第二回
「め……めぐむ、さん?」
震え声でこちらの顔色を窺うのは、恵と同じ十二、三歳ばかりの少年だった。
背丈もだいたい同じぐらい、いつもは活発にきらきらとよく輝く瞳が、今は恐々とした色を浮かべている。
「ふ、ふみねちゃん……違うから、これ、そういうんじゃなくて」
夕日が当たっているわけでもないのに、恵の面は真っ赤に染まった。
「たまたま見付けて、もしかしたら昔話に出てくる聖剣かもと思ったとか、それでこっそり持って帰って隠れて修業しようなんて、そんなこと少しも考えてない!!」
「あー、はは、そういうことか。恵、剣士ごっことか好きだもんな」
文音は気を緩めて笑い出す。恵はますます赤くなった。
「でももう暗くなるからさ。帰ろうぜ、ほら」
文音は掌を差し出した。屈託のない仕種に誘われるまま、恵は手を重ねようとして、指先が触れた瞬間、文音とまともに目がかち合う。
金縛りの呪文でも掛けられたみたいに、恵の体は固くなる。
「よ……」
「なんだよ、どうかしたか? ひょっとして足でも挫いたとか? おまえって昔からわりとドジなとこあるし。でもそういうのもおまえらしくて可愛いけどさ、あはは」
文音が間近に顔を覗き込む。頬に少し息がかかる。
限界だった。恵の頭からは湯気が立ち上っていたに違いない。
そんなつもりはこれっぽっちもなかった。
なかったのだけど、体が勝手に動いていた。
恵は後ろに飛び退りつつ、両手に握り直した剣を横ざまに振った。錆びついた切っ先が文音の目の前の空間を通り過ぎ、前髪をふわりと揺らせる。
「よ、寄らば斬るっ! ……ぞ」
「……お、おう、そうか、分った、うん」
唖然と口を開けていた文音は、やがてがくがくと頷いた。
「邪魔してすんませんっした。それじゃおれは先に戻ってますんで。めぐむさんもあんまり遅くならないようにしてくださいっす。じゃっ」
「あ……待って、ふみねちゃん、だから違っ……」
蚊の鳴くような声で呼び掛けたところで、足早に遠くなっていく背中に届くわけもない。