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キミのタマはボクのモノ 巻の一  作者: しかも・かくの
第三章 闇の奥の過去と新たなる冒険の始まりについて
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第二十回

「……このくらいなら大丈夫でしょ。すぐ目立たなくなるわ。豪太がちゃんと薬も塗ったんだし」

 そうよね、と深雪は傍らを仰ぎ見た。

 ああ、と豪太はしかつめらしく頷いた。

 まなざしは真っ直ぐ恵に向いている。深雪は微妙に苛立ったが、意地の悪いことを言うのはやめておく。だいたい豪太に非難されるべき点などない。

 さっきだって、ただ恵の頬の傷の具合を確かめようとしていただけだった。

 なのにひどい早とちりをした挙句、深雪は庖丁を振りかざして突撃したのだ。豪太と恵が唖然と見返す光景は、暫くは思い出す度のたうち回りたくなること必定だ。

 だがそれはそれとして、なおも重大な問題が残っていた。

「ところで、恵はどうして、豪太のところに?」

 声が裏返らないように気をつける。構える必要はない。おじいちゃんの用で、みたいな答えがあっさりと返ってくるに決まっている。

「えっと、それは……」

 だがなぜか恵は後ろめたそうに顔を逸らした。そして助けを求めるように豪太を見やる。豪太は恵の肩に手を置いた。

「決めるのはお前だが……深雪には打ち明けてしまってもいいんじゃないか」

 何それ。

 深雪のこめかみがひくりと震えた。まるで、二人はもう通じ合ってるんです、みたいな遣り取りではないか。

「めーぐーむ? 豪太といったいどんな内緒なことをしてたのかなー? 洗いざらい話してごらんなさい。ほら、早く。隠すと体に悪いわよ?」

「みゆきちゃん、顔が怖い……」

「まさかとは思うけど、ゆうべは一緒に寝た、なんてことがあったりしないわよね?」

「えっ、寝てないよ! だったらいいなとは思うけど、起きてすぐに来たんだもん」

「……へえ。だったらいいなとは思うんだ。だってさ、豪太、聞いた?」

 深雪は暗く湿った目で睨みつけた。豪太は広い肩をぎこちなく竦めた。

「この通り俺は体がでかいからな。父親といるようで安心できるらしい」

「そういうことなら、まあ……一応は良しとするけど」

 恵が幼い頃に両親を亡くしていることは深雪も当然知っている。完全に納得したわけではないにしろ、余り強くは突っ込みづらい。

 恵もいつもに比べると元気がない。

「だからっていうのもおかしいんだけど、ぼくのとうさまとかあさまのこと、ごうくんが何か知らないかなって思って、それで」

「それで、こんなに早くから? ちょっといきなり過ぎじゃないの」

「夢を、見たんだ」

 戸惑う深雪の前で、恵はいっそう思い詰めた風情になった。

「ごうくんにも、ちゃんとは言ってなかったよね。山の中で、真っ黒な獣に襲われる夢。だけど熊とか猪なんかじゃなくて……あれはきっと、魔物だった」

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