」

「ちょっと恵? いきなり……ひゃっ!?」

 ふいに一人で前に立った恵の袖を引こうとして、深雪は驚いて腕を縮めた。

 背に負っていた剣を恵が滑らかに抜き出した。正眼に構える。

 ごっこ遊びはともかく、恵がきちんと武術の習練をしたことはない。

 豪太のように心得のある者の目からすれば、重心の置き方から柄の握りにいたるまで、正すべき点は数多くある。

 なのに不思議と形になっていた。

 風が流れるように恵は剣を振り上げ、振り下ろした。切っ先が蒼の光を曳いて地に落ちる。

 ──ふつり。

 元よりそこには何もない。だが空が断ち切れる音を、確かに皆が聞いた。

 恵は元の通り剣を鞘に納めた。

「もう入れるようになったから。ふみねちゃん、案内してよ」

 どこといって外見に変化はない。年の割に幼げな容貌がいきなり成長を遂げているわけでもない。

「おう、そうなんだ。じゃあ行くか」

 話し掛けてきた相手を二度見して、文音は頷いた。

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