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キミのタマはボクのモノ 巻の一  作者: しかも・かくの
第一章 錆びた剣と四人の順列組合せについて
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第二回

「め……めぐむ、さん?」

 震え声でこちらの顔色を窺うのは、恵と同じ十二、三歳ばかりの少年だった。

 背丈もだいたい同じぐらい、いつもは活発にきらきらとよく輝く瞳が、今は恐々とした色を浮かべている。

「ふ、ふみねちゃん……違うから、これ、そういうんじゃなくて」

 夕日が当たっているわけでもないのに、恵の面は真っ赤に染まった。

「たまたま見付けて、もしかしたら昔話に出てくる聖剣かもと思ったとか、それでこっそり持って帰って隠れて修業しようなんて、そんなこと少しも考えてない!!」

「あー、はは、そういうことか。恵、剣士ごっことか好きだもんな」

 文音(ふみね)は気を緩めて笑い出す。恵はますます赤くなった。

「でももう暗くなるからさ。帰ろうぜ、ほら」

 文音は掌を差し出した。屈託のない仕種に誘われるまま、恵は手を重ねようとして、指先が触れた瞬間、文音とまともに目がかち合う。

 金縛りの呪文でも掛けられたみたいに、恵の体は固くなる。

「よ……」

「なんだよ、どうかしたか? ひょっとして足でも挫いたとか? おまえって昔からわりとドジなとこあるし。でもそういうのもおまえらしくて可愛いけどさ、あはは」

 文音が間近に顔を覗き込む。頬に少し息がかかる。

 限界だった。恵の頭からは湯気が立ち上っていたに違いない。

 そんなつもりはこれっぽっちもなかった。

 なかったのだけど、体が勝手に動いていた。

 恵は後ろに飛び退りつつ、両手に握り直した剣を横ざまに振った。錆びついた切っ先が文音の目の前の空間を通り過ぎ、前髪をふわりと揺らせる。

「よ、寄らば斬るっ! ……ぞ」

「……お、おう、そうか、分った、うん」

 唖然と口を開けていた文音は、やがてがくがくと頷いた。

「邪魔してすんませんっした。それじゃおれは先に戻ってますんで。めぐむさんもあんまり遅くならないようにしてくださいっす。じゃっ」

「あ……待って、ふみねちゃん、だから違っ……」

 蚊の鳴くような声で呼び掛けたところで、足早に遠くなっていく背中に届くわけもない。

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