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キミのタマはボクのモノ 巻の一  作者: しかも・かくの
第三章 闇の奥の過去と新たなる冒険の始まりについて
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第二十一回

 恵が夢の内容を語り終える頃には、靄は既に薄くなり始めていた。なのに深雪はちっとも辺りが明るくなった気がしなかった。

「ごめん、恵、あたしも役に立てそうにないわ。あの時のことは何か騒ぎがあったぐらいにしか憶えてないし、親とか他の大人から話を聞いたこともない。どうせただの夢なんだから忘れなよ……って言ってあげるのは簡単だけど。そんなので納得できるぐらいなら、初めから悩んだりしないもんね」

 さりとていい知恵も浮かばない。もし本当に裏の事情があって長や里の皆が隠そうとしているなら、深雪ではどう頑張っても誰かから聞き出すのは無理だ。

「いいんだ。ぼくならへいき」

 恵は口の端を上げて笑顔を作った。

「ごうくん、みゆきちゃん、変な話につき合ってくれてありがと。でももう気にしないで。ぼくのことなんだし、ちゃんと自分で考えてみるから」

「恵、あんたって本当……」

「んがっ、みゆぎぢゃん、ぐるじいよ!」

「馬鹿なんだから。ぼく、じゃないでしょ。何遍言ったら分るの」

「わ、わだじ!!」

「はい、よろしい」

 深雪はつまんでいた恵の鼻を離した。

「あんたの過去だもんね。どうしたいのかはあんたが決めればいいわ。だけどもし今困ってることがあるなら、ちゃんと相談するのよ。あたしでも豪太でも、あ、豪太よりまず文音に。いい? ……ちょっと、何にやついてるのよ。もいっかいつねられたい?」

「ひゃっ、ごめん、だってみゆきちゃんが、さっきのごうくんみたいなこと言うからさ、ふたり仲いーなーって思ったら、つい」

「へ? あたしと豪太は別にそんないい仲とかじゃ……あるけど」

 恵の抵抗をかいくぐって再び攻撃体勢に入ろうとしていた深雪は、一転して頭を撫でくり回し始めた。

「分ってるじゃないの。いい子いい子」

「もう、またそんなふうにちっちゃい子扱いする」

 文句を言いつつも恵は満更でもなさそうだった。深雪はさらに可愛がってやりたくなった。

「よっす、ごうたー、あれ、みゆと恵もいる。お前らも行くの?」

「あら、文音?」

「ふみねちゃん」

 のんびりと歩いてきた文音は、背負ってきた竹籠を地面に置くと、薪割り台の上に腰を落とした。

「でも別にみんなで行く必要ないよな。それじゃあ恵がおれの代わりに豪太と山に入ることにして、おれとみゆは仲良く一緒に遊ぶってことにすればいいか。よし、決まり!」

「ねえ豪太、そこの斧貸してくれるかしら」

「構わんが、深雪には重いと思うぞ。何に使うんだ」

「馬鹿割り。ちょうど台の上に載ってるし。さ、行っくわよー、わっ重っ」

「みゆ待った危なっ、うひゃっ!?」

 斧を振り上げた深雪は体をよろめかせた。支え切れなくなった刃が文音めがけて落ちていく。文音は文字通り転がって逃げた。

「ちっ、しくじったわ」

「……みゆさん、それはしくじっておれに当てそうになったって意味だよね? 当てるのをしくじったって意味じゃないよね?」

「難しい質問ね……なんて冗談だってば。あんたがまた恵の気も知らないで下らないことほざくから。でもあんなに重いとは思わなかったわ。ごめんね」

「いいけど。お互い怪我もなかったしさ」

 文音は盾にしていた豪太の体の陰から出ると、安堵の息をついた。

「それより恵の気も知らないでって何? おまえらがここにいることと関係あんの?」

「あたしはただ庖丁を研いでもらいに来ただけ。そういうあんたは何の用なのよ」

「豪太と仕掛け罠確かめに行くんだよ」

 猪や鹿などの獣を捕えるためのものだ。「そうなの?」と深雪が尋ねると、「そうだ」と豪太は頷いた。文音は恵に顔を向けた。

「おまえはなんで?」

「ぼくは……ごうくんに、ちょっと」

「ふうん。で、豪太はもう出られるのか。恵の用が優先でもおれは全然いいけど」

「ひとまずは済んだ、ということでいいのか、恵?」

「うん。今すぐは無理でも、頑張って思い出そうとしてれば忘れた頃にふっと思い出せるかもしれないし……あれ、何か変。忘れちゃってたら思い出せない。でも忘れてなかったら思い出す必要ないし。んー、ふみねちゃん、ぼくどうしたらいいんだっけ?」

 恵は大真面目に頭を悩ませている面持ちだ。文音はそんな恵のおでこを指で小突いた。

「あはは、難しく考えるなって。要するに何が知りたいんだよ。おまえがうちに泊まりに来た時のおねしょのことか? おれがやったことにしたけどさ、本当はおまえが夜中に泣き出して……」

「わーっ、わーっ、そんなの知んないよ! 違くて! かあさまととうさまのことだってば! どうして死んじゃったのかとか、どうしてぼくだけ生き残っちゃったのかとか……」

 せっかくいつもの元気さを取り戻していた恵が、またみるみる沈んでいく。

「じゃあ行ってみるか?」

 深雪と恵と豪太は揃って文音を見た。深雪は心の中で文音の使えなさ加減を罵っていたのを止めて尋ねた。

「行くって……どこによ」

「あの時、恵がいたとこ」

「どうしてあんたがそんなこと知ってるわけ?」

「だって恵を見つけたの俺だし」

 固唾を呑む深雪に、文音は至極あっさりと答えた。

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