第二十四回
「ちょっと豪太、あんたまでどういうつもりよ」
深雪は苛立たしげに睨みつけた。
「文音はいいよ、でもあんたまでついてくことはないじゃない。家の仕事だってあるだろうし……あたしも庖丁研ぎお願いしたばっかりなのに」
豪太は動じない。
「俺の家は代々長の守り手だ。その息子である俺が、長の直系の恵を守るために行動するのは当然のことだ」
「それはそうかもしれない、けど」
反論がすぐに思い付かなかったらしく、深雪は少しく黙り込んだが、そのままあっさりとは引き下がらない。
「だったらあたしも行くから。あたしだって恵が心配だもん。いいでしょ、恵」
「え? う、うん、ぼく……わたしは、みゆきちゃんが一緒に来てくれるのは嬉しいけど」
「じゃあ決まりね。豪太もそれで文句ないわよね」
豪太は頷いた。謹厳な顔つきからは、内心の動きは窺えない。
「だったらおれも行く! おれもみゆのことが心配だからな!」
文音が高らかに宣言した。
「あんたは初めっから行くに決まってんでしょ。あんたが恵を連れてくんだから」
文音にしっかと握り締められた両手を、深雪はこめかみをひくつかせながら振り払った。
「分った、連れてくからさ。その代わり次はみゆがおれを連れてってよ。どっか二人っきりになれるところに。で、いいことしようぜ」
「あんた、いい加減に……」
「もうぼくひとりで行くからいいよ! ふんだ、ふみねちゃんのばかっ!」
深雪が鉄拳制裁を発動しようとした矢先、恵がぷいと顔を背けた。そして山の方に歩き出したものの、足取りはいかにも鈍い。
「恵、待てよ」
文音の声にぴたりと止まる。何かを期待しているかのような背中に、文音は大切なことを告げた。
「おまえ場所知らないじゃん。教えてやるよ」
恵は振り返った。
「……んむぅーっ」
手負の獣さながらに唸りつつの涙目に、文音は虎の尾を踏んだかのごとく後退る。
「あれ、気に入りませんでした? じゃあちゃんと地図書くから、ぐはっ」
「たいがいにしろ、たわけ者」
豪太の拳骨を脳天に喰らい、文音はひとたまりもなく地面に沈んだ。




