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キミのタマはボクのモノ 巻の一  作者: しかも・かくの
第三章 闇の奥の過去と新たなる冒険の始まりについて
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第十六回

「みゆきちゃんにって、どういう……」

 わなななく恵を置き去りに、文音はやけにいい笑顔で望みを語る。

「楽しみだなー。今日も触ってみて思ったけどさ、あいつもう結構おっぱい膨らんでるんだよな。直接ならもっと触り心地いいだろうなー」

「さ、触ってみて……? それに、今日も、って」

「あ、恵も一緒に入る? おまえだって揉んでみたいだろ。女のおっぱいっていいよな。つい目がいっちゃうもんな」

「ふみねちゃん」

 恵はおもむろに立ち上がった。湯滴が肌を滑り落ちる。一呼吸の後、体の前を覆っていた腕をそっと脇に下ろしていく。

「ん、なに?」

 文音は首を傾げた。恵の裸身に視線が向かい、少しして元に戻った。どうやら「つい目がいっちゃう」ような部分はなかったらしい。

 両掌いっぱいにお湯を掬う。

「ふみねちゃんの、ばかちんーっ!!」

「あばっ!?」

 文音めがけて渾身の力でぶっかけ、容赦なく突き飛ばし、即座に窓を閉め切る。

 そのまま暫らく息を荒くしていたが、いからせていた肩を落とすと、恵は浴槽の底に尻をついて丸くなった。

「ふみねちゃんのばか」

 ぺたんこの胸をそっと撫で、お湯に沈みながらこぼした悪口はあぶくになって消えた。



 のぼせた。

 身を以て知った。

 熱めのお風呂に浸かったまま、ぐるぐると甲斐なく悩むのは体に障る。

 恵は一つ賢くなった。つまりその分大人の階段を上ったわけで、成熟した女の色香を纏った恵に、文音がめろめろになる日も近い。

「はぁ……ふぅー」

 夕食もそこそこに、常より早く寝床に入った恵だったが、頭がぼんやりしているわりに無心の眠りはなかなか訪れなかった。

「や、だめ、やっぱし暑い」

 上掛けを足元に蹴り飛ばす。

「ううん、ちょっと寒いかも」

 だがそれから幾らも経たないうちに、冷気が襟首に忍び込むのを感じて、はがしたばかりの布団を引っ張り上げる。

 そのうちまたじんわりと汗が滲んできた。恵はうつぶせになって枕に頬を押し付けた。息苦しさを覚えたが、すぐに寝返りを打つのも怠かった。暫く我慢しているうちに体はどんどん重くなっていった。いつしか上掛けまでが妙に圧力を増していた。まるで獣にのしかかられているかのようだった。払い除けたくてももはや身動ぎさえままならなかった。ふらりと気が移ろいそうにそうになった。

 ──カハァ、クゥフォー

 ぞっとするような唸り声とともに、生ぬるく湿った風が、耳の裏に吹きつけた。

 捕まった。

 恐怖が背骨を這い上る。

 なに? なんで?

 頭の中で疑問が渦巻く。

 だが心の奥底では理解していた。

 言いつけを破って一人でお山に入ったりしたからだ。

 境の奥には魔物が棲む。行き逢えば魂を喰らわれる。

 ぬかるんだ地面に突っ伏した幼い恵は、小さな身を軋ませるようにして背後の絶望を振り返った。

 漆黒の獣が、闇をも呑み込むあぎとを開く。

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